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NEO
2016-12-25 00:21:11
5996文字
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キメツ学園な炭善~X'mas編~
プレゼントに人形貰ったよ!(炭善)
・炭治郎が割りと一人でぐるゝする話
「炭治郎!炭治郎!!ちょっとコレ見てよ━━━ッ!」
バタゝと走る音までも忙しなく、いつものように喚き立てながら善逸が駆け寄ってくる。聞き慣れた騒がしい呼び掛けに応えて振り返ることが今や条件反射となってしまった。彼はとても興奮しやすい質で、大抵何かにつけて怯えたり怖がったり大騒ぎしている。例えそれが些細な問題だとしても。今度は一体何がどうしたというのか?
また辻告白してフラれた拍子に引っ叩かれたのか?それとも飼い雀に噛まれた傷が疼くのか?虫に刺されたからって泣かなくてもいいんだぞ
……
しかし大事そうに何かを抱える手元を見て、珍しく普段のような慰めは要らないようだ、と僅かに安堵した。
「どうした善逸?そんなに燥いで
……
、っ?!」
「スゴくない?ねぇこれスゴくない━━━俺を象った人形なんだよ!」
善逸の手には手のひら大の手芸品が握られていた。人の姿形を模していて、単純化されてはいるが、何を
……
誰を、見本として作られた物なのか、一目瞭然だった。驚くべきはその再現度。丁寧に作り込まれた泣く寸前の表情や、下から上へ濃淡が掛かった髪の色合い、縮こまった仕草まで本人を巧く表していて、思わず身を乗り出してしまう。
「凄い!!いや、これは
………
かなり凄い!!善逸にそっくりだ!!」
「うふふっ!珠世先生がくれたの~X'masだからって。前に飾ってあった手作りのネコぐるみ褒めたの、覚えててくれたみたいで
…
」
褒めたのは人形の方なのに、何故か善逸が胸を張る。お前が作ったものじゃないだろう、と、平時なら切り捨てただろうが、今はそれどころではない。
「かっ、可愛いらしいな!これは
…
善逸の特徴をよく捉えている!涙の雫がとても印象的だ
…
この手乗りの大きさも丁度いい
…
触り心地も抜群だし
…
幾らでも眺めていられそうだ
…
凄い
…
本当に凄いな
…
!!」
「ちょ、そんなに食いつくとは思わなかった」
困ったような苦笑を聞き咎め、勢いよく反論する。善逸は事態の重要性を全く理解していない。俺は口惜しいんだ、物凄く。お前にはきっと分からないのだろうが。
「だって売り物じゃないんだろう!?欲しくても手に入らない!!」
買えるものならば今直ぐに予約する。幾ら出しても惜しくはない。バイトの時間を増やしてもいい。けれどこの善逸人形は珠世さんが作ったもので、優しい善逸の言葉に喜び、純粋な感謝の気持ちとして贈ったものに違いない。そうであるならば、俺にも作って欲しいと強請るのはどう考えても単なる我が儘でしかなく、間違っている。恥を忍んで頼めたとしても、確実に迷惑が掛かってしまう
……
好意で贈った珠世さんにも、それを気兼ねなく触らせてくれた善逸にも。
あまりに未練がましく眺めていた所為だろうか、善逸はちょっと妙な顔をすると、その人形を気安く俺の手に握らせた。
「欲しいの?
……
じゃあ炭治郎にあげるよ」
「!! いいのか善逸?!返さないぞ!!?」
本音を隠す余裕もなかった。逸早く人形を懐に抱き締め、誰にも、相手が譲ってくれた善逸当人だとしても、既に手放す気にはなれなかった。
「あはは、いいよ。そんなに欲しいならあげる。欲しがって貰えたんだから、珠世先生も喜ぶよ。大事にしてやって」
「
………
勿論だ。ありがとう、善逸
……
」
なんて優しいのだろう。善逸は特に惜しむこともなく、爽やかな親切心で譲ってくれた。微かに満足げな匂いすら窺わせている。鼻が異様に利く俺が云うのだからこれは確かだ。有り難い。嬉しい。
嬉々とした俺の声に、耳の良い善逸の顔も曇りなく晴れやかだ。人形一つでこれほど心が浮き立ってしまうのが不思議で、けれど、どこか懐かしい感じもして
……
まるで童心に返ったようで、我ながらこそばゆかった。
◆
帰宅して真っ先にしたのは、机上の上座へ人形を陣取らせることだった。座蒲団代わりに真新しい風呂敷を四角く畳み、その上へそっと座らせる。円らな鳶色の南京玉が、気弱な下がり眉に押されて、潤んだ双眸のように感情を訴えている。信じられないくらい、容易く本人を思い起こさせる
……
この瞳に、自分はなんと弱いことか。
「可愛らしいな
…
本当に
…
珠世さんは凄いな
……
まるで善逸が我が家にいるみたいだ
……
今度、お礼を云わなければ
……
」
制服を着替えながら熟々と考えている間も、此方を見ている視線が気になってしょうがない。無論、人ではないと分かっているはずだが、とても無視できるような心持ちにはなれない。中途半端に着替えの手を止めただらしない格好で、視線の主に歩み寄る。自室に戻っても、着替えても、初めて見た時同様に変わらず胸が騒ぐ。何処から如何見ても人形なのに。人形でしかないのに。同じ様に
……
想いを馳せる。
「
……
小さな善逸。今日から此処がお前の家だよ。これからよろしくな。とても大事にするよ。一生だ。
……
なんだか、照れ臭いな
……
ふふ、本人には内緒だぞ」
「
………
」
「
………
うわあぁ禰豆子?!?ノックをしろとあれほど!!!」
独り言のつもりがいつの間にか隣に妹が立っていた。火照る顔を必死に扇ぎながら弁解の言葉を探していると、禰豆子の細い指がすいと人形の頭に伸びる。
ナデ ナデ
そのまま、穏やかに蜂蜜色の髪を撫でる禰豆子に息を飲む。柔らかな動作。慈しみの姿。母のような包容力を垣間見る。キリリ、と胸の裡が軋む音を聞いた気がした。歯車が噛み合わない。そう、
……
俺とでは。
「
……
お前も、可愛いと思うか?」
静かに問い掛ける。禰豆子は間髪いれず肯定いた。愛撫は続いている。俺が表せない気持ちを優しく代弁するかの如く。
「
………
禰豆子、持っていっていい」
「 !」
「大切にするんだぞ?善逸がくれたものだからな」
禰豆子は人形を確り胸に抱き、約束を守ると誓った。部屋から出ていく後ろ姿の弾む足取りに、深く溜め息をつく。
妹に人形を愛でる一面があったとは、盲点だった。あんなに喜ばれてしまってはどうしようもない。俺が幾ら特別なものだとごねても禰豆子を悲しませるだけだ。
「我慢していただけで、禰豆子も人形に興味があったんだな
……
」
善逸も俺の元で燻るより禰豆子に添い寝でもされる方が余程嬉しかろう。そう思って自分を慰めるしかなかった。
◆
翌日、放課後訪ねてきた善逸に、謝罪の言葉はもう用意してあった。
「炭治郎、珠世先生にお礼云いに行くけどお前も来る?」
「あぁ、行く。それと
……
すまない、善逸。あの人形、禰豆子にやってしまったんだ」
「禰豆子ちゃんに?」
善逸は素直に驚いたようだった。俺が包み隠さず話したからか、むしろ、禰豆子の行動が心底意外だった所為かもしれない。
「気に入ったみたいで。絶対大事にすると思うが、俺が手放したことは
……
ごめん」
俺が大切にするつもりだったのに、妹のためとはいえ、約束を違えてしまって━━━いや、本当は、俺には相応しくないと思ってしまったんだ。独り占めしたいと妬くようでは、到底、あの愛らしさに見合わない。せめて正直に伝えられる度胸があれば。けれど、お前に厭われてしまったら、もう、平然としていられるか分からない。何も応じない人形相手にならあんなに易くできたことが、目の前の、お前には
……
「そう、禰豆子ちゃんが
……
うん。あのね、」
「?」
「実はまだあるんだ、人形。これ」
善逸が鞄から取り出したのは、また別の人形だった。黒髪、額の傷、耳飾り
……
もしかしなくても、これは。
「! これは
……
俺、か?」
「そ。ごめんな、隠してたわけじゃないんだけど、ちょっと、気恥ずかしくて
……
本当は炭治郎にはコレを渡すよう云われてたんだ。けど俺、この子を手放し難くてさ。一緒にいたかったっていうか
……
心丈夫で」
「善逸
……
」
俺を象った人形を物憂げに見つめて、善逸は、暫し沈黙する。それから気を取り直したように声を張り、寄りがちな眉頭を明るく誤魔化した。
「炭治郎が俺の人形を欲しいって云ってくれたから、じゃあこっちは俺が貰ってもいいよねって、勝手に交換したんだ。でも禰豆子ちゃんなら、炭治郎人形の方が喜ぶでしょ?だから、返すね」
昨日の気軽な扱いが嘘みたいに、善逸は、俺の人形を丁寧に両手で包み、差し出した。俯いて眼を逸らし、酷く、名残惜しげな匂いと共に、今生の別れを悲しむあの
………
あの頃のように。心臓が跳ねる。
「いや、でも」
「いいんだよ。だってこうすれば、禰豆子ちゃんのところで二人一緒にいられると思うし
……
」
「え」
耳を疑った。自身に都合の良い幻聴まで聞こえ出したのかと不安になる。善逸、お前は分かっているのか?今、己が口にした言葉の意味を。その言い回しがどんなに俺を期待させるか
……
俺を動揺させるか、お前は本当に分かっているのか、善逸、なぁ、善逸、本当に、分かってほしい、俺がどんなにお前のことを、今も、昔も、偲んでいるか
……
善逸、
「それとね、伊之助のもあるんだよ。帰りがけに伊之助ん家に寄ってって、ひささんに預けようと思うの。炭治郎も行こうよ、今日、バイトないでしょ?ほら、本人に渡したら絶対無くすだろうからさぁ、伊之助は。あと、禰豆子ちゃんのも製作中だから待っててって珠世先生云ってた。女の子の方が作るの難しそうだよね。あんなに可愛いもの。禰豆子ちゃんにもそう伝えておいてよ。ほんと、素敵だよねぇ、珠世先生。ああいう人がうちの学園の先生で本当によかった━━━
………
炭治郎?」
「お前も俺を欲してくれたんだな」
そうであれと、心が懇願している。潰れた喉から押し出すような独語染みた呟きを、周囲は一切感知しない。善逸だけが、判然と眼には視えないものを、今この場にいる同級生たちの誰より正確に把握しているはずだ。この速まる鼓動を、高まる熱望を、俺と善逸だけが聞いている
……
お互いだけが、知っている。
「
………
お前ほどじゃないけどね」
「二人を、一緒にさせてやっていいんだな?」
畳み掛けながら距離を詰める。清水が溢れ出すように、気持ちが零れ出してゆく。いつも饒舌な善逸が、束の間言葉を失って云い淀む。噤まれた唇が再び開いた時、ほんの少し震えていたことを、全神経を集中して向き合っていた俺が、見逃すはずはなかった。
「
………
炭治郎が嫌じゃなければ」
此処が、今、教室でなければ。この衝動は、とても堪え切れたものではない。自分でも煩いくらいに心臓が高鳴り急かされる。赤みを帯びた円やかな頬。唇を寄せる代わりに震える手の甲へそっと自らの手を重ねた。ぎくりと揺れた肩に気付かないフリをして、繋いだ指に想いを込める。
憐れなほどの狼狽よ、この熱に溶け、揺るぎない安らぎに変われ━━━俺に、それが赦されるなら。
「嬉しい。善逸。とても。言い表せないくらい」
「うん。そうね。俺も
……
同じ気持ちだと思う」
互いの耳にだけようやく届くほどの微かな囁きが、こんなに強く激しく心身を揺さぶっていく。息が詰まりそうだ。苦しい。歯痒い。堪らない、善逸。善逸。抱き締めたい。
「これは
……
これも、禰豆子にやることにする
……
」
「そうして。その方が二人も幸せだよ
……
そうじゃない?」
「そうだな。俺たちと同じだ
……
そう思って構わないな?」
早く、速く。いいと云ってくれ。そうだと認めてくれ。善逸、善逸。俺だけの独り善がりではないのだと思いたい、お前が、許してくれるなら。善逸。俺が、こんなに欲しいのは、本当は人形の方じゃない。ごめんな、 善逸、折角優しいお前がくれたのに、でも本当は、本当に俺が欲しいのは、人形なんかじゃない
……
目尻をほんのり紅く染め、潤む鳶色の瞳に、俺は抗う術がない。
「
……
もうずっと
……
そう思いたかったよ、俺は
……
」
触れた唇に陶酔する間も与えず、善逸は素早く飛び退いた。
「! 善逸、」
「珠世先生帰っちゃう。急げよ、炭治郎!」
「待て
…
おい待て善逸!はやっ
…
速いな?!流石風紀の駿足
…
!!」
学園を粛清する豪腕揃いの風紀委員の中で、見事な及び腰とそれに相反する脚の速さで“風紀の韋駄天”と異名を馳せているのが我妻善逸という男だ。
「たんじろーっ、置いてくぞー?」
「い、今行くから待ってくれ!!」
本気で逃げられたら捕らえることは叶わない。例え遠くても善逸が待っていてくれる内に追い付こうと、必死で荷物をまとめ教室を後にした。
◆
珠世さんはまだ保健室にいて、急に訊ねて行った俺たちなのに、邪険にせず快く出迎えてくれた。早速人形の御礼を告げると嬉しそうにふわりと微笑む。温もりのある笑顔だ。怪我や病の治療以上に、この微笑みに救われている生徒が学園には山ほどいる。
「禰豆子ちゃんが気に入ったんだって。良かったね、珠世先生」
「ええ、本当に。ふふふ、嬉しいわ」
善逸が話した通り、保健室のあちこちに癒しのマスコットとして置かれたらしき縫いぐるみを散見できる。そのひとつを緩やかに撫でながら、珠世さんはニコゝと俺たちの言葉に耳を傾けている。
「こんなの作れるなんて、珠世さんは器用ですね
…
」
「ほんとスゴくない?!スゴすぎじゃない?!」
また興奮している善逸の手にも小鳥を模した縫いぐるみが乗っている。小さな頭をそうっと撫でる手付きが優しくて、きっと飼っているチュン太郎にも同じように接しているのだろうと微笑ましく思わせた。愛おしい。好ましい。全てが輝いて見える。こんな風に思えるなんて、俺は、本当に幸せ者だ。
「まぁ、云ってなかったかしら?作ったのは私じゃないのよ」
「え!?そうなんですか!?」
「俺も初耳!じゃあこのファンシーアイテムは一体誰が
…
?」
「俺だ。文句あるか」
デデーン、と、背景に効果音が聞こえそうなほど、その縫いぐるみの作者は、堂々たる登場ぶりだった。
「愈史郎さんが!?」
「意外すぎじゃない!?」
愈史郎さんは、この保健室に入り浸っている上級生だ。もはや生ける伝説と化している。詳しく聞いたことはないが、珠世さんに大きな恩義があるとかで、彼女の元へ度々往来する内に保健室の(というよりは珠世さんの)番人という立場を暗黙の了解として定着させた色んな意味で凄い人だ。そこへ今日また、新たな伝説が加わったらしい。
「愈史郎は大概何でも上手にこなしますよ」
「先生の為なら幾らでも働きます」
確固たる信頼の絆に打ちのめされ目眩を覚える。彼らに比べたら俺は
…
なんという
…
未熟者だ
……
「俺はまだゝ甘かったな
…
!!」
いや真面目に比べてんじゃないよこの四角四面が、と流暢な舌鋒を背後に聞いた気がしたが、禰豆子人形を仕上げる神業見学で忙しかった俺は、任せておけ、頑張るからなと心の中で返しておくだけにした。
完
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