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溶けかけ。
2024-10-27 21:40:36
2035文字
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ほぼ日刊
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きみの瞳に映る世界
妖怪が視える女の子フリーナと地元の神様ヌヴィレットの和風ファンタジー。
ヌヴィレットの中の人が名前を返すアニメ見てたら浮かびました。
「美味しそうな匂いがする」
フリーナの頭上のすぐ上、だらりと涎を垂らす異形の者。妖、または妖怪と呼ばれる者たちは、視える彼女に強い執着を示すのだ。
「ひっ
……
」
フリーナは走り出す。目指す場所は神社か寺。急げ、急げ、と必死に足を動かす。目的の神社が見えてほっと一息ついたフリーナは足元にある木の根に気づけなかった。
「ああっ
……
!」
足元を見れば地面から僅かに突き出た木の根にすっぽりと爪先が嵌まり込み、抜け出せなくなっていた。追い付いた妖が、がぱりと口を開けた。
「いただきまぁ
……
す」
フリーナの小さな体躯など丸々と飲み込んでしまいそうなほど大きな口が恐ろしくて、思わずぎゅっと目を瞑った。
「境界が騒がしいと思って来てみれば
……
」
第三者の声が響く。不思議な気配は妖とも人間とも違う。
「ここは貴様のような妖の来るところではない
……
私の気の変わらぬうちに帰るがいい」
落ち着いた声でありながら、男性の声には妙な強制力があった。フリーナを食べようとした妖がドシン、ドシンと音をさせながら帰って行く音が聞こえる。
「怪我は?」
「あ、えっと
……
」
「足が抜けないのか
……
少し待っていろ」
男はフリーナの足元にしゃがみ込むと靴から足を外した。
「これでいいだろうか?」
彼はフリーナに靴を返すと興味がなさそうに踵を返す。
「ま、まって!」
フリーナは男の和服の裾を握った。
「
……
何か?」
「そ、その!
……
あああ
……
ありがとう!」
男が僅かに目を見開いて、それから細めた。フリーナの頭に手を置いた。
「
……
君が、二度と来ないことを祈っている」
さぁ
……
と一陣の風が吹き抜けた。気がつけばフリーナは、元いた小学校の前に戻っていた。
今にして思えば、山奥の神社とは言え、草履に和服、羽織を着た美しい男性が人間のわけがないのだが。
「それでね。皆、僕を嘘つきって言うんだ
……
嘘なんてついてないんだけどな
……
」
「それを何故、私に言うのだ
……
友達なら他を当たりたまえ」
この神社の神様──ヌヴィレットは呆れたように溜息をつくとフリーナの額に指を当てた。
「帰りたまえ。君に私は必要ない」
「また来たのか
……
」
ヌヴィレットが溜息をついた。何度か通う内に強制的に転移させられることは少なくなったように思う。
「あはは
……
ごめんね
……
つい、ヌヴィレットに会いたくなるんだ
……
」
フリーナはランドセルを置くと彼の隣に腰掛けた。
「────この傷は
……
?」
ヌヴィレットがフリーナの頬の傷に手を伸ばす。彼女は体をビクつかせると視線を反らせた。
「ちょっと転んだんだ。あ、大丈夫だよ!手当ては済ませたからね」
「そうか
……
それならば良いのだが
……
」
ヌヴィレットは伸ばしかけていた手を引っ込めると小さな頭を撫でた。
「早く帰りなさい。暗くなれば、それだけ妖たちも活発になるのだから」
「
…………
うん。そうだね。そうするよ」
フリーナはランドセルを背負うとヌヴィレットに手を振った。
「ばいばい、ヌヴィレット。また来るね」
「なるべく、来て欲しくはないのだが
……
気を付けて帰りなさい」
「はーい!ありがとう!ヌヴィレット」
ヌヴィレットはフリーナの姿が見えなくなるまで見送ると振っていた手を下げ、下げた方の手をじっと見つめながら、先ほどのフリーナの様子を思い出す。頬の傷に触れようとした際にフリーナが見せたのは怯え。それから視線をそらし、ヌヴィレットの手から逃れるように僅かに後退する体。
明らかな拒絶。
それは、彼女がここに通うようになってから初めてのことだった。
「おーい、嘘つき!今日はどんな嘘をつくんだ?」
「ちょっと男子ぃ、フリーナちゃんが可哀想じゃん」
フリーナをからかう男子児童に咎めるように女子児童の声が飛ぶ。一見すると庇っているように聞こえる台詞だが、その口元がひくひくと弧を描いていることをフリーナは知っていた。
「ちょっとこっち見ないでよ!」
どん、と押されて小さな体がよろめいた拍子に、背後にあった机を巻き込んで倒れた。
「ちょ
……
ちょっと!やりすぎよ!?」
「い、いや
……
そんなつもりは
……
」
「先生に怒られたらどうするの!?」
「わ、私見てただけだからっ
……
」
フリーナはわーわーと俄に騒がしくなる室内をものともせずに立ち上がると転がった机を直し、切れて血を流す口元を袖で拭うと何事もなかったかのように自身の席へと戻り、授業の準備を始めた。
キンコンカンと予鈴が鳴り、他の子どもたちも慌てて席へと戻っていく。教師が教室に入ってきて、「あら、皆、今日は早いわね。いつもこうなら助かるんだけど」と言いながら教科書を広げた。キンコンカンと本鈴が鳴り、「きりーつ」と間延びした日直の声がして、子どもたちが立ち上がる。
ヌヴィレットはそんな一部始終を信じられない物を見るかのような視線で見つめていた。
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