NEO
2019-10-17 01:20:35
2652文字
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はっぴーはろぅいん

第30回炭善版夜の描き書き一本勝負、参加作。

▼はっぴーはろぅいん★

だれかたすけて〜
おとしあながあるよ〜
こころをくじいた〜

はじめまして全国のかわいこちゃん、ぜんいつ南瓜です。
お見苦しいところをお見せしてごめんね。何しろ罠に嵌ってしまったもので。
茹だるような暑さも来年へ去り、薄着だと肌寒く感じるような風が吹き付ける今日この頃、みんなはどうお過ごしかな?
過ごしやすくなってきたよねぇ、自分磨きにもってこいの時期だよね!
というわけで俺は、なななんと山へ森林浴に来てました★
なんてったって俺は南瓜。山の美味しい空気を吸って、木漏れ日の光をいっぱい受けて、小川や滝なんかあればマイナスイオンもらっちゃったりして、清水があればお肌に磨きを掛けられるし、露を飲めばより甘く美味しくなっちゃえるだろ〜!?
あぁー俺ってなんて罪な南瓜男!!これでカワイイ姫かぼちゃちゃんたちにもモテちゃうんじゃない?!最高じゃないの〜
という未来予想図を描いてたら足元が疎かになっちゃうのはしょーがないよね?俺は未来しか見てないからさ!地面にぽっかり空いた落とし穴なんか気付くわけねぇよね。誰だよこんなの掘ったやつ。埋めて?ここは山道です。
そんなわけでさっきから助けを呼んでるんだよ。でもなでもな、人通りの少ない早朝を狙って山登りしたせいか、誰もいないの。誰よりも早く来て一番いいとこ取りしてやろうと入れてきた気合が仇となったみたい。どどど、ど〜しよ〜このまま助けて貰えなかったら、俺、ここで乾燥して干し南瓜になっちゃう……ぐすっ。
──俺は昔っからよく泣く南瓜だった。水っぽくなるから泣くなとじいちゃんに何度も怒られたっけ。干したらちょっとは水分が減って美味しくなるかな?兄貴ならお前みたいなのは干からびてちょうどいいんだよって鼻で嘲笑うかもね。悲しい。
水っぽい味の薄い南瓜なんて、どこの八百屋も門前払いで、露天商からも毛嫌いされて、せめてどこぞの民家の軒下にさもはじめから置いてありました顔で居座ってたら喜ばれるかと思ったけど逆に気味悪がられた。捨てられるのが怖くって言い訳もせずすぐ逃げちゃったから、嫌われるのも当然かもね。
親がいない俺は品種も分からないから南瓜仲間から見向きもされねぇし、付き合ってきた七つの姫かぼちゃちゃんたちから愛想尽かされたのも、南瓜のくせにやたら耳が良くって身の詰まり具合の善し悪しが分かっちゃうもんだからつい、折々で口を滑らすからなんだよね。うん、仕方ないと思う。
……俺は、俺が一番自分のこと好きじゃない。ちゃんとやらなきゃっていつも思うのに、怯えるし、逃げるし、 泣きますし。変わりたい。ちゃんとした南瓜になりたい……
でもさァ、俺だって精一杯頑ったよ!!漬物になる前、元高級野菜だったじいちゃんは、俺のこと絶対見捨てなかったしね。いつか美味くなれるから頑張れって。泣いても逃げてもいい、ただ旨くなることを諦めるなって……だから、今日まで頑張ってきたのに。なのに最後こんな穴の中でぼっち干乾びるの!?嘘でしょ!?嘘すぎじゃない?オェッ
誰かの役に立ちたかった。美味しくなりたかった。皆の空腹を助けられる美味しい南瓜に俺は……でももうだめだ……涙も出なくなってきた……悲しい……たった一人でもいいから、誰かの為になりたかっt「俺に掴まれ!!!」

?! だ、誰なの?俺を引っ張るのは??

「さぁ力を込めるぞ、せぇーのっ」

ぎゅううぅうう───スポンッ!!!!

俺は謎の人物による究極の力技で見事穴から脱出することができていた。

「うん、みたところ外傷もないし、顔色も悪くない。大丈夫そうだな!」
「あ、あ、ありが………?!?」

御礼の途中で喉が詰まった。目ン玉が飛び出た。だって助けてくれた相手がどー見ても獰猛な山の獣だったんだもの。
でっかい三角耳、モフっとした長い尻尾、肉球のある前足に鋭い爪が隠されてることを俺は知ってる。にこやかに笑ってるけどその牙、洒落にならんからね。トゲトゲした首輪が見るからに怖い。もうやだ。何なの?折角助かったと思ったのに、これ絶対やばい奴に見つかっちゃってるじゃないの!!

「ギャ───ッ!!狼!!食べられてしまう!!!」
「むっ。俺にはちゃんと名前があるぞ!たんじろ狼だ」
「はァ──ッなるほどね!!俺はぜんいつ南瓜だよ!!降ります!!!」
「いや穴に戻ろうとするのはやめるんだ、ぜんいつ。ちょっと落ち着け」
「狼を前にして落ち着いていられるか〜〜っ?!」

しかし流石に俺を穴から引き抜いただけあって、相手は馬鹿力の持ち主だった。がっしと胴を掴まれてしまった俺は、碌に身じろぎも出来なくなり諦めてその場にへたり込む。たんじろは俺の蔓をギュムと掴んだまま会話の態勢に入る。ねぇやめて、それ、引っ張られると痛いよコイツ、逃がす気ねぇな。

「安心してくれ、俺はベジタリアンなんだ。食べるといったら木の実、草の芽、熟した果実、花と蜜から根っこまで色々だけど、人は食わないよ」

好物はタラの芽だ!と鼻の穴膨らませて自慢げにいってるけど、全然安心できねぇからね。俺は南瓜なんだぞ?お前の守備範囲じゃねぇか!?

「あんまりいい匂いがしたから、いつの間にか此処に来てしまったんだ。生まれた時から山に住んでるけど、こんなに甘い、ふくよかな匂い、初めて嗅いだよ。優しい香りで、とても幸せな気持ちになる……お前みたいな瓜は初めてだ」

やめてー!!この時期もっと味な方いっぱいいるでしょ!?栗さんとか柿先輩とか甘藷先生がいるじゃないの?!松茸様や秋刀魚旦那や梨お嬢も差し置いて何で俺?絶望しかないっ!!!

「一つ、聞きたいことがあるんだが……ぜんいつ、」

たんじろは神妙に目を伏せる。頬が染まり、声が籠もった。照れくさそうに指で蔓を弄ぶが、心音は軽やかに弾んでいる。たんじろ、何?この音。強くて暖かくて柔らかくて甘い、泣きたくなるくらい優しい音がする……なんて良い音なんだろう。誰かが誰かを好きになる音によく似てる。いいな。いいなぁ。嗚呼、俺、今までずっと知らなかった。こんな好い音……誰にも聞かせてもらったことなかったなぁ。

「今が、食べ頃じゃないかな?」

 やっぱり食うんか〜〜〜〜いっ!!!!

ぜんいつ南瓜の叫び声は、夜更けまで止むことがなかった。



▲お題【秋の味覚】

20191017_NEO@20neo14
第30回炭善版夜の描き書き一本勝負