NEO
2019-07-17 23:26:17
1454文字
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朽草

第二十七回炭善わんどろわんらい参加作。


ぶつり、

嫌な音。皮、肉、血管が千切れ、吹き出す生暖かな液体に眉を顰める。歯を食いしばり叫ぶのは堪えるが、脂汗までは止めることができない。強烈な痛みに目眩を覚えるも、刀を握る腕は確かに鬼の頸を刎ねた。
夜陰に紛れ懸命に止血の呼吸をする。一息、二息。もう鬼の残党はいないだろうか?叢に散る残骸が日輪刀に照らされ宙に霧散してゆく。聞こえない。呻きも叫びも。最後の腐臭も闇へと消えた。どうやら片が付いたらしいと安堵する。

刀を収め、ふぅと息を吐いた。止血は滞りなく済んだが、念の為手拭を強めに巻いておくことにする。気が散っていたせいで危うく致命傷を負いかけたが、何とか無事生き抜いた……これで、約束を果たすことができる。

背負い箱に眠る妹の妨げにならぬよう、竈門炭治郎は、静かに、けれど足早に夜道を戻ってゆく。

──思ってもみかったのだ。誘いを断られることが、これほど心に重く伸し掛かる不安になろうとは。いや、実際には嫌がられたわけではない。ただ待ってほしいと先延ばしにされただけだ。けれど何だったろう、あの不可解な匂いは?隠し事、秘事、罪悪感や良心の呵責を思わせる酸っぱい匂い。彼には秘密がある。そして俺はそれが、とてつもなく知りたいと思っている。知りたい。善逸。どうして話してくれないんだ

我妻善逸の言葉は、正確にいうとこうだ。
『行くよ。行くけど、二三いや、あと五日ほど待って』

これが昼日中の散策程度ならば俺も素直に頷いた。けれど彼らは待ってはくれない。年に数日だけの逢瀬なのだから。
それにしても、と炭治郎は己の心情に苦笑を漏らした。ただ数日でも想いを遂げ命を燃やす朽草たちを、羨む日が来ようとは

屋敷に着くと同時に出迎えた相手に、伸ばしかけた手をぐっと思い留まったのは不安の表れだ。善逸は気付いたろうに、構わず笑顔で駆け寄り、ぎゅっと俺に抱きついた。耳元で優しい帰還の挨拶が囁かれる。お蔭ですぐに気分が良くなった。

「おかえり!今夜行けるよ〜ってお前怪我してんの?!」
「もう止血したよ」
「そーゆーことじゃねぇんだよばか!炭治郎のばかー!!」

慌てて医務室へ連行され、改めて消毒液や軟膏を塗布される。おかげで傷を受けた腕は快適に動かせるようになった。近くの河原くらいなら出掛けられる。よかった。炭治郎は先ほど帰った時に聞いた善逸の言葉を忘れてはいなかった。

「今夜はいいんだな、善逸?」
お前、怪我したくせに嬉しそうだな」
「だって嬉しいよ。もう駄目なのかと思っていたから」
「云い方!!!いや……俺が悪かったな、隠してて。驚かしたくてさ〜」

善逸が寝具の下から引っ張り出した葛籠から出てきたのは、二枚の浴衣。それも夏らしい柄で粋な仕立てだった。

「ごめんな、結構腕が鈍ってて。前はもっと早く縫えたんだけど」
「?! 善逸が仕立てたのか?!?」
「ばか、古着のお直しだよ。一から縫う暇ねぇもん」
「だとしても──本当に凄いなぁ、善逸は

袖を通した浴衣は肌触りがよく、寸法もきっちり合っている。帯は巷で流行りの新物だと善逸は天狗鼻だ。驚いた。度肝を抜かれた。善逸は色々なことが出来るんだなぁ。

「折角出掛けるならさ、恰好良くしてやりたいものな!」

頬を火照らせ嬉しそうに笑う相方に、何度だって惚れ直してしまうのは、致し方がないことなのだ、と炭治郎は観念した。


20190717NEO@20neo14
#炭善版夜の描き書き一本勝負
お題『蛍』