柚子子
2024-10-27 11:04:44
8666文字
Public ベリーベリー
 
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爆豪とA組バンド(+8)

爆豪長編『ベリーベリー』の番外編。本編最終話のネタバレを含みます。

苗字名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前 ときどき雑誌の取材なんかで、チャージズマとは高校時代から親しかったのかと、若干下世話なノリで聞かれることがある。まあ、別に仲悪くはないし、というか仲が悪かったらこんな近所に事務所構えたりしないでしょ、と思いつつ「普通です。ウチのクラスみんな仲良かったんで」と答えるのが、デビュー以来お決まりの返答になっている。
 そういう縁で……というわけではないけれど、爆豪と話す機会は、在学中はまあまあそれなりにあったと思う。爆豪は上鳴と仲が良かったし、とくに二年に進級してからの爆豪は、共有スペースにたまっていることも多かったから、自然、ウチも爆豪と話す機会は少なくなかった。
 とはいえそれは、あくまで高校在学中の話。プロデビューして社会人になってからは、爆豪と個人的に接点を持つこともなくなった。上鳴から爆豪の話を聞く機会はあったから、なんとなくの近況のようなものを知ってはいたけれど、本当にそれだけ。
 だから、こうして爆豪から呼び出されている今も、どうして自分が呼び出されているのか、まったく意味が分からなかった。
 この場に呼び出されているのは、上鳴とヤオモモ、それにウチ。個室の居酒屋は事務所のちかくで、元雄英生が飲み会をするときにはよく利用する、御用達のような店だ。
 上鳴以外でいうと、ヤオモモとは今でもちょくちょく会っている。そのヤオモモも、今は少しだけ緊張した面持ちをしていた。
 注文を終え、ドリンクの最初の一杯が供されたところで、上鳴が言った。
「つーか今日、常闇はいいのかよ?」
「常闇には別で声かけて、おまえらがよければって返事もらってる」
 すぐに爆豪が答える。
「さすがかっちゃん、根回しはえー」
 訳が分かっていないウチとヤオモモと違って、上鳴はどうやら今日の会の趣旨を聞かされているようだった。もとはといえば、ウチに今日の集まりの話を持ってきたのも上鳴だ。このふたりの間では、すでに話がまとまっているらしい。
 最後に爆豪に会ったのはいつだったっけ、と思い返す。たしか爆豪の快気祝いという名目で、集まれる人何人かで集まったのが最後だったはず。それだってもう結構前の話だ。
 ともかく、まずは今日の目的を聞かないことには始まらない。説明されるのをのんびり待って、いつまでも蚊帳の外でいられるほど、ウチは気が長いわけじゃない。
「えーと、ちょっと聞きたいんだけど」
 そう口火を切ると、上鳴と爆豪がウチのほうへと視線を向けた。高校時代よりも多少やわらかくなったとはいえ、爆豪の眼差しには人を威圧させるだけの力強さがある。昔だったら圧し負けてただろうなと思いつつ、ウチは言葉を継いだ。
「この場で話が分かってないのって、ウチだけ?」
「私もですわ、耳郎さん。突然爆豪さんから呼び出されたと思ったら……
 ヤオモモがおずおずと言い添える。その言葉に、やっぱり、と思った。上鳴は事情を聞いている。ウチとヤオモモには、きっとこれから話があるのだろう。
「このメンツ見て、どういう人選か分かんねえ?」
 上鳴が、なぜかにやにやしながら言う。爆豪が意図して集めたメンバーであることには違いないのだろうけれど、なぜか上鳴のほうが嬉々として話を進めようとしている。
「メンツって……、A組?」
「それはそうだけど、そうじゃなくて、もっとさぁ」
「文化祭のバンドのメンバー……でしょうか」
「お。ヤオモモ正解ー」
 思慮深げなヤオモモの声に、あっぱらぱーの上鳴の声が重なった。爆豪はまだ何も言わずに、ジンジャーエールのグラスをあおっている。
「え、待って。まさか本気でそんな基準なの? そりゃあ、ウチだってそれは考えたけど」
「耳郎それは後だしじゃん!」
「いや、だって爆豪がわざわざ呼び出すのに、そんな基準だと思わなかったんだもん」
「たしかに、耳郎さんのおっしゃる通りですわ」
 ヤオモモの加勢を心強く思いながら、ウチは爆豪のほうへと視線を定めた。
「高一のときの一日限りのバンドのメンバーを呼び出す理由なんて、爆豪にある?」
 静かに燃える、爆豪の真っ赤な瞳。
「理由ならある」
 短く言った爆豪は、そこで一度息を吐きだしてから、声を低めて続けた。
「もう一回、あん時のメンツで演奏してえ」
 その言葉の意味を、ウチは最初、うまく理解できなかった。
 爆豪から飛び出すセリフとしては異質な、まったく思いがけない言葉。
 驚いたのはウチだけではなかった。隣のヤオモモも、口元に手をあて目をまるくして絶句している。ただひとり事情を聞かされていたらしい上鳴だけが、爆豪と肩を並べて、今この場で嬉しそうににやにやと笑っていた。
「どっ、どういう風の吹き回し!?」
「ま、そういうリアクションにもなるわな。俺も最初話を持ちかけられたとき、耳郎とまったく同じリアクションになったし」
 いや、そりゃあそうなる。ウチや上鳴じゃなくたって、たいていの人間はこういうリアクションになるはずだ。
 高一当時、爆豪はたしかにドラムの演奏で、最高のパフォーマンスを披露してくれた。けれど、だからといってウチが音楽好きでいるのとは違い、爆豪がその後も何らかの形で演奏を続けていたという話は、まったく耳にしない。
 実際、そんな事実はなかったと思う。あれは一度きり、一日切りのステージのための練習で、それが終わってしまった以上、爆豪にはバンドを、というかドラムを続ける理由なんかなかった。
 そもそもの話、二年に進級してからの爆豪は、大戦で負ったケガのために右腕が使えなくなっていた。ドラムの演奏など、望むべくもない。爆豪に配慮して、というだけではないにせよ、二年と三年の文化祭ではなんとなく、ステージ演奏をやろうとは誰も言い出さなかった。
 それが今、どうしていきなり。右腕が昔のように使えるようになったからといったって、それだけでウチらに話を持ってくるようなやつじゃないことは、長い付き合いだからよく分かっている。考えられる理由があるとすれば──
「もしかしてそれは、爆豪さんがご結婚されたことと、何か関係があるのでしょうか」
 ヤオモモが遠慮がちに問う。そう、それ。考えられるとしたら、それだ。
 なぜか少しだけ緊張して、ウチは爆豪の返事を待つ。やがて、爆豪がゆっくりと、ことの経緯を説明し始めた。

 爆豪が、というか大・爆・殺・神ダイナマイトが電撃結婚の報で世間を騒がせたのは、ほんのひと月ほど前のことだった。これまで爆豪はスキャンダルはもちろん、プライベートにふれるようなニュースのひとつすら出したことがなかったから、その結婚報道は文字通り、電撃となって世間を震撼させた。
 相手が一般人であることを理由に、爆豪の結婚相手の氏素性は、今日まで一切公表されていない。とはいえじわじわと漏れ出していく情報を拾い集めれば、その相手が爆豪の高校時代の元恋人で、中学からの知り合いである苗字名前ちゃんであることは、特に爆豪の身近な人間には容易に察せられる。
 あの爆豪が大事にしていた、高校時代の恋人。大戦のあと別れてしまったふたりが、どういう経緯でふたたび付き合い、入籍にいたったのかは、ウチら元A組のメンバーですら知りえない。そもそもいつ復縁して、どう付き合っていたのかということすら、いまひとつ定かではない。
 それでも、破局している期間まで含めて、ふたりが思いあっていたからこそ、こうして電撃結婚ということになっているんだろう。何にせよ、おめでたい話だ。爆豪が名前ちゃんを大事にしていただけでなく、名前ちゃんが爆豪のことを大切に思っていたことは、ほんのわずかな薄い関係しか名前ちゃんと持っていなかったウチですら、見て感じるものがあった。
 そのふたりが復縁して、結婚して。 
「で、結婚パーティーをするから、名前ちゃんにはサプライズで演奏を披露したい、と」
 ウチの言葉に、爆豪は「そういうこった」とうなずいた。偉そうな態度この上ないけれど、これが爆豪の標準であることは分かっている。爆豪が本気で偉そうにしようと思えば、もっと傲岸不遜な感じになるはず。けれど今はそうでないということは、少なくとも今の爆豪には「お願い事をする」という程度の意識があるのだ。
「爆豪、そういうことするタイプだったんだ……
「うんうん、それもな、俺もまったく同じこと言った」
「うるせえ」
「ちなみに常闇もまったく同じこと言ってた」
「まじでうるせえ」
 悪態をつきながら、爆豪はジンジャーエールのグラスに手を伸ばす。そのしぐさから、爆豪が柄にもなく照れているのが分かって、ウチはますます驚いた。
 ちらりと隣のヤオモモを見る。ヤオモモは、ウチの視線に気が付いて浅くうなずいた。驚くばかりのウチと違って、ヤオモモは何か考え込むような表情をしている。まるで爆豪からのこの依頼に対し、快諾したいができかねて困っているとでもいうような。
 ウチの考えを裏付けるように、ヤオモモが悩みのにじんだ声音で言う。
「爆豪さんからのご依頼ですし、私としてはもちろんお受けしたいのですが……
「練習時間の捻出が厳しいって話か」
 すぐさま爆豪が切り返す。爆豪のことだから、問題になりそうな部分については、事前に回答を用意しているのだろう。そのあたり、爆豪は学生時代から用意周到だ。
 学生時代と違って、ウチらは現職のヒーロー。少し前までに比べれば、ヒーローの仕事はぐっと減ったけれど、だからといって暇を持て余しているというほどではない。
 特に、犯罪制圧をメインでやっている爆豪と違って、ヤオモモの活動はもっと多角的かつ広域だ。練習の時間が確保できないかもしれないというのは、見て見ぬふりできない問題だった。
 もちろんヤオモモにだって、爆豪の結婚祝いに華を添えたい気持ちはあると思う。それでも安請け合いしないヤオモモのことが、ウチは好きだった。
「本番……、つーかパーティーやんのは半年ちかく先になるだろうが、それでも厳しいか」
「半年……
 ヤオモモの表情が、少しだけ明るくなった。思ったよりも長い期間を、爆豪は準備のための期間として提示している。どうあれ無理を強いることのない、爆豪らしい依頼の仕方だ。
 依頼を受けた場合に必要な練習について、頭のなかでざっと考える。
 もちろんブランクはあるものの、一度は本気で取り組んだ曲と楽器だ。半年もらえれば、それなりに形にはできると思う。むしろ一番心配なのは右腕を長らく使えなくなっていた爆豪なのだけれど、そこは本人がいけると思っているからこそ、こちらに話をしているはず。
 ヤオモモに代わって、今度はウチが爆豪に問う。
「半年もらえるなら、そりゃあどうにかなると思うけど。でも、そもそも結婚パーティーなんでしょ? あんたらもう籍入れてるんだよね。それなのに、そんな先延ばしにしちゃって大丈夫なの?」
「それは問題ねえ。元A組呼ぶっていえば、そのくらい先じゃねえと集めらんねえってことで納得すんだろ。どのみち式やんのもその辺の時期だしな」
 爆豪いわく、とにかく入籍を急いだことで、結婚にまつわるいろんなことが、入籍後のタスクとして山積しているらしい。喫緊のタスクは片付いたものの、とくに期限のないものについては先延ばしにしているらしく、式もパーティーもまだまだ先のこととして、爆豪と名前ちゃんのあいだでは話がまとまっているという。
 一通り説明してから、爆豪は言った。
「別に、無理なら無理で断ってくれていい。こっちとしちゃ、受けてもらえりゃラッキーくらいの話だ」
「ちなみに、ウチらが断ったらどうすんの」
「パーティー自体はふつうにやる。どうせ余興も何もねえようなゆるい会になるだろうから、サプライズがなきゃないで問題ねえ」
 あいつもどうせこだわんねえしな、と爆豪。ウチの記憶のなかの名前ちゃんは、そこまで適当な感じではなさそうだったけれど、とはいえそれも高校時代の一時期の印象でしかない。実際のところは爆豪のほうが当然よく知っているのだから、爆豪がそれでいいというのなら、問題はないのだろう。
 ヤオモモも「そういうことでしたら」とつぶやく。完全に納得しているわけではなさそうだけど、ひとまず実際的な懸案事項についてはクリアになった、というところなんだと思う。
 ウチも同じだ。ぱっと思いつく範囲では、断る理由を思いつかない。けれどなんとなく、完全にすっきりもしない。
 一番それらしい言葉を当てはめるのならば「爆豪らしくない」だろうか。結婚で浮かれてるのを差し引いても、やっぱりこの依頼は爆豪らしくないように思う。考えれば考えるほど、どうしたって違和感が残る。
 そして、このすっきりしない気持ちのまま爆豪の依頼を受けるのは、あんまり良くないことのような気がした。
 別に、悪い結果を招きそうだとか、そういう話じゃない。ただ、消化不良の部分を残したままでは、こちらのモチベーションにかかわる。そうなれば、結局は爆豪にとってもよくないだろう。爆豪はやるならとことん、最高を目指したいたちだから。
 気付けばこの場の空気はなんとなく、ウチの様子をうかがうようなものになっていた。ヤオモモの質問に爆豪は答えた。それで一応、ヤオモモとしては「受ける」ほうに傾いているのだと思う。上鳴ははなから爆豪の側。あとはウチの返事しだい、ということだ。
 視線を上げ、爆豪を見る。待ち構えていたような爆豪の視線につかまって、ウチは少しだけ圧された。それでも自分を奮い立たせる。爆豪は依頼をしている側。決定権は、ウチらのほうにある。
「あのさ、一個だけ聞いていい?」
「んだよ」
「言っちゃ悪いけど、こういうのって爆豪の柄……じゃ、ないよね。自分のためじゃなくて、自分の恋人……奥さんのためにウチらに頼み事とか、あんまり爆豪っぽくないじゃん」
 言葉を選ばず言うと、爆豪の眉根がぐっと寄る。
「だからなんだ」
「オファーするからには、意気込みみたいなの、聞かせてほしいんだけど」
 ぶふっと上鳴が笑った。ウチは爆豪の横の上鳴を睨む。今のは全然、笑うようなことじゃない。誰かのために演奏をしたいというのなら、そこにはそう考えるだけの相応の思いや考えがあるはずだ。まして、言い出したのが爆豪ならば尚更だ。
 一緒に演奏をするのなら、爆豪のその思いや考えについて知っておきたいというのは、ウチからしてみれば当然の要求だった。
 爆豪も、きっとそのあたりのことは察したのだと思う。しばらく渋い顔をしていたけれど、やがて重い口を開いた。
「約束してんだよ、あのクソ根暗と。そのうちドラムでもなんでも聞かせてやるって」
「それは、高校生のときのお話、ですわよね」
「高一ンとき。文化祭、部外者は入れなかっただろ」
 爆豪の言葉に、ウチはああ、と思わず声をもらした。
 たった一度きりバンドを組んだ文化祭で、ウチらの演奏は学外の人間に聞いてもらうこともなく、そのステージを終えた。そのことについては多少残念には思うものの、心残りというほどではない。そもそもがあれは、同じ雄英生に向けての演奏だった。聴いてほしいひとにはちゃんと聴いてもらって、ちゃんと届いた。
 けれど、それはそれとして、生演奏を聴けなかった学外のひとたち、特に保護者から「聴きたかったね」と残念がる声が聞こえるというのは、当時からちょこちょこ耳にしていた。そういうことを言ってくれているひとのなかに、爆豪の彼女が含まれていたことも知っている。
「どうせあいつはもう覚えちゃいねえし、俺が覚えてるとも思ってねえと思う。けど、あいつが忘れてようが俺は覚えてる。覚えてる以上、無視したまんまにすんのは気分悪ィだろ」
 そう言って爆豪は、これで終いと言わんばかりにジンジャーエールを口に含んだ。ウチはといえば、その話のあっさり具合に、肩透かしをくらったような気分だった。
……それだけ?」
「何を言わせてえんだてめえは……
「いや、なんか……
 てっきりもっと、喜ばせたいとかびっくりさせたいとか、そういう理由なのだと思っていた。あるいは名前ちゃんに、自分の凄いところをアピールしたいとか。
 爆豪の動機が存外シンプルなことにウチは驚いていた。けれど、言われてみればそれはたしかに、ものすごく爆豪らしい動機に思える。
 約束を守りたい。名前ちゃんがもう覚えていないかもしれない約束でも、それを捨て置いておきたくない。爆豪はいつでも完璧を目指し、最善を尽くしている。
 それは仕事にかぎった話ではなくて、たぶん、名前ちゃんとのことでもそうなのだ。周りから見れば信じられないような電撃結婚も、爆豪なりに最善を尽くした結果なのかもしれない。一切手抜き無しで追い込まれる名前ちゃんは、もしかするとたまったものではないのかもしれないけれど。
 と、そんなことを思っていたウチに、爆豪は大きく舌打ちを打つ。あ、ウチが返事を渋っていると思ってるのか。そう気付き、返事をしようとしたところで、
「あいつのために俺ができることは、全部かなえてやりてえ。そのために力を貸してほしいって、ここまで言やァ満足か!?」
 爆豪が吠えた。ひゃあ、と思わず声をもらして両手で顔をおおってから、ウチはいそいで「分かった分かった、ありがとう」と返事をする。これ以上、爆豪渾身のキマりきった愛情表現をぶつけられては、こっちの身がもたない。
 なんだか急に室温が上がった気がする。ふと見れば爆豪は耳が赤く染まっているし、なぜか上鳴までめちゃくちゃ赤面している。ヤオモモも口元を手で覆って、感極まったような目をしていた。その気持ちは分かるけれども。
 ほとんど手つかずだった自分のドリンクに口を付ける。火照った身体に、冷たいドリンクが心地よく感じられた。グラスをテーブルに戻し、ウチは大きく息を吐き出した。
「はあ、もう、急にぶっこんでくんのやめてよね」
「てめえが言わせてんだろうが!!」
「そうだけど、そこまで言わなくてもよかったっていうか……。ウチがどきどきしちゃったじゃん。爆豪って、なんか一途だよね……
「だよな」上鳴がうむうむ頷く。
「付き合ってた期間と別れてた期間も入れたら、九年? 十年ちかく脇目も振らずに、だもんなぁ」
「普通だ、普通」
 照れ隠しなのか、本当にそれが普通だと思っているのか。爆豪の耳はすでにいつも通りの色に戻っていて、その真意ははかりしれない。
「後学のために教えてほしいんだけど、爆豪はなんで結婚しようと思ったの?」
「なんでんなこと、てめえらに話さなきゃなんねんだ」
「いいじゃん。協力してあげるんだから、そのくらい教えてよ」
 ウチが食い下がると、爆豪はぐぬぬと言葉に詰まった様子を見せた。一応、自分が依頼する側の立場だという自覚は持ち続けているらしい。別にそんな自分を下げなくても、こっちはもう演奏するつもりになっているのだけれど、とはいえこれはこれで面白いので黙っておく。
 ウチら三人の視線を一身に集めた爆豪は「理由なんてそんなねえよ」とぼやいてから続けた。
「根暗はな、あいつはまじで、俺の人生にひとつの益ももたらさねえ、まじで役に立たねえ人間なんだ」
「え」
「有益じゃねえだけならまだマシだ。あいつは役に立たねえだけじゃなく、人を苛立たせるのが病的にうめえし、俺のことも舐め腐ってやがる。基本的に、十分以上喋らせるとむかついてくるから、会話は極力五分で切り上げる」
「まじでなんで結婚したんだよ」
「というか、名前ちゃんってそんな感じの子だったっけ……?」
 高校時代に少し話した印象では、名前ちゃんは爆豪の恋人とは思えないようなふつうの、本当にふつうの可愛い女の子だったはずだ。ここまで扱き下ろされなきゃいけないような子ではなかったから、爆豪が必要以上に悪く言っているのはなんとなくわかる。これも一種の照れ隠しなのかも。
 それはそれとして「結婚の決め手」というテーマで、ここまで悪口がぽんぽん飛び出してくるって、それはそれでどうなんだろう。やや引き気味で聞いているウチらにかまわず、爆豪は居丈高な調子で鼻を鳴らした。そして、
「けど、そんなクソむかつくやつでも、いねえよりはいた方がマシなんだわ。いいとこ数えて選んでんじゃねえ、カスなとこ並べて眺めて、その上でこいつだと思った。で、あいつにもその気があった。あとは現実的なあれこれ、差し引き勘定したらこうなった。そんだけだ」
 今度こそ爆豪は口をつぐむ。これ以上は何があっても口を開かないという、強い意志を感じる仏頂面だった。
 ウチら三人は、目配せして顔を見合わせあう。ここにはいない常闇も、もしここに同席していたら、きっと同じようにしていたことだろう。
「やるからにはさ、いい演奏したいね」
「そうですわね」
「爆豪が昔言ってたやつなんだっけ? あのアレ」
「音で殺すってやつね。さすがに花嫁のこと音で殺したらまずいけど」
「そんくらいのテンションで十分だ。根暗をぶっ殺せ」
「ていうか結婚したのに、まだそんな呼び方してんの? 変わんないなぁ」