三毛田
2024-10-27 19:24:12
1078文字
Public 1000字
 

93 03. 強く手首を掴む

93日目 己のも、彼のものも

 前の俺は、どうしていたのだろう。
 震える手首を強く掴んで、それから呼吸を整える。
 大丈夫。と言い聞かせ、丹恒に会う前に福はランドリーに突っ込み、何度も全身を綺麗にして。
 それでも、鉄の臭いは鼻の奥に残ってしまう。
「おかえり、穹。おい。髪の毛はきちんと乾かせ……穹?」
 振り返った丹恒は、俺の様子の違いに気づいたようで。
「何があった」
 問いかけにすぐに答えられない。
 軋む骨の感触が、音が、手から、耳から離れず。
「丹恒……
「暖かいものをもらってくる。布団に座っていろ」
 行かないでもすがることもできず、情けない声しか出ない。
 モンスター以外に手を出してしまった。襲われかけていた子どもを助けようとした、ある意味事故だった。
 警邏には感謝されたが、バットがぶつかった瞬間が今でも頭から離れない。
「穹、飲め」
 甘い香り。受け取って口に含むと、ココアだとわかり。
「無理に話さなくていい。が、まずは心を落ち着かせろ。いいな」
「うん」
 頷くと、隣に座って俺の方に頭を乗せて。
 こういうところ、甘いんだよな。と思いつつ、甘ったるいとも言えるココアをゆっくり飲む。
「パムが慌ててく作ってくれたが、マシュマロ入りにしてくれた」
「ふふ。嬉しい」
「パムも、帰ってきたばかりのお前の様子がおかしいと気付いていた」
「そっか。心配させたか……
「後で顔を見せておけ。そうすれば、安心するだろう」
「うん。そうする」
 甘ったるいと思っていたけど、つま先までゆっくりと温かさが染み渡っていくのが分かった。
「丹恒」
「どうした。俺にできることなら、何でもするが」
「キスしたい」
 そう告げると、一瞬眉を寄せて。それから、仕方ないなというように俺の頬を両手で包んでキス。
「甘いな」
 眉間にしわを寄せて、俺を睨む。
「俺、すぐにしてとは言ってないし」
 俺が拗ねちゃうけど。
「そうだな。そうだった。ただ」
「ただ?」
「お前に元気がないのは、俺も、少し寂しというか、困惑する」
 手のひらを合わせ、指先をくるくると回しながら。俯いているから、表情は見えない。
 それでも、俺のことを考えてくれているのが嬉しくて。
「穹?」
 布団の上に押し倒す。
 俺の表情に気づいたのか、驚いたように目を見開いて。
「穹。流石に、強く握られると困る」
「ごめん」
 気づかないうちに、彼の手首を強く握っていた。
 そっと離す。痕になっていなければいいが。
「もう一回キスして」
「ああ」
 首に腕が回され、唇が重ねられた。
 すごく甘い。