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ろころころ
2024-10-27 23:07:51
12211文字
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Code:??? amṛta
滅びた世界というのは、何故、"何時だってこうも綺麗"なのか。
死者はやがて星になると言うが、こうして空を駆ける流れ星は、彼らの儚き命だったと。
そういうことだろうか。
「輝きの象徴である星であっても、何時かは寿命を迎え、全てを飲み込む地獄の大穴となる。おかしな話だろう。死してなお、死ねというのか?」
それとも、彗星として大地に辿り着いた星々は、
「次の世界の命
…
ということか?」
彼にはわからなかった。けれども、一つだけ言えることがあるのだとすれば。
この世界は、滅びてしまったということだ。
これで何回目だ?
この77回目の世界は、
既に100の数以上は滅びている。
足りない。何かが足りない。
世界を救う為に足りないのは、果たして何か。
自分がもっと強くなれば、
否、強さだけでは足りない。
知識も、情報も、想いも、全てが必要だ。
後ろを振り返る。本当は、振り返ることは好きじゃない。まるで未練があるみたいだから。
後悔、なんて無駄な行為を、彼は心の底から嫌っていた。
彼の後ろには、何時だって"彼ら"がいる。
何時だって、"彼ら"を守るために、自ずと前に出て、全てを受け止めてきたのに。
結局、"彼ら"は何時だって、最後は彼の後ろで、事切れていた。
その世界で、
死ぬ事の無い彼だけは、
何時だって立っていた。
例えどんなに強い戦士でも、決して強さだけでは何かを成し遂げることが出来ない。
それを、彼は知らねばならなかったのかもしれない。
Code:??? amṛta
頭が痛い。どんな風に痛いかと言うと、脳みそに釘打ちされているような痛み。ガンガンするのだ。この特徴的な頭痛の正体を、彼はよく知っていた。
「
………………
う
…
」
軋む身体に力を入れる。頭の重みに押し潰されていた腕はとっくに麻痺しているようで、ビリビリと痺れて感覚が無い。背中と腰は痛み、身体を起こすとポキポキと不快な音が鳴った。
ぼやける視界とぐらつく身体
…
嫌な予感を胸に、振り返る。
無様に手足を投げ出して眠りこける見知った顔が一人。床に転がる酒瓶が数本。
ほら見ろ、これだから振り返るのは嫌なんだ。
アムリタ
……
否、ウェンは心の中で悪態を吐いた。自分もその一部であることなど当たり前のように棚に上げて。
記憶の端に写った酒瓶、相変わらず絡みついてくる駄警官を酒瓶で殴り倒したところまでは記憶があるが
…
どうもそこから先は飛んでいるようだった。
「くそ、ころせ、ほんとうに
…
」
本日2回目の悪態であった。殺してくれなど、死なない人間だからこそお手軽に吐ける冗談である。
すっ転がっている阿呆を叩き起すか迷ったが辞めた。何故なら、視界の端にもう1つの影が動いたのを見かけたもので。
「おや、やっと起きたんですか
………
あの、大丈夫なんですか?その、私は酒についてはあまり知りませんけど、飲んだ瞬間、貴方も彼もおかしくなって
……
」
「
……………………
」
殺してくれ。
ウェンは本日3回目の悪態を心の中で吐いた。
その銀髪に鮮血のような瞳を持つ男、デストロイヤー
…
いや、ここではデストロと言ったか?まぁどちらでも良いが。とにかく彼は、かつてこの世界を滅ぼそうとしたウェンの天敵
…
であったが、ウェン達の努力の結果救われたこの世界に
…
何故か救助隊に、住み着くようになった男。そこに転がっているもう1人の銀髪、レオン・クローヴィスと瞳の色以外はそっくりな外見を持ち、彼の兄弟として救助隊に潜り込んできたらしい。
とどのつまり、ウェンは彼のことをまだ信用していなかったし敵だと認識していた。
その天敵とやらに?何だこの失態は。許すまじ。不死者以前に騎士としてあるまじき失態。
……………
ところでこの失態は何度目であろうか?そこまで考えて、ウェンは思考を放棄した。
「踏んでしまったら危ないので、割れた酒瓶は片付けておきました。刺さってないですか?
……
あ、そういえば貴方の場合、軽傷はすぐ治るんでしたね。便利な身体ですよ
…
この身体を得て余計にそう思います。人間って思ったより脆くて、すぐ壊れてしまうので
…
」
「や、やめろ」
「というか貴方っていつもマントやらローブやら着込んでますけど暑くないんですか?此処、室内ですよ?
…
あ、待ってください、服に何かついてま
…
」
「う、うわああああああああ!!!」
男の手がマントに触れる前に
……
逃げた。
ほぼ本能的だった。そもそもこのウェンという男は、日常生活における半分は本能で生きているので。まぁ本能的というのは彼の名誉のための言い回しであって、単に宿敵に失態を晒した事実に耐えきれずに逃亡しただけなのだが。
「えっ?ちょ、どこ行くんですか!
……
さ、酒って怖い
…
」
食堂には、そんな"破壊の意思"の呟きと、ここまでの騒動を得てしても床に転がったまま呑気に寝ている警察官の寝息が響いた。
*********
「飲酒は控えた方が良いと思うか?」
「煙草よりはマシ
…
だと思う」
精神は不健康極まりないくせに肉体はやたらと健康な幼馴染、アルバートに尋ねたところ
…
そんな的外れな返答が帰ってきた。
まぁ聞かずとも答えはYesだ。酒なんて飲んでも良いことは無い。水分不足、財布と臓器への負担。オマケに意識は飛ぶし全身痛いし失態晒すし。で、何故飲むのか?飲みたいからだが?
「あ、そういや
…
レオン知らない?」
「
……
さぁな、今頃床のシミにでもなってるんじゃないか」
「ええと、あれ、駅のガムの跡みたいな
…
?」
そこまでは言ってないが、とウェンは思った。
さて、そんなこんなで何だかんだ平和な日々が続いている。かつて見たあの夢
…
デストロイヤーがこの世界の"住民"となったことで、第2のデストロイヤーが生まれ、元使者の裏切りに対する鉄槌として天により世界が滅ぼされる──────こんな理不尽あってたまるかと、ウェンは色々と走り回り、調べてはとにかく先回りで対策しようと試みていた。
しかし、わかったことと言えばエデン大陸の中央部、コンケット地区とバイオ地区の間に存在する"プリズムタワー"の本来の名は"バベルの塔"で、この塔の頂上で天と接触できる可能性があるという話。夢の内容と照らし合わせると、納得はできるのだが、いざ向かってみても結局何らおかしいことは無いただの展望台であったのだ。
結局上手くいかず有用な手がかりも見つからず、疲れとストレスで酔い潰れた結果があれなのだが。何か余計なことを口走ったりはしていないだろうか。無駄が大嫌いな彼は普段であればこんな心配もしないのだが、今回に限っては事情が事情だ。折角平和になった世界で、仲間を巻き込む訳にはいかない。不死者は感情を感じ取る機能が薄れると言うが、作用するのなら"ごんぎつね"を読んだ後にきつねうどんを食べたいと言ってサイコパス扱いされた時ではなく、このタイミングでして欲しいものだ。実に使えない。
さて、そんなこんなでウェンはそこそこ困っていた。まぁ困ってるとはいえ実は大して考えていない
…
少なくとも赤い羽飾りを付けても募金と言われないようにするにはどうすれば良いかを考えるくらいの余裕はあるのだが
…
それはともかく折角救った世界が再び滅びてしまう危険に晒されるというのはやはり困る。滅びてしまえば今までの努力も運も全て水の泡になってしまうので。それを阻止するのがウェンの役割であったし、ウェンとしてもまだこの世とおさらばするのは早いと言うのが本音だ。やりたいこともやらねばならぬことも沢山あるのだから。
そしてそんなことを片隅で考えながらいつも通りの日々を過ごしていたある日のこと。
彼は、またしても夢を見た。夢を見るのは別段珍しいことでは無いが、見る夢と言えば世界の崩壊であった彼が、それ以外の夢を見るのは非常に珍しいことであった。
ウェンは見知らぬ場所にいた。上下左右も分からぬ、自分が生きているのかすら怪しく思える、名状しがたき場所。
しかし、これ自体は別に珍しいものでもない。ウェンが夢の中や精神世界でこうした"無"の空間に放りやられることは初めてでは無いし、実際に夢の中で何度も見届けた"世界の崩壊"の後の空間というのはこんな感じであった。
しかし、その場所に自分以外の人間が複数人いるのは初めてだった。
彼らの顔をウェンは知らない。顔を見ようとしてもぼんやりとモヤが掛かったようにハッキリとせず、精々性別と何となくの年齢がわかる程度であった。そこには何十人もの若者から年寄り、男から女、様々な人間がいた。
彼らはふわりと、ウェンの方を向いた。その光景は通常であれば不気味に思えるかもしれない。しかし、彼らの行動からは悪意も不気味さも感じられず、唯一感じ取れるものがあるとすれば
…
善意、好意
…
親が我が子を見守るような温かな眼差し。
そのような想いを向けられることに慣れない彼は、滅びた世界よりも居心地の悪さを感じた。しかし逃げることは出来ない。ただその想いを、真っ直ぐ受けねばならない。これはなんという拷問だろうか?不死身だからって何でも耐えられると思ったら大間違いなんだぞ。
しかしその間にも彼らはその温かな眼差しを逸らすことはなく、そして優しく語り掛ける。
ふわふわと、辺りから響く柔らかな声達。
バラバラで、様々な言葉が聞こえるはずなのに、何故かすんなりと頭に入ってくる感覚。
"君は、一人じゃないことを忘れてはいけない"
"君が助けたいと思う人が沢山いるように、君を助けたいと思う人も沢山いる"
"世界の滅亡は君だけの責任じゃない。だから、世界の救出も君だけが背負う問題じゃない"
"多くの破壊者は、不死者は、絶望し、諦めることを選んだ。君たちは、それを選択しなかった"
"忘れてはいけない、君は一人でないことを"
──────────────────
────────────
──────
「ほんとうに、そうだろうか?」
朝一の独り言であった。
同室の男
…
隊長のフレイムは、今は出張でいないため、実質この部屋はウェン1人のものと化している。ルームメイトが居ない部屋での呟きはただの虚しい独り言。ただただ静まり返った部屋に寂しく響くだけである。彼はそんなことを気にする質では無いのだが。
さて、今回の夢はなんとも不気味なものであった。何が不気味かって、明らかに不気味と感じさせるような状況でありながら不気味と感じることが一切無かった事が不気味なのだ。
まぁとりあえず本日も何かしらの任務があるのだろうし、起きてしまったからには仕方ない。早く顔でも洗って久しぶりに本棚の掃除でもしようか
…
と思い立ち上がろうとするが、何かに手を引かれる。少し驚きつつそちらを見ると、
腕に、何か刺さっていた。
刺さっているのは針で、貼りには管が繋がれていて、その管を辿ってみると、液体がぶら下げられた袋が目に付いた。なんだこれ。
「
………
ウェンくん、起きたん?」
不意に声がする方を見る。ナース服の女性が悲しそうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
救助隊医療班の管理者である彼女、アリシアは底抜けに明るいことで名が知れていた。そんな彼女がこのような表情を浮かべるということは、それほどにまで不都合で悲しい出来事があったのだろう。それは大変だ。救助隊として、目の前に出された問題は解決せねばならない。人を簡単に、今すぐ笑わせるには、どうすれば良いだろうか?
「ふとんがふっとんだ」
「はぁいウェンくん、シーツ変えようなぁ」
ダメじゃないか。誰だ、ダジャレは世界を救うと言った奴。クローヴィスか?まぁおそらくそうだろう。間違えていても構わない、一発殴らねば気が済まない。後で覚えていろ。
「ウェンくん、うち、なんで怒ってるかわかるか?」
「え、怒ってるのか?何故」
「怒ってるんよ!めーっちゃくちゃぷんぷんのカンカンに怒っとるんやわ!」
そうだったのか。ウェンは思った。
眉と瞳の端を下げていたので悲しんでいるのかと思ったが、どうやらあれは怒りの表情だったらしい。人間の感情表現とは実に解せない。人により異なる上に確実な答えも無いもので。ルービックキューブを足の指で揃える方がまだ簡単と言えるだろう。
「うちだけやないで?みんなにも聞いてみいよ?」
アリシアはそう言って扉の向こうへ顔を出し、招くような仕草をした。そうして複数の足音と共に、見知った顔がズラズラと入ってきた。
「なんだなんだ、尋問か?」
「違うけど?」
アルバートの
…
が消えた。なんと珍しい。きっと明日は空からマラサダが降るに違いない。must構文だ。have to?あちらは好きじゃないので却下で。
「アルバートが断定形を
…
?こ、これは奇跡です!今日の夕飯はバナナマフィンですね!」
「えっ?あたしのファミリーが去勢されちゃうの!?」
「なんのはなしだ?」
一気に騒がしくなった部屋。彼らの様子を気に留めることなく、エステルが話しかけてくる。
「ウェンくん、体調はいかがですか?」
「問題無い。生きているぞ」
「は、判断基準が最低限すぎるかと
…
」
そうだろうか?とウェンは返した。実際にウェンは怪我や病気で死ぬことは無いのだし、仮に再生が間に合わず命を落としても生き返るのだから体調などわりかしどうでも良いのだ。強いて言うなら、任務中にその体調不良が集中力を削ぐのであればそれは問題だが。今は任務中では無いので。
そこまで考えて、そういえばと思い出した。
「何故俺は点滴など繋がれているんだ?お前たちはここで何をしてるんだ」
「おぼえてないのか?うぇんはおちたんだ」
「
……
落ちた?」
「
………………
あのさ」
何から?と聞く前に、アルバートが真剣な眼差しでこちらを見つめるものだから、何となく吸い込まれるように黙ってしまった。
「その
…
お前のポジションは知ってるから、お前にとっては"自分が傷ついても仲間を守ること"が正解なのかもしれないけど
……
えと、俺たちは、皆揃って救助隊であることを、忘れないで欲しい」
「ふむ、戦隊モノは6人揃わねばならないとかそういう話か。理解したぞ」
「納得してるところ悪いけど
…
全然違う
…
」
アルバートはため息を吐いた。
その横から、はい、と小さく手を挙げてアピールするレオンが覗く。
「ウェンは覚えてないみたいなので、真相を教えてさしあげます。そうです
…
あれはまだ副隊長の独り言が始まって間もない頃のこと
…
」
「その話は長いか?」
「いいえ全然?貴方、サルスベリから落ちたんですよ。滑って」
サルスベリから落ちたんですよ?滑って???
「丁度その場に居合わせたデストロが貴方が頭から落ちてそこそこな出血で気を失うのを見かけたようで、半泣きになりながら私達の元へ助けを求めに来たんです。愉快過ぎて私の腹は見事にシックスパックですよ?責任取ってください!」
「はいはいはい!検証:サルスベリで滑るってことはウェンくんは猿だった説〜!!!」
「さるもきからおちる
…
っていうのはゆうめいだから、気にすることはないとおもう」
「み、皆さんその、そのくらいに
…
」
こいつら、好き勝手言いやがって。
そもそもだ。あまり記憶に無いのだが何故サルスベリなど登ろうとしたのか。人間よりも木登りが得意な猿ですら滑る木に登ろうだなど無謀すぎる。流石の自分はそんなに阿呆では無い。おそらく。
「何も覚えてないって顔してますね。ルニさんに追われていたの、覚えていません?確かマラサダとバナナマフィン、どっちが良いか、と。あぁちなみに、左手の暗黒物質はマラサダ、右手の暗黒物質はバナナマフィンだったそうですよ」
「両手に炭の間違いだろ」
「わかりました。ルニさんに伝えておきましょう」
「このド畜生。土に埋まって死ね」
とりあえず経緯としては、ルニにマラサダ(炭)とバナナマフィン(炭)の地獄の選択肢を迫られどうにか逃げた先がサルスベリでそのまま名前の伏線を回収して落ちて大量出血沙汰
…
と。なんて馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいが、ルニの石炭は馬鹿に出来ないのだ。あれは、ウェンの不死身ですら貫通する威力を持った特級呪物なのだから。
「
……
そういえばデストロはどこに行ったんだ」
「彼ですか?
…
彼は、貴方の弱ってる姿を見たくないとかなんだとかで自室に篭ってますよ」
「そうか。ならば"奇遇だな、俺もお前に無様な姿など死んでも晒したくは無かったよ。互いにウィンウィンな良い関係性が築けそうで何よりだ"
…
と伝えておいてくれ」
「ウェンウェンな関係?」
「ウィンだよ、らーら。しょうりのウィン」
「一応さ
…
助けてくれたんだから、もうちょっと優しくしてあげても
…
」
「断るんだぞ」
その後の出来事、現在の任務の進行状況を確認し、暫く安静にしておくこと、明日の任務は自分達が変わることを伝えて彼らはその場を後にした。
その後、戻って来たアリシアに、彼女の怒りの理由として"サルスベリに登り見事に落ちたこと"を提出したのだが見事に違ったらしい。正解は、"自分の頑丈さを過信して無茶なことをした事"だと、彼女は述べた。
彼女の出題した問題は、とても難問だった。
*********
「貴方と、話に来ました」
その日の夜。ウェンの部屋に1人の男がやって来た。例の青年、デストロイヤーである。
「
…………
救助を呼んでくれたことには礼を言おう。それで?クローヴィスに伝えたはずだが?」
「
………
"奇遇だな、俺もお前に無様な姿など死んでも晒したくは無かったよ。互いにウィンウィンな良い関係性が築けそうで何よりだ"
……
でしょう?」
「何故そこまで覚えているんだ
…
気持ち悪いな
…
」
「肉体は人であれど知性は異なりますから。何処ぞの棺桶を振り回している物騒なゴリラと同等の扱いはやめていただけますか?」
「成程な。棺桶を振り回している物騒なゴリラとは異なり知性を持っている繊細な御使い様は、死にかけのゴリラを見ると半泣きになると」
「
…………
別に泣いてませんけど」
この男に対して、彼をまだ敵の可能性を含め警戒しているウェンが抱くのは、このような感情を向けられるのは気持ち悪い
…
という感想であった。
何せこの男は、少し前まではこの世界を滅ぼそうとしていたのだから。それはもう大悪党だったわけだ。天の命令とはいえ、立派なウェン達の敵であり、そこには悪意が無かったとしても、滅亡を目論んだ事実は揺らがぬ現実であるのだ。
それなのに?自分達が必死に救った世界に此奴はやって来たと思ったら、"美しい"と?
ふざけるな。図々しいにも程がある。
美しいと思うなら壊そうとするな。
そして壊そうとしたものに縋り付くな。
結局のところ、ウェンにはこの破壊の意思の繊細さを理解できないし、繊細な破壊の意思にはウェンの強さを理解出来ないのだろう。敵対している時であっても、きっと彼は目の前でウェンの首がすっ飛ぼうものなら心を痛めるのであろう。そしてウェンはそうではなかったところまでが一セットである。
「で?話とは何だ。簡潔に済ませろ」
「
………
ええ、そうですね。2つほど。
…
1つ目は、貴方が日頃から見ている、夢のことです」
「
………………
」
「貴方は、私が世界滅亡のトリガーになる時空を知っているのでしょう。それなのに、なぜ私を殺さないのですか?」
ウェンは知っている。世界が滅びる未来の中には、この男が"新たなデストロイヤー"と"天なるもの"に唆されることで世界を滅ぼしてしまった、そんな閉幕があることを。
何故か。それは天が、世界が、この男を"デストロイヤー"では無く"エデン大陸の人間"として認めてしまったからだ。そうして、デストロイヤーの役割を持つ存在を失った天は、新たなデストロイヤーを生み出した。そちらが何とも凶悪な奴だったのだ。
話が逸れたが、ここからの推測でウェンは1つの答えを導き出していた。
「ならば、お前が死んだ場合はどうなる?
…
結局の話、"デストロイヤー"がこの世界から消滅することに変わりは無い。お前を殺せば、その分早く、滅びの刻が訪れる」
「
……
つまりこの世界の存命のために、私は死んではならない、と。それが貴方の結論ですか?」
「ああ。そして俺達は、お前の肉体と"デストロイヤー"としての認識を守らねばならぬらしい。実に解せない話だな」
解せない。解せないが
…
世界を守り抜くにはこの方法が一番現実的である。何せ、デストロイヤー本人はこんなにも身近にいるのだし、誰かを守るというのはウェン含めた救助隊の得意分野である。正しくそれを、生かすべき時なのだ。生かさねば、猫に小判、豚に真珠、アリゲーターガーにダイアモンド、と罵られても文句は言えないだろう。
「デストロイヤーとしての認識
…
それは、どういう解釈で?」
「お前はここ暫く"破壊"を行っていない。今後もこの状態が続けば、世界や天はお前を"デストロイヤー"では無く"エデン大陸の住民"だと認識するようになる。そうなればこの世界には新たなデストロイヤーが誕生し、それによって世界は滅びの道を辿ることとなる」
「
…………
」
青年は考え込むようにして黙った。
そして目を逸らしつつ、ぽつりと呟いた。
「その、壊す力が、弱まっているんです。ですが今ならまだ、此処とは別の世界を壊す力くらいは
…
」
「今のお前にそれが出来るのか?」
「え?わ、私は
……
」
確実に無理だろう。彼は知ってしまったのだ。人の温かさを。仲間がいることの楽しさを。世界の美しさを。その証拠に珍しく、戸惑う様子を見せていた。なんともわかりやすい。
そもそもこの破壊の意思は、本来はその役割に向いている人格で無いのかもしれない。そのように生まれてきてしまったから、抗うことが出来ず、天が正しいと自身に言い聞かせて動いてきた。それは真面目で優しい彼だからこそ、歩んで来た道とも言えるだう。
しかし、実際に自身の目で、身体で、その幸せを味わってしまっては
…
もう元には戻れない、彼はそんな所まで来てしまっていたのだ。
「仕方ない、500歩譲ってやる。一週間周期で俺を壊せ。話は以上だ。さっさと帰れ」
「は?
…………
正気ですか?」
「今更だな。今までの世界の生死の争いで何度死んだと思うか?半分以上はお前のせいだが」
"死んでも生き返る"、それが不死者の力である。つまり、彼らは不死者と言いながら"死ぬ"ことは避けられない。それを知ったお人好しな仲間達は、決して復活するのだとしても死の恐怖や痛みを得ることに変わりは無い
…
そう言ってウェンの無謀な作戦は尽く却下してくる。
きっと彼もその質だろう。役割のために隠していただけで元々そういう性質を持っていたのかもしれないし、彼らに影響された節もある。
しかし、それであっても見知らぬ何処かの世界を壊すよりは、遥かにマシな話なのだ。まず現実的に考えて、今のデストロイヤーの力で他の世界を破壊させるには少なくとも長い時間を要するであろう。そもそもデストロイヤーというのは直接世界を破壊へ導くのでは無く、1人の人間を精神的に追い詰め操作し、破壊の力を持つ人に接触することで世界を滅ぼしている。つまり、嫌でも時間はかかる。その間に、エデン大陸が滅びることだって否定できない。
そして何より、例え見知らぬ人間しかいない他の世界だったとしても、意味のわからぬ天の理不尽で滅ぼされるのは、ウェンは許せなかった。
「
……
前々から思っていましたけど、世界の為に、何故そこまで?」
「それが俺に与えられた"役割"だからな。心を痛めながらも、天に与えられた命の為に世界を壊していた
…
お前なら身に覚えのある話なはずだが」
「
………
けれども、私は、その役割を捨てました。その結果、貴方に負担が掛かっている」
「何だ。わかっているならさっさと俺の言うことを聞け。定期的に俺を壊せ、お前は死んでも死ぬな、そして早くこの部屋から出ていけ」
「ちょっと待ちなさい!何でそんなにせっかちなんですか貴方は
…
」
「少しでも早くお前と二人きりという拷問から脱出したいからだが?」
そんなウェンの態度にデストロイヤーはため息をついた。
が、それから今度は言いずらそうに口を開く。
「
………
貴方、私の事が嫌いな割には別の世界を滅ぼせと言わない辺り、お優しいんですね」
「現実的に考えて時間が足りない。加えて気に病んだお前の自殺が世界滅亡の要因にでもなったらお笑い草だろう?身近に実例がいるだろう?アルバートと言うんだが。人間の精神というのは俺が思っているよりも脆いらしい」
「それは貴方が図太いだけでは?」
「黙れ雑魚メンタル。いいか?死ぬなよ?死んだら殺すぞ。俺の役割はこの世界を守ることだ、お前がこの大陸の人間となるのなら、世界滅亡を防ぐためにも俺はお前のことを守ると誓うよ。不本意かつ解せないが」
「
………………
」
「話は終わったな。早く帰れ、刻むぞ」
お帰りはあちらだぞ、と出口の方をご丁寧に指で指し示した。
「はぁ
…
全く
……
お望み通り出ていって差し上げますけど
………
最後に一つだけ」
デストロイヤーは帰り際に、少しだけ立ち止まると、ウェンの方を振り返り言葉を紡いだ。
「私が言える話では無いでしょうが
…
貴方はもう少し、他者を信じてみるべきです。彼らは貴方が思っているよりも弱くは無いですし、貴方が想像しているよりも貴方のことを大切に思っています。
…………
貴方 が傷つくことで、彼らを傷つける場合だってあるのですから」
そう言って、男は立ち去った。
はい、彼が出て行くまでに30分かかりました。
**********
結局のところ、ウェンはあまり頭でごちゃごちゃ考えることは得意でないので、その日は考えている内に気づいたら意識はすっ飛んでいたようだった。
結局その後も、デストロイヤーの話も夢で出会った見知らぬ彼らの話も、ハッキリと理解は出来ていない。
彼の言う通り、仲間や世界を守るために傷つくことが彼らを傷つけているのかもしれない。
彼らは自分からの信用が無いと感じているかもしれない。
それでも、だ。
ウェンは世界の為に戦わねばならないのだ。
結局のところ現状がどうであれ、彼がこの役割を持つことは揺るがない事実。
だから、ウェンは今のスタイルを変える気はなかった。
彼らから愛想尽かされ捨てられても構わない。
何故ならウェンだって、世界の為に彼らを捨てる選択肢が必要であれば、それを選ぶ覚悟ぐらいとうに出来ているのだから。
結局この世には、誰も殺さず、誰も見捨てず、道徳的にも論理的にも正しい決断だけをして来た英雄なんて存在しない。
光あるところに影ありというが、実際に光だけの部屋に一人でも人間が入れば影は生まれるのだから。人は人である以上、影にはなれど光になることは出来ないのだ。
それをわかっていたから、ウェンは今まで戦ってくることが出来た。
自分以外の仲間が全て死にお前は彼らを捨てて逃げたのだと言われても、
それが無意味であることを知らず自分を庇って死んでしまった人がいたとしても、
自分の身体が見ていられないくらい原型を留めていない惨状になって行くのだとしても、
自分以外の人間が誰一人いない世界の終末を見送ったとしても──────
それでも彼が、彼自身を見失わずに、彼の正義を貫いてこれたのは、
全て、その事実を知っていたからである。
愚かでありながら自分たちの正しさを信じ込んでいる人間に、守る価値があるのかと聞かれれば無いのかもしれない。
それでも、ウェンはこの世界が好きだったし、どんな手を使ってでも守りたいと思っていた。
例え、血で血を洗うことになれども。
罪をもって罪を裁くこととなれども。
武力で正しさを貫くことになれども。
世界の為に、彼の知る世界を犠牲にしようとも。
彼は、彼の信じる正義のみを貫くのだ。
「おい、デストロイヤー」
「
…
なんですか。貴方からとは珍しい」
「俺にはよくわからないぞ」
「
………………
」
彼は何も返事をしなかった。やはりそうか、そんな空気を感じたが、それに屈するウェンでは無い。
「わからないから、悪人は全て裁くし、勿論お前も、彼らも、この街も、世界も。全て守る。
それで良いだろう?」
「あぁそうでしたね、貴方って引くほどの脳筋でした。すっかり忘れてましたよ。昨日の話も、貴方には非常に理解し難い退屈なものだったでしょう
…
」
「うん?なんだ?死ぬのか?」
例えどんな困難にぶち当たろうと、
彼が最も信じるのは彼自身で、
彼の道標となるのは、
彼の正義と世界を救う使命なのだ。
それが、ウェン・バラタ
…………
死知らずの英雄、"アムリタ"であった。
Fin.
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