紬実
2024-10-26 16:55:29
3362文字
Public ハリピタ
 

君のリズムで

さわマル展示用に書いたハリピタ。
コミック版、アース65のハリピタです。65のハリーは本当はグウェンじゃなくてピーターをプロムに誘いたかったんじゃないかなという妄想。グウェメリも好きなのでちょっとだけその要素があります。
アース65とは・・・グウェンがスパイダーウーマンをやっている世界線

ピーターが最近よそよそしい。そう思うのは俺だけだろうか。
口を開けばプロムの話が沸き起こる校内で、どちらかといえば俺は浮かれているほうだった。体育館が今年のテーマに沿って彩られ、音楽のプログラムが掲示板に貼られる。プロムまであと〇〇日の貼り紙が更新されるたび、わくわくと胸が高鳴っていく。
しかし俺の親友は日に日に顔色が悪くなり、昼飯も喉を通らないようだった。
「ピーター、体調でも悪いのか」
「え、そんなことないよ」
「じゃあちゃんと食べないと。そんなに細いと心配だよ」
「うん……
ピーターはもそりと購買で買ったパンを齧る。
「ごめん、遅くなっちゃった」
バタバタという足音がしたかと思えばグウェンが走ってくるところだった。ピーターの隣に腰掛けるとパクパクとサンドウィッチを口に運ぶ。
「準備は順調なの?」
グウェンをチラリと見ながらピーターが問う。彼女は水でサンドウィッチを流し込むとコクコクと頷き、丸のハンドサインをつくる。
「順調順調。オリジナルの曲ってわけじゃないし。だけどエム・ジェイはピリピリしてる」
「彼女はいつもそんな感じだろ」
「ハリー?」
グウェンは俺をギラリと睨む。
「カバー曲ってだけでもプレッシャーなの。お願いだから彼女には余計なこと言わないで」
肩をすくめ承諾する。ピーターは「君のドラム楽しみにしてる」とにこやかに笑った。
その言葉に俺はピーターを伺い見る。グウェンが所属するバンド“メリー・ジェーンズ”が曲を披露するのはプロムの終盤だ。つまり会場に入らないと演奏は見れない。
ピーターはもう誰かと行く約束をしたのだろうか。
「俺も楽しみにしてるよグウェン」
「二人ともありがとう」
グウェンは昼食の残りを胃に流しこむとまた慌ただしく出ていった。
「なあピーター……
誰とプロムに行くつもりなんだ、そう聞こうとしたところで背中に衝撃を感じる。
「オズボーン、お前とグウェンがプロムに行くって本当か?」
フラッシュの声と共になれなれしく肩を組まれる。鬱陶しいことこの上ない。無視してやろうかと思ったがしつこく絡まれるのもそれはそれで気が滅入る。
「彼女とは行かないよ」
げんなりとしながら答えるとフラッシュは納得してなさそうにしながらも仲間たちと去っていった。
「ピーター」
気が付いた時には親友が目の前から消えていた。一人食堂に残された俺はピーターが座っていた席を見つめ、しばらく動くことができなかった。


 ***
 

おかしい。こんなはずじゃなかったのに。
ピーターのよそよそしさは日に日に増していき、勉強がとか、サークルがとか話すことすら避けられている。
「グウェン!」
廊下の人混みを抜け、やっと見つけたグウェンに駆け寄るとピーターとのことを尋ねる。しかしグウェンも彼とはあまり会っていなようだった。
「ごめん、私も忙しくて……今度会ったら聞いてみる」
グウェンはそう言いながらも窓の外をチラチラと見て何かを気にしているようだった。よそよそしいと言えば彼女も最近そうだった。
二人とも俺に隠し事がある? そう考えると胸がモヤモヤとする。俺はなんだって二人に話をしてるのに。
「なあ、グウェン、ピーターが誰とプロムに行くつもりなのか知ってる?」
「んー、わからないけど、とりあえず私ではないかな。ベティはどう?」
「ベティ・ブラント?」
違うとも言い切れないのが何とも悔しい。
「俺はエム・ジェイだと思ってるんだけど、違うかな。彼女、確かピーターと幼馴染だろ」
「エム・ジェイ! 彼女は違う、絶対に!」
グウェンは大きく首を振るとロッカーから鞄を引っ掴みソワソワとしだす。
「相手がいないと絶対に入れないわけじゃないし、そんなに気にしなくてもいいんじゃない」
「まあ、そうだな……うん」
でも俺はピーターとプロムに行きたいんだ。既に相手がいるなら俺の計画が狂ってしまう。
駆けだしたグウェンを見送り溜め息を吐く。そもそもの計画がどんなものだったかということは半分頭から消えていた。


「どこにいるんだまったく……
ブツブツと呟きながら廊下を歩く。授業終わりの彼を捕まえるのに失敗し、俺は校内を練り歩いていた。昼食を一緒に食べる約束をしたのに、ピーターからは「用事があるから一緒に食べれない」と素っ気ないメールが返ってきていた。
校内のどこかにはいるはずだし、そこまで遠くには行っていないはずだ。音楽室の近くを通ったところで人影が目の端に映った。音楽部の生徒だろうとそのまま通り過ぎようとしたところでそれが探していた人物であることに気が付いた。隣にいるのはエム・ジェイで「ごめんね」と彼の髪を一撫でしたところだった。
「ピーター」
声をかけるとエム・ジェイは立ち上がり俺の隣をすり抜けていく。彼に一歩近づくと「やあ」と困った声色の挨拶が呟かれる。
「彼女と何してたんだ」
多分、一番聞きたかったのはこれじゃない。
「別に何も——
少し泣きそうな顔をしたピーターの隣に座ると、彼の分厚い眼鏡越しに見えるヘーゼル色の瞳を見る。
「ピート、俺はお前を探してたんだ。最近俺のこと避けてたよな。俺、お前になにかした?」
ピーターは小さく首を振ると「ごめん」と呟いた。
「僕、勝手に勘違いして、それで、君に会いたくなくて」
「え、待ってピート、最初から、最初からちゃんと教えて」
赤くなった目を俺に向けるとピーターはぽつりぽつりと話をしだした。
「プロム……僕はグウェンと行きたかったんだ。だけど、君とグウェンが一緒に行くってみんなが噂してて——
そんな噂を流した奴は一体誰なのか、問いただしたかったが今は我慢する。
「一人で行くのはやっぱり嫌だし、でも僕なんかを相手にしてくれる人はいないからどうしようかなって思ってたんだ。それで、ダメもとだけどエム・ジェイに声をかけてみたんだ」
それがさっきの場面というわけか。断られているように見えたけれど、実際はどうなのか。
……エム・ジェイはグウェンとプロムに行くんだってさ」
ピーターが乾いた笑いを浮かべながら僕を見た。
「ね、全部僕の勘違い。君を避ける理由なんてどこにもなかったのに」
もう一度ごめんねと呟いたピーターは掌で涙を拭った。
「よかった……
思わず飛び出た言葉に自分でもハッとなる。ピーターも怪訝そうな顔をしている。だけどここは素直に全て言うべきだ。
「お前に相手がいなくてよかった、ピーター」
ますます苦い顔をするピーターの手を握るとグッと奥歯を噛み締める。
「ピーター、俺とプロムに行こう」
握った手のひらに口づければピーターは狼狽し、僕の顔をまじまじと見る。
「本気で言ってるのハリー」
「本気だ。というか俺は最初からお前以外誘うつもりなんてない」
返事は? 揺れる瞳を見つめ、彼の心拍数を数える。困惑と不安、その間に希望が見えた。
「いいよ、君と行く」
涙の影は引っ込み、ただ俺を見つめ返すピーター。彼の髪を撫でるとそのままギュッと抱きしめる。心臓が痛いくらいに高鳴っている。
「好きだよ、ピート、好き」
囁けばピーターが頷く気配が感じられた。


  ***


「グウェニー」
彼女を見つけたピーターは大きく手を振る。
ロックンロールの演奏に合わせエム・ジェイのボーカルが会場内に響き渡る。盛り上がりが最高潮に達した会場は生徒でごった返し、ダンスをするのも一苦労だ。
こちらに気付いたグウェンはウィンクを返し、踊るようにと合図を送ってくる。
「ピート」
彼の腰を掴むとグッと身を寄せる。フォーマルなスーツはティーンエイジャーにしては地味だが、これはこれでピーターの魅力を引き出しているような気がする。
「ハリー、言ってなかったけど——
俺の手を所在なさげに握りながらピーターが囁く。
「僕、踊れないんだ」
その言葉におかしさが込み上げてくる。ピーター、俺は、お前のそういうところが好きなんだ。
「誰も気にしないよ」
彼の髪にキスを落とし、クルクルと回る。
ネオンライトに照らされて、彼の顔が輝いて見える。踊りながら愛を囁けば、顔を赤くしたピーターから「僕も好きだよハリー」と照れた笑いが返ってきた。