ぽふむん
2024-10-26 20:53:29
2329文字
Public ワンドロ
 

籠の中の鳥

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負

「風習」をお借りしました。
無限城戦後、童磨の胎内で深層心理を覗いてしまったしのぶちゃんです。
タイトルはちまどまくんのことです。
人柱と言う悪しき風習、因習に言及しています。

村の、現代からしたら迷信、因習と言えることに囚われ、大人の勝手な事情に歯向かう手段も持たない子供です。



冷たい吐息が髪の毛にかかる程近い。

それは抱き寄せられているから。
普通ならば、この体勢は何らかの情動が働き、互いの体温が上がり、血圧が上がり心音も高鳴るのだろう。
当然額や頬に当たる男の吐息も熱いはず。
それなのに、娘の結い上げた額にかかるその吐息には、全く……一切の感情がこもらない。
体温すら感じない、雪夜の風の如き冷たい吐息がかかる。
凍りついたままの心を具現化したかのよう。

一方娘の心音は煩い程に高鳴っている。
血圧も上昇し涙が頬を伝った。

バキィっっ

激しい痛みに娘は泣き叫ぶことも出来ない。

鬼が……嫌、カナヲが?何か言っているが、激痛で内容まで聞こえない。

意識が遠くなる。



ここはどこだろう?
寒い。

なんて寒いところなのだろう?

ある程度の寒さまでなら大丈夫なはずの隊服ですら寒い。

辺りを見回せば、氷の塊がある。
その中に子どもがいる。

膝を抱えて眠るように

幼い少年だ。
四~五歳くらい……だろうか。
この髪の色、くせの強い髪質に、見覚えがある。

氷を抱きしめてみたが、つめたいだけ。
「もしもーし、坊や。大丈夫ですか?ぼーやー」
大丈夫な訳ない。
そう思いながら、しのぶは氷の塊に手を触れた。

どくん

どくん

急に脳の血管が脈打つ感覚がやってきて、何かが電気信号のように流れてきた。


上質な……重そうな着物と帽子を纏った子供が祭壇にちょこんと座っている

この子供は、氷の中にいる子どもだ
氷の中にいる子どもは瞳を閉じているが、開けばわかる。
虹のような、極光のような、瑠璃や玻璃のような

あの鬼だ。
あの鬼の少年時代。

こんなご大層な着物を着て、大勢に大人にかしづかれ

いいご身分じゃないか?
健康そうなふくふくしい顔立ち。
丈夫そうな骨質。
何が不満で鬼になった?

あれ?
おかしい

何かが妙だ

この男、両親のどちらに似たというのだろう?
父親と見られる男は、普通に高麗べりの畳の高座に座る。
父も母も目や髪の色はおろか、髪の質目鼻立ち、体格も似ても似つかない。
人間の子で、ここまで容姿に親の遺伝情報が含まれないことがあるのだろうか。
花の飾られた祭壇に、飾り物のようにちょこんと鎮座する幼子。

その子どもの目の前で、いい歳した初老の男が泣いている。
どうやら流行病で、己が妻子どころか、幼い孫まで失ったらしい。

「ごめんよ、ごめんよ。じいちゃんばかり生き残って・・・こんな年寄りだけ生き残って……ごめんよ」
祭壇の少年が瞳を瞬かせる。そして、傍らにいる両親らしき者に「どうしよう」というように、視線をやる。
父親と見られる痩せ型の男が、こくりとうなづき返した。
何かを「言え」と命じられたのだろう。

少年はふぅ……と、吐息をつくと「よいしょ」と呟きながら立ち上がる。
祭壇から降り、泣き崩れる男の元へ歩みよった。
男の額に手を触れた。

「お……爺さま。じー様泣かないで。ぼ……おら、へーきだ。おっとう、おっかぁと一緒だからへーきだ。お花いっぱい咲いて綺麗なとこにいるんだ。花がいっぱい降ってくる……平気だ」

これは・・・
噂に聞いたことがある

口寄せ、イタコ

本当に何かが降りているものもいるのだろうが、こんなこともあるのだろう。

この子ども。
親に命ぜられ、口寄せの真似事をさせられている。

これは……

詐欺じゃないか。

だが・・・これで遺族の心が安らぐのであれば、心の平穏が守られるのであればそれもありなのかもしれない。

次は難工事の相談だ。
工事の無事を祈っての……人柱の選定
次にその現場を縞模様の着物を着たものが通ったら、そのものを人柱にせよと言う。
村にしばらく縞模様を着ることの禁令が発せられ

しばらくして……何も知らずに、偶然通りかかった縞の模様の着物の余所者が村人に捉えられた。
そして、生きたまま埋められた。
嫌だ嫌だと最後まで喚きながら。

人買いだったらしい。
村人の犠牲を出さずに済み、行者一家には謝礼が手渡される。
揉み手で受け取る父親。
幼子の目は冷えている。
人柱は出さねばならぬが、見知った身内の名は出したくない。
神の名を借り余所者を……

戦慄する。
こんな幼子に何をさせている。
大人の罪を背負わされた子ども
言うがまま
望まれるがまま演じ続ける子ども。

大人にそそのかされれば、疑問を多少感じはしても、そのままやってしまう年頃。
そんな年頃に何をさせられてると言うのか。

幼子の心の声が脳内に響く

───因果応報───
───自業自得───

幼子にすがるものの声が聞こえた。
捨て子
間引き
人買

あの鬼の人間時代には、罪悪感こそあれ必要悪として見過ごされたこと。
社会保障がないから
これ以外に生きる、守る方策がないものの切羽詰まった上の最終手段。

でも

罪悪感に苛まれ、年を経てよりにもよってわが子、孫にその災厄が降って降りるのは耐えられぬ

因果は巡る

───社会保障がないんだもの。他に手段がないんだもの。嘆いたって無意味だよ。それに・・・苦しむのが嫌ならしなきゃ良いだけ。因果応報だよ───

思わず氷の中の少年に怒鳴りつけた。

「こらぁ!!この人たちは頑張っていたのよ。そんな言い方ないでしょう」

返事がない。聞こえないのだろう。

そしたら

───……やだなぁ、人の心の奥にしまい込んだ記憶。覗かないでよ───

嫌な声がした。
軽薄な声がした。

ぞくり……

背中に冷たいものが走り抜ける。

誰かが……見ている

腰に手をやる

日輪刀はない。