NEO
2016-12-03 01:20:09
3200文字
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キメツ学園~番外編~

禰豆子に憧れる善逸が気になる炭治郎の図。

・フランスパンの君とその兄と俺 (炭善禰)

今日こそ彼女に告白するぞ……学園のアイドル、フランスパンの君に!
プレゼントをお花にしようか、リボンにしようか迷ったけど、ここは意表を突くフランスパンで勝負だ!いつもフランスパンをくわえているんだから、嫌いな筈がない!(なぜか食べてるところはみたことないけど)
ハッ、噂をすれば、あそこの廊下を歩いているのはフランスパンの君だ!よし、いくぜ、男を魅せてやれ、我妻善逸!!
「あっあっあのっ!こっこっこれっ、君に!!」
足を止め、綺麗な長い黒髪を揺らして振り向く美少女。俺の差し出すフランスパンを見て小首をかしげる可憐な仕草に心が踊る。可愛い!文句なしにアイドル!!でも大人しい性格なのか、一言も発してはくれない。俺の気持ち伝わってないのか?それともフランスパンじゃインパクト薄かった?なんてこった……痛恨の選択ミス!
「あぁ、きっと禰豆子にじゃないか?良かったな」
(男の声?!?)
バッと横に視線を向けると、そこに花札の耳飾りを着け、髪を上げ、制服を適度に着崩した……性格だけは真面目なあの男が立っていた。
(こ、コイツは!!)
額に大きな傷がある男……俺が毎回泣くゝ参加してる風紀委員会の定期検査で礼儀正しく謝りながらも頑なに校則違反し続けてる男だ。いつも思うけど痛そうな傷だな。何があったのよ?もう痛まないならいいけど。
今まで視界に入っていなかったが、彼女が男連れだったなんて衝撃だ。しかも二人は手を繋いでいて、とても仲が良さそうだ。
(ギャ━━━!男がいるなんて聞いてないよォ━━━っ!嘘ウソうそ、恋人がいるなんて情報なかったし!!お前何?!さらっと彼女を名前呼びしたよね?!学園のアイドルと気安く手ぇ繋いでこんなに堂々と歩いてんじゃないよォ━━━!!!)
「あ、俺は竈門炭治郎。禰豆子の兄です」
「疑ってごめんなさいね俺は隣のクラスの我妻善逸だよよろしくね!!」
一息で応えてしまった。緊張しすぎだろ俺。フランスパンの君はねずこちゃんっていうのか……かわいい……もはや名前が神がかって可愛い。
「善逸は俺と同い年か!それに教室も近いな」
いや同年じゃないけどね俺留年してるし。訂正するのも面倒だし放っておこう。なぜか嬉しそうな兄は無視して禰豆子ちゃんを観察する。告白の答えは貰えてないけど、こんなに近くで彼女を見られるだけでも凄く嬉しい。いつもは柱の影や樹木の間や建物に隠れてしか眺めたことがなかったから、瞬きの音まで聞こえそうなほど近くに立てるなんてそれだけで勇気を出した甲斐があった。禰豆子ちゃん可愛い。告白して良かった……
「善逸。すまないが、禰豆子が答えられるまで待ってくれるか」
兄が申し訳なさそうな顔で云うので、お前が困ってどーすんだよと心の中でツッコミながら禰豆子ちゃんを見つめる。君が待って欲しいならいつまでも待つよ。だってすぐ断らないってことは、考えてくれるってことだもの。本当に良い娘なんだって分かる。今まで告白した娘たちには全員その場で断られたものなぁ。保留って初めて。禰豆子ちゃん優しい。
「禰豆子は今、ちょっと……声が出せなくて。自分で答えたいと思うから、待ってやって欲しい」
「なるほど。何か事情があるんだな?」
兄の……炭治郎とかいったっけ。こいつの話しぶりは誠意が込められていて、その場凌ぎや誤魔化しには聞こえない。真実避けられない事情があるんだろう。俺の数少ない長所である聴力をもってしても、嘘だとは思えない。まぁそれでも俺はよく騙されたけど。信じたいものを信じるだけだ━━━炭治郎は信じられる。
「構わないよ、待つよ」
「!━━━ありがとう。善逸は良い奴だな」
パアッと表情が輝いて笑顔で喜ぶ炭治郎。え?今、誉めた?誉められたの、俺?
「誉めてもしかたねぇぞ、うふふ!」
思わずバターンと倒れてしまった。あんまり嬉しくて……自慢じゃないが俺は誉められ慣れていない。臆病で、小心で、痛いのは嫌いだし、苦しいのも厭だ。すぐに緊張で身体が強張るし、覚えてないけど怖がりすぎてよく気絶するらしい。受ける評価は大抵ネガティブ。ウザい、オカシイ、五月蝿い、キモチワルイ。そんなのばっかりだったからいきなり誉められても免疫がない。感情の起伏の激しさに体がついていかなくて暴走してしまう。案の定炭治郎は驚いたみたいだが別段引いたりはしなかった。珍しい奴だな。大概はこんな俺をみたら馬鹿にするか気味悪がるかするのに。
「善逸は、……いや、なんでもない!」
どうしたんだ?炭治郎の奴。急に焦り出したりして、変なの。禰豆子ちゃんはふわゝと頼りない感じで俺たちのやり取りを見ている。可愛い。不思議ちゃん系かなぁ。本当に可愛い。
フランスパンは仕方なく兄の方に渡したが、禰豆子ちゃんはその柔らかな手で俺の頭を撫でてくれた。ウオオオオやった━━━来て良かった!!感動に咽ぶ俺を兄が困ったように見てたけど知るもんか。俺は今幸せだ。
炭治郎が連絡先交換を申し出てきたのも勢いで応じてやった。どさくさ紛れに禰豆子ちゃんのも知りたかったけど携帯は持たない主義らしい。残念すぎた……炭治郎が代わりに伝えてくれるらしいが、間に他人がいるのといないのじゃ大違いなんだよ分かれよ……あとで泣こう。
「それじゃあ善逸、……またな」
嗚呼、禰豆子ちゃん。次はいつ会えるだろうか?離れがたい。ぐす。兄妹の背中を見送りながら悲しんでいると、少し歩いた二人が不意に立ち止まり、炭治郎だけ此方に小走りで戻ってくる。
「善逸、あのな!」
「ぐす、なんだよ?」
鼻を啜りながら聞き返す俺に、頼みがあると炭治郎は云った。禰豆子ちゃん絡みなら何でも引き受けるぞ!これで繋がりが保てる!と瞬時に色めき立った俺に、炭治郎が、云いにくそうに呟いた。
……俺も、メールしていいか?」
「え」
禰豆子ちゃんのことじゃなくて?一瞬頭が混乱する。でも確かに炭治郎は自分が個人的にメールしたいのだと強調した。
「なんで?」
「なぜって、そりゃあ……
純粋な疑問をぶつけると炭治郎は黙りこむ。怪しいな。騙すつもりか?禰豆子ちゃんから引き離そうって魂胆か?まだ近付いてもいないのに?酷い奴だな!断固として戦うぞ俺は━━
……お前を……
「!」
熾が爆ぜ、火が燃えて、土を蹴り、鈴が鳴る………
(?! この、音……聴いたこと、ある……)
抱き締められた、と理解した瞬間、耳元に落とされる優しい響き。
「お前を、知りたいから」
そっと俺を突き放すと、炭治郎は背を向けた。禰豆子ちゃんを連れて足早に去って行く。でも俺は見た。
アイツの特徴的なピアスが揺れる耳……真っ赤になってた……
「嘘でしょ」
しっかりしてて、信頼できて、泣きたいくらい優しい音をさせて、人好きしそうな男だったのに。でも嘘じゃなかった。あの心音、本気で俺を━━
「知りたいとか……云うんじゃないよ……
顔が熱い。物凄く熱い。身体も、心も、驚くほど沸き立っている。あっ、そうか、俺、初めてだ。好きになったことはいっぱいあったけど、好かれたのは初めて
……炭治郎が、初めて。
どうしよう。なんだろう。胸が苦しい。汗が止まらない。やだ。やだこんなの。すごいドキドキする……なんだよ、やめろよ、あんな声でそんな風に云うな、ばか。恥ずかしい奴。禰豆子ちゃんのことが考えられない。炭治郎が邪魔する……
炭治郎の音……優しくて暖かい、気持ちいい、音だった。
側にいたら、あれをずっと聴けるのかなぁ……いいな、凄くいいな……好きになって貰えるのって、気持ちいいことなんだな……
回らない頭を抱えてふらゝと教室に戻る。メールが来たら、どうしよう。スマホを握りしめながら、俺は初めて恐怖や緊張ではない感覚に震えていた。