NEO
2017-06-26 02:50:48
4329文字
Public
 

喧嘩するほど(炭善)

なんとやら。リクエストにお応えして、喧嘩させてみました。

・喧嘩する炭善

(どうしてそんな無茶をしたんだ!独りで戦うなんて俺だって伊之助や禰豆子がいなかったら━━━)
(わギャッてたよそんなのとっくに分かってたの!!でもお前ら全然見つかんないし!毒蜘蛛には咬まれるし!匂いすごいくさかったし!!どうしようもなくない?!どうしていいか分かんなかったのに闘う前に合流とか、無理すぎじゃない?!?)
閑静な夜の病室に、不似合いな口論。なけなしの配慮で最小の音声のまま繰り広げられる諍いはまだ、始まったばかりだった。
那田蜘蛛山での戦いは鬼殺隊にも多くの被害をもたらした。糸に操られた者、毒によって蜘蛛と化した者、繭玉内で消化されてしまった者、単純に食い散らかされていた者まで、殉職した剣士は数えきれない。そんな中、重体に陥ったものの命があるだけ御の字だと善逸は思う。毎日五杯の薬は苦いけど。手足の痺れが取れないし、短いままで動くことも儘ならないけれど。生きてる。息をするのが辛くないし、血も吐かないで済んでる。それで十分だと思う。あと、髪も抜けないで無事だったしね。
(それでも駄目だ!お前がそんな目に遭ったのは俺たちを置いて独りで戦ったせいだ!!)
(何だよォ、なに!?その無茶ぶり!!お前の云ってること無理すぎるよぉ!!俺は弱いの!物凄く弱いの!!お前らみたいに上手に戦えないの!!)
炭治郎は重体且つ、半泣きの俺にも容赦なく怒りを露にした。分かってるんだけど。心配してくれてるのは解ってる。それが思わず怒声に変わっちゃってるってことも。真面目で、真っ直ぐで、でも融通の利かないとこがある炭治郎なら、こんな風に怒るだろうなって、あの戦いの最中でも容易に想像できたし。でも何とか生きてるにも関わらず怒られてばかりなのは辛い。なんでそんなに怒るのよ?お前は俺のじいちゃんか?少しは助かったことを祝ってくれてもいいじゃないの。お前も大変だったのは分かるけどさ
炭治郎と伊之助は女の鬼を倒した後、怪力の鬼に苦戦して、しかも倒す前に分断されたらしい。伊之助の方は(片言で聞き取るのが難しかったが、要約すれば)半々羽織?さんとやらの参戦で命拾いをした。炭治郎の方は運悪く十二鬼月にぶち当たり、禰豆子ちゃんの助けがあっても命辛々だったところを冨岡義勇さんという恩人に救われたそうだ。よかった……二人が助けて貰えて。俺だってしのぶさんのお蔭で此処にいられるんだけどね!じゃなかったら死んでた!!俺、弱いからな!!!
(戦ったら死ぬよ!死ぬ覚悟でいつもやってるんだよ!!だって俺にはそれしかできないからねっ!お前らみたいにできないの!!馬鹿!ばかばか!頑固者炭治郎!偏屈!強情っ張り!分からず屋!馬鹿~~~!!)
「!、!!……
炭治郎が過保護なのは今に始まったことじゃない。恐らく、長男という気質なのだろう。伊之助にも弟に接するような一面を見せることが多々ある。喧嘩を吹っ掛けられてるのに笑顔で流したり。ご飯のおかずを横取りされても動じず、むしろ分け与えたり。凄く寛容だ。俺にも優しいし……でも時々、こうやって理不尽に怒鳴られる。そして、それは、俺が炭治郎にとって弟ではない決定的な証だ。
(俺はっお前がっ!!俺たちがいれば、お前にそんな危ない橋を渡らせはしなかった……っ!お前を……それこそっ、……)
感情が高ぶって言葉を詰まらせた炭治郎が、その燃えるような瞳から、ほろ、と涙を溢した。どんな怒号を浴びせられるよりずっと、威力のある一滴だった。
(た、……炭治郎こそ、満身創痍だろ……禰豆子ちゃんも伊之助だってお前らも同じだろ……命懸けで戦って、九死に一生を得た、俺と何も違わないよ……)
誤魔化しきれない。動揺が声音に出てしまって、炭治郎の怒りは治まることがない。
(皆、みんな……死ぬ寸前まで戦ったんでしょ……俺は……怖かった……怖くて逃げたんだよ。元々行きたくなかったし、怯えて敵に背を向けた。あまつさえ毒に冒されてもう駄目だって諦めかけた……でも、じいちゃんが……ううっ、ぐす、)
強い視線に焼かれてしまいそうだ。そんな風に見ないで、責めるなよ、炭治郎。もう俺泣くよ?怖い。怖いよ。
(……炭治郎ぅ……怒るなよ……俺、頑張ったよ……諦めてないよ、ちゃんと、死ぬまで、頑張るつもりだった……だから怒らないでよ……ううう、怖かったのに……頑張ったのに、)
━━━お前に、嫌われるのが、怖い。
「ごめん、」
「!………
何が、と聞く前に唇を塞がれて。嗚咽が炭治郎に飲み込まれてゆく。悲しい気持ちも、恐れる心も、一緒くたになって不安と怒りに溶け合った。二つの心音が速度を合わせ、徐々にどちらのものか判らなくなる。俺も、お前も、同じように怯えている………
不意に炭治郎が呻いた。
「ふ、ぅ、ウゥッ」
炭治郎は、口吻けの終わらぬ内に本格的に泣き出してしまった。翻弄されていた俺の方が罪悪感に苛まされるってどういうこと?泣きたいの俺じゃない?ななんでぇ?何でお前が泣くんだ?!
「うぅう~~……ぜんいつ……
声が大きい。もう配慮する余裕もないのか。慌てて今度は俺から唇を吸う。もう少し落ち着いてくれないと喧嘩も出来ない……炭治郎、頭を冷やせ、今、皆寝てるんだから、隣で伊之助が鼾をかいてるし、禰豆子ちゃんだって近くにいるんだから、起こしたら不味いよ。抱き締めて背を撫でる。引き締まった体も今は震えている。
(なんで泣くのよ?俺の真似か?お前まで泣かなくたっていいんだよ、ばか)
仕方がないので涙を舌で拭ってやると、炭治郎は少しだけ平静を取り戻したようだった。
(……わるい、ちが……すまない、そうじゃない……そうじゃなくて……)
云い淀む唇を優しく舐めて先を促すと、炭治郎は伏し目がちにそっと食み返してから白状した。
(……俺は、分かった……分かったんだ。俺は、 自分に、怒ってるんだ)
腰を引き寄せられ、距離がぐっと近づく。もう憤怒の気配はない。ただ深い自責の念に囚われているような、痛々しい音が響いていた。
(お前にじゃなくて。本当にすまない……ただの八つ当たりだった)
炭治郎は神妙に弱音を吐露した。俺たちが兄弟ならこうはいかない。腰に回された腕は確りと密着し、例え何を思われても、離すつもりは毛頭ないと告げている。炭治郎の弟でなくてよかったと思う。限界点で縋る腕を、存分に享受できるから。
(……俺はな、善逸。分かるんだ。お前に真実が聴こえるように、俺にも真偽が嗅ぎ分けられる。お前は強い。俺は知っていた。お前が、独りでも大丈夫だと信じられなければ、置いていったりしなかったよ)
低く、穏やかに絶対の信頼を示されて、炭治郎が涙していなければ俺の方が泣きたいくらいだ。
(伊之助の方が無謀だし、心配だったのは確かだ……それに目の前で拐われた剣士は急を要していた……それでも、お前が必要な心支度を済ましさえすれば、独りでも追い掛けて来られると解っていた。後で必ず合流できると思ったんだ。だから、)
また目尻に浮いたものを、炭治郎は必死に堪えていた。腰元の手が夜着の裾を捲り、脇腹をそうっと擦る。そこには紫の斑が毒々しく残っていて、自分でも見るのが怖いのに、炭治郎は躊躇せず、慰めるように指を這わせた。
(……こんな、……こんなことになるなんて……)
(炭治郎……)
(お前は矢張、追い掛けてくれたなのに俺は気付かなくて、こんな合流しそびれてそんなこと……ううっ)
指先も、声も、表情も、怯え、泣き、震えている。俺は唐突に思い知った━━━お前もただ、一人の人間なのだ、と。
(お前の所為じゃないよ)
(わか……すまない……でも、俺が、居たら……気付いたら、間に合えば、……善逸……考えるんだ……もっと俺が強かったなら、と……)
深く苦い息を吐き、炭治郎は俺を抱く腕に力を込めた。顔を埋めた項が濡れた感触で、また泣いているのだと知る。
(俺は……自分が、情けない。お前も連れて行くべきだった。俺は待つこともできたのに。急いだところで、他の人たちも皆死なせてしまった……)
助けたかったのに、と、後悔を絞り出すように嘆く。あまりに悲痛な音がして、声を上げないよう唇を噛むのが精一杯だった。炭治郎の懊悩が響いてくる救えなかった命。足りなかった力。どうしようもなかったことなのに。それでもお前はそんなに苦しんでる炭治郎お前は……お前ってやつは……
(俺が怒っているのは、自分にだ。未熟で何も出来なくて、心底、腑甲斐無いと思う。自分の弱さを棚に挙げて、善逸に当たり散らしてしまった……善逸……悪かった)
豊かな黒髪を手櫛で掻き分けて、現れた額の火傷に口吻を落とす。頬を擦り寄せて温みを分かち合う。ただゝ悲しみに染まる澄んだ音。引き寄せられる。もう止められない。涙が頬を伝う。馬鹿。本当に、馬鹿だなぁ、炭治郎……

お前を責めるやつなんて、お前くらいだよ。

俺たちには力がない。技も、心も、何もかもが足りない。それでも俺たちは全力を尽くして戦ってる。お前は誰よりも真剣に、本気で頑張ってるよ、炭治郎。俺が保証する。

俺の顔をじっと見つめて、暫く深呼吸していた炭治郎は、僅かに身を起こし、濡れた瞼を閉じて再び唇に吸い付いた。傷だらけの手のひらが、ゆっくり、静かに存在を探る。熱。脈。呼吸と、反応。確かな匂い。炭治郎にとって大切な、絆の在処を。躊躇いがちに触れた舌先が問う。善逸。生きているか?
お前は此処に、いてくれるのか━━━
(屹度)
俺は駄目なやつだけど、お前にとっては違うのかもしれない。信じたくなってしまう。だって求めてくれるから。こうして、俺を認めてくれるから。
炭治郎、お前は本当に凄い。
禰豆子ちゃんも伊之助もお前がいたから今も此処にいる。それでいて炭治郎、お前自身だって、ちゃんと生きてるんだから。俺だって……俺だってね?お前が怒るだろうって思ったら……諦めたくなくて……。俺たち皆を救っても、それでもお前はきっと、これからも、迷わず戦っていくんだろうね。
互いの鼓動を安らぎに、口吻はより深まってゆく。

(……俺たち、頑張ろうな)

救いを求めて足掻くお前が愛おしい。屈するのではなくて、諦め悪く泥塗れでも進むお前が。そんな自分の強さに気付いていないところも。単純に、この平穏に浸かりきることさえ、お前は決して、自身に許さないだろうに。



~~~
実は続くんじゃ(R18注意)→雪崩れる生死(炭善) http://privatter.net/p/2550437