しちろ
2023-04-29 20:46:29
1781文字
Public LOM
 

遺書

聖剣LOM。名無しの主人公の話。
過去に個人サイトに載せていた作品です。1700字。

 いやね、わざとじゃないんだよ。
 みっつ約束があったんだけどね。

 ひとつはダナエと空を飛ぶ蛇へ行くこと。
 ひとつはシエラと炎の竜を倒しに行くこと。
 ひとつは瑠璃か真珠姫と煌めきの都市へ行くこと。

 はい、ダブルならぬトリプルブッキングですよ。いちいち重要な局面ってのも狙ったわけじゃないんだよ、本当に。
 悪いけれど、行けなくなったんだ。
 でも説明しに行く時間もないし、みんな急ぎだってわかってる。
 仕方がないから手紙を書いた。

『行けなくなりました。ごめんなさい』



 ◆

 

 自分が出した三通の手紙。
 マイホームから近い順に手紙が届き、届いた順にマイホームにやってきた。



 一番乗り、ダナエ。
 彼女は怒っているだろうと思ったけれど……やっぱり怒っていた。
 ネコの獣人らしく階段を静かに上がってきたけれど、いつもとは気配が違った。多分、こちらを叱るか文句を言うかしようとしたんだと思う。
 ダナエは、おれに会って察してくれたらしい。
 彼女はずっとおれの横にいた。
 で、愚痴だとか決意だとかなんやかんや、けっこうな時間聞かされた。おれは、ダナエやマチルダと違って、人の懺悔を聞く仕事ではないはずなんだけどな?
 腰を上げた彼女は、最後にこう言った。
「アーウィンは私が止めるわ」



 二番手、シエラ。
 シエラの場合、怒っているどころの騒ぎじゃなかった。
 やはり裏切ったか! とか言って、いきなりこっちを抹殺しようとしたからね。あれは参った。
 ぎりぎり気づいて止めてくれたけど、危うく奈落へ落ちるところだった。
 ダナエと違って、シエラは何も話さなかった。
 なのに無言のまま、けっこうな時間いたと思う。
 彼女は決意を込めて立ち上がると、最後にこう言った、
「ティアマットは私が倒す。あなたは心配しなくていい」



 最後に来たのは、瑠璃と真珠姫。
 瑠璃はと言えば、例にもれずめちゃくちゃ怒っていた。
 ダナエやシエラと違って、いかにも怒り心頭でズカズカ階段を上がってくるものだから、すぐに分かった。
 結局、四人のうちで手紙の内容を信じてくれていたのは真珠姫だけだった。なんだよ、おれって信用なさすぎない?
 ほかの二人と同じで、瑠璃はやっぱり会って初めてわかったらしい。
 震える声で双子に話しかけるのが聞こえた。 
「いつから、だ……?」
「この間、急に倒れたんだ。なのに師匠ってば、うつるかもしれないから寄るな触るなの一点張りで……ぐす」
「もうぜんぜん応えてもくれないんです。お医者様の話じゃ、もう……
 ちょっとコロナ、聞こえてる。聞こえてるよ。
 もう、身体も動かないし目も見えないし口もきけないけれど。


 いやぁ。旅から帰ったところで急に倒れましてね。
 熱は出るわ血は吐くわ、あ~こりゃやばいな~と思ってたら、あれよあれよと悪くなっちゃったんだよね。
 やっとのことで手紙だけは書いたんだけど……うまくは伝わらなかったらしい。



『突然ですが不治の病になりました。もうすぐ死ぬので行けません。
 だから、

 ルシェイメアにはダナエが行ってください。
 焔城にはシエラが行ってください。
 煌めきの都市には瑠璃と真珠姫で行って下さい』


 
 瑠璃も真珠姫も、もしかして珠魅じゃなきゃ、泣いていたんじゃないかなぁ。
 最後に、瑠璃と真珠姫はこう言った。
「おにいさま……。わたしたち……いってきますね」
「心配するな、珠魅のことはオレたちがなんとかする。だからオマエは……
 はやく良くなれよって言えなくて、瑠璃は言葉を詰まらせた。正直なやつ。


 
「アーウィンは私が止めるわ」
「ティアマットは私が倒す」
「わたしたちいってきますね」
「珠魅のことはオレたちがなんとかする」


 なぁんだ。
 英雄なんていなくても、世界は動くじゃないか。
 未来へ進むじゃないか。
 そう思ったらうれしいような、誇らしいような。・
 少し……寂しいような。
 英雄がいなくても蛇は落ちるのか、赤い竜は倒れるのか、滅びゆく種族は涙を取り戻すのか。
 それは、わからないけれど。

 英雄のいない彼らが、どんな未来をつかんだのか。
 見届けたかったと、今になってそう思う。