Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
わからん
2024-10-26 08:59:46
9562文字
Public
WLDP
Clear cache
【WLDP】銃としての人間
仕事の一環でスナイパーをするデとお仕事見学でついてきたウのウルデプ
デが仕事をこなしたりウが仕事を手伝ったり、デが撃ったり撃たれたりします
※映画程度のグロ描写
※書いている人は銃の構造についてよくわかっていません
銃を体の一部にすべし
——
これは俺が軍に入隊して間もない頃、教官が毎日のように口にしていた教訓である。
自分の体のように銃のすべてを熟知し、意のままに動かせって意味だ。何も難しいことは言っていない。単純だ、馬鹿でもわかる(これも教官の口癖だった)。
なるほど、教官の言うことは一理あった。銃は軍人の生命線である。戦場において、対人の戦闘行為とはすなわち「銃の撃ち合い」に他ならない。銃を持っている人間とナイフしか装備していない人間が戦った場合、九十九・九パーセントの確率で前者が勝つ。銃はそれほどに強力な武器で、簡単に相手を制圧し、殺すことが可能だ。
銃は人間が持つ物理的な脅威とパワーを最大限に高める。ゆえに手放し難い。ゆえに、依存せざるを得ない。
教官の考えは一理あるものの、真理ではないように思う。体の一部にしろと言うが、あくまでも人間の道具のひとつでしかない銃は、どう頑張っても人体の一部にはなり得ない。それとも、スーパーヒーローの真似っこで手や肩から生やしてみる? これは先輩としての忠告だが、後天的にスーパーパワーを得ようとするのはやめたほうがいい。後悔してもし足りないレベルで心も体もボロボロになる。誰が何を言おうと今のあんたが一番だ。それに俺だったら絶望しちゃうよ、仮に銃の腕を得たとして、
そ
股
の
間
後
の
の
ブ
生
ツ
活
を
は
シ
ど
ゴ
う
く
す
と
る
き
の
は
?
話が脱線した? ソーリー。戻ろう、教官の教えは間違ってたって話に。教官の話は要するに、銃に依存しろと言っているのだ。だから俺が教官ならこう言う
——
「銃を体の一部にすべし、だが銃だけを己の体と思うな」。
銃だけに依存するな。ナイフ、格闘技、あらゆる武術も同時に修めろ。万が一にでも銃が手元から離れた場合、自分の体を守るのは自分自身しかいない。銃以外で戦う術を覚えていれば、どんなに最悪な戦場でも、ひょっとしたら生き延びることができるかもしれない
……
。
俺が証人だ。それなりの数の戦場を駆け抜けて何度も死にかけた、けど生還した。忘れもしない、あれは俺
——
俺ちゃんが初めて戦場に出て間もなくの頃。新米だったから任務地の先々で小も大も色々垂れ流してた。あの頃はマジでごめんよ教官。で、確か四度目か五度目くらいの何かの何処かの制圧に出動していたと思われるとき
——
それはそれとして、やっぱり銃はクソ強い。
冗長すぎる回想シーンは強制終了だ。
時間軸を現代に戻そう。今の俺が扱っているのはまさに銃。銃の中の銃、狙撃銃である。ここに来るまではアタッシュケースの中に隠していたが組み立て済み。廃ビルの屋上で伏せてトライポッドで支えた銃を構え、ナイトスコープを覗いている。
時刻は深夜。いつもの赤いスーツだと目立つから、黒いマントを羽織って頭から爪先まですっぽり姿を隠している。つまりいつもの俺ちゃんとは違うってこと。狙撃スタイルのクールなデッドプールだ。
「いい加減黙ったらどうだ」
「うおっと
……
びっくりさせるなよ、照準がずれる。それに今日の俺ちゃんは一言も喋ってない」
「ずっと独り言を口にしていたが」あっけらかんとローガンは答えた。「自覚が無かったのか。驚いた」
「これ以上の挑発はマジでやめろ。あんたが来る必要は無かったんだぞ」
「
了解
イエス
、サー」
危ない、照準がずれるかと思った。深く息を吐き、スコープに視線を戻す。
俺の隣で腹這いになって同じようなマントを羽織り、双眼鏡を覗いているローガンは、本来ならこの場にお呼ばれじゃなかった。なぜならこれは俺の仕事で、俺一人が狙撃手として参加する作戦だったからだ。なのになぜかついてきた。ウルヴァリンの真っ黄色なスーツは夜間の任務において非常に不利な色をしている。予備のマントを持ってきていて本当によかった。
「お荷物の自覚があるのなら少しは役に立て。敵の位置を嗅ぎ当てるとか」
「無理だ。向こうが撃ってこないと硝煙のにおいが立たない」
「それってこっちの位置がバレてるよな? スナイパーとして終わってるだろローガンのバーカ」
「標的を直接ぶった切らねえのか」
「護衛が多すぎる。安全圏内から撃つやり方が賢い
……
あるいは卑怯とも言う」
「
……
卑怯、ね」
会話が途切れて沈黙が下りた。長い沈黙だ。もはや職場見学と化しているローガンとは違い、こっちの集中力は一瞬たりとも切らしてはならない。ターゲットがいつ姿を現すかわからないからだ。こういうときは否が応でも銃と一体化しているような感覚を覚える、ならざるを得ない。教官の言うことも一部では、特に狙撃という面ではかなり正しかったと証明できそうだ。
——
目算で七百メートル先。港湾の、特に大型貨物船が停泊するエリア。無数のコンテナが積み重なり、無作為に生み出された迷路のような景色だ。それは意図的かもしれなかった。なぜならここは、悪い組織が海外貿易のために使っている港だからだ。
クライアントは身分を明かさなかった。が、報酬金をかなり弾んでくれたので、それなりにデカい組織の一員なのだろう。奴らが奇襲を仕掛けて敵の気を引いている間に、ボスの頭を俺ちゃんの銃でズドン。クライアント陣営が苦戦しているようであれば補助にも入れとのことだ。いずれにせよ、標的の居場所は把握しておく必要がある。部下の姿は無数に見受けられるが、肝心のボスはどこにいるのか? 今夜はデカい取引があるから、絶対に姿を現すとクライアントは言っていたが
……
。
「あ」
俺は思わず声を上げた。こっちがボスを見つけるより早く、クライアントの襲撃が始まってしまったのだ。手前側のコンテナから一斉に人々が飛び出し、奥
——
海側
——
の集団へ銃をぶっ放す。悪い組織の奴らは初手こそ奇襲に動揺していたものの、状況を把握すると物陰に駆け込んで応戦を始めた。読者諸君は予習済みの「銃の撃ち合い」が始まったわけだ。
「左から五列目、緑のコンテナ付近。オレンジと青に挟まれているやつだ」
双眼鏡を構えたローガンの指示通りにスコープを移すと、四人の男が映り込む。そのうちの一人は今回のターゲット、組織のボスだ。となると残り三人は護衛だろう。彼ら自身が肉の盾となってボスを囲み守っていた。こうなると狙撃は厳しい。クライアントたちが守りを突き崩してくれないと無理だ。
「ターゲットから目を離すな」
「了解」
ローガンの返事に頷いて銃身からトライポッドを外し、銃の向きを転換
——
伏射の姿勢から肘をついて上体を起こす。
作戦変更、クライアントの補助に移る。
リーダー格と思しき男
——
耳元にインカムを付けている
——
がコンテナから頭を出し応戦中であるのを発見する。フーッと息を吐いている間、ローガンの視線が一瞬こちらへ向けられたのを感じた。何をしているかわからないのだろう。生きて呼吸をしている以上、生物は体の動きを完全に止めることができない。だから、スナイパーは狙撃の瞬間に息を止める
——
吐き切った、ストップ。男がリロードのために物陰へ引っ込み、再度頭を出したところを狙って引き金を引く。
命中。
額から血を噴き出しながらぶっ倒れた仲間を見て周囲に動揺が走る。その隙を逃さず二人目、三人目。四人目を撃とうとして、周囲の奴らがコンテナの影に引っ込んだまま頭を出さなくなった。狙撃されているとようやく思い至ったらしい。だが、被弾を恐れて物陰に引っ込んだままでいれば、それはクライアントたちにとっての好機となる。
これ以上の補助は必要ないだろう。銃ごと体を伏せ、隣に置いていたバックパックを掴んでローガンの腕を叩いた。
「移動する」
「別行動だ」
「はあ?」
俺の素っ頓狂な声が周囲に響き渡り、慌てて口元を押さえた。
「なんでだよ」
「標的に逃げられる」
ローガンの手から双眼鏡を引ったくって覗き込んだ。ボスと護衛たちは包囲網の薄い箇所をつき、自力で脱出経路を開こうとしている。しかも驚いたことにこちら側が押されていた。護衛たちは相当な手練れのようで(動きを見るに俺と同じ元軍人かもしれない)、仲間たちが倒されているのに、クライアントの部下どもは目の前の敵に手一杯で応援に向かおうともしない。標的に逃げられようとしているのに!
「何やってんだクライアント殿は。手段を目的にすり替えてんじゃねえよ」
「お前の狙撃で相手が死にもの狂いになったってことだ」
「この状況って誓って俺のせいじゃないよな? ちょちょ、おいおいおい立つな、目立つな!」
ローガンは立ち上がるとマントを脱ぎ捨てた。マントの下に隠れていた黄色のスーツが露わになる。俺は地面と一体化するように顔面をコンクリートに押し付け、ここにいるのはローガン一人だけだぜと全力でアピールした。
「違う。褒めてる」
「あ?」
コンクリートと熱烈なキスを交わしているので唇が動きにくい。俺はくぐもった声で応じた。
「こういう組織が一番嫌うのは何だと思う」
「何? なぞなぞに付き合ってる暇なんてねえぞ、おじいちゃん」
「奴らは調子を狂わされるのを嫌う。奇襲を食らった上に、狙撃なんて面倒な要素をブチ込まれてみろ。さらに調子を狂わされて組織が機能しなくなる」
俺はおそるおそる頭を上げてローガンを見た。奴は建物の縁に立ち、足元の景色を見下ろしている。
「俺が指揮官なら、今すぐにもうひとつの面倒な要素をブチ込んでチェックメイトだ」
話の流れがわかってきた。俺はローガンを指差す。
「つまり
——
あんたか? その面倒な要素ってやつは。一人で暴れるためだけについてきたワケ?」
「察しがいいな。行ってくる」
言うや否や、ローガンはひょいと地面へ向かって飛び降りた。慌てて下を覗き込むと、ローガンはアダマンチウムの爪を廃ビルの壁にブッ刺し、ガリガリ削って勢いを殺しながら着地。獣のように手足を使って駆け、弾丸の如きスピードで戦場目がけて突っ込んでいく。
「あの
先走り
、、、
野郎」
悪態をつきながら銃とバックパックを手に駆け出した。助走をつけて隣のビルに飛び移り、それを繰り返しながら俺も戦場に接近する。現場から半径三百メートル圏内に到達、廃アパートの屋上へ着地と同時に前転。勢いを殺しながら屋上の端へ滑り込み、片膝を立てて銃を構える。
ローガンは既に到着しており、戦闘が始まっていた。奴を撃った左方の敵に
発砲
シュート
、その隣の奴にヘッドショット
——
弾切れ。リロード。一、二、三人。緩んだ包囲網の隙間をつき、ローガンが標的の元に到達した。すぐさま護衛が立ちはだかり、睨み合いが始まったところに横からお邪魔してしまおう。ヘッドショットを食らってバタバタと倒れていく護衛を見てボスが逃げ道を探すが、踏み出そうとした先の地面を銃弾が抉る。右に左に、後ろへ逃げようとしても同じことだ。
行き場を失った標的にローガンが近付く。爪を振り上げた瞬間、ぴたりとその動きが止まった。
……
何だ? 何があった? スコープに映るボスは唇を動かしている。ローガンに話しかけているのだ。相対するローガンはマスクを付けているし、周囲が暗いせいで表情が見えない。だが、振り上げた腕を下ろす気配は無いし、攻撃する気配も無い。
ボスはビジネススーツの内ポケットに手を突っ込み、拳銃を取り出した。それをローガンに向けても奴は動かない。ボスの手が安全装置をゆっくりと外す。
ローガンは動かない。なぜか?
可能性その一。標的が実はミュータントでローガンは攻撃を受けている。そう見える? 答えはノー。
その二。彼はおじいちゃんなので突然のぎっくり腰に襲われて動けない。まさか。
その三。脅されている。ただの銃弾ではローガンの脅威になり得ない。あの拳銃に入っているのはアダマンチウムの
——
。
体の動きが思考を上回る。ほとんど無意識だった。照準をローガンの頭に合わせ、スコープ横のスイッチを跳ね上げる。
緑色をした小さな光の点がローガンの頰を掠めた。奴の頭が僅かに動いたのを確認し、標的のこめかみに照準を合わせる。光に気付いたボスが出どころを辿り、スコープ越しに目が合った。そして狙撃から逃れようと咄嗟に体を捻ったので、銃口がローガンからずれる。
脅されて攻撃を止めるなんて、そんなのはあんたに似合わないだろ。
「
殺
や
れよ」
俺が呟くと同時に、ローガンの爪がボスの首を刎ね飛ばした。頭部を失った体は左右にふらふらと揺れ、バランスを崩して地面に倒れ込む。その光景を最後に俺はスコープから顔を上げ、銃を下ろすとバックパックを掴んで場から離れようとした。
——
ゲームや映画なんかで銃のアクセサリーとして登場するレーザーサイトは、実戦ではあまり歓迎されない。さっきボスに勘付かれたように位置バレ装置だし、そもそも銃弾の軌道は直線じゃないからだ。弾丸の軌道は、放たれた瞬間から重力の影響を受けて緩やかに下降していき、そして風・温度・湿度などの気象学的な要素、さらには空気間の摩擦や銃弾・銃のコンディションに揺さぶられて中央から微妙にずれていく。相手を威嚇する道具としてならレーザーサイトは最適だろう。俺が取り付けていたのは本当にたまたま、ローガンに貸し与えたマントと同じ気紛れだった。
ともかく標的は仕留めた。あとは現場を速やかに離脱してミッション完了、クライアントにも連絡だ
——
中腰で移動しかけたその瞬間、左から右のこめかみへ衝撃が駆け抜ける。
はじめは何が起きたのか理解できなかった。頰の上をだらりと流れ落ちたものをマスク越しに拭うと、手の甲に血痕がべったりとこびり付いた。そいつがこめかみから溢れ出てくる感覚は止まらない。
そっと指の腹を押し当てると、そこには何と小さな穴。
「
……
。オー」
ノー、と呟く暇も与えられなかった。あちこちから狙撃されヘッドショットを食らいまくった俺は、脳漿を撒き散らしながらその場に昏倒した。
× × ×
これは夢か? それとも天国?
——
ソーが俺ちゃんの頭を抱きかかえて涙を流している!
「ソー! あ痛ァ!」
俺の足首を掴んでいた手がびくっと震え、両足が地面に叩きつけられた。
目を開くと、夜空には満天の星とそれらを囲む高層ビル。見覚えがある。いつもの帰り道だ。下方からローガンのむくれ顔がにょきっと生え、俺を見下ろして口を開いた。
「気分は」
「
……
あー
……
最悪?」
「ライフルでてめえの頭が吹き飛んだ、残党は俺が全員殺した、先に帰るから道に零れたクソはてめえで拾え」
早口で一方的にまくし立てるや否や、視界から消える。
ぽかんと瞬きを繰り返し、慌てて起き上がった。ローガンは既に背を向けて歩き出していた。バックパックやら銃やらアタッシュケースやら、俺の荷物を全部持ってだ。俺はぼろぼろのマスク越しにこめかみの傷から零れ落ちる、なんかヤバそうな液体を手で押さえながら声を張り上げた。
「なあ、俺ちゃんどれくらい寝てた? クライアントに連絡したー? ねーえー? ローガーン?」
「一回だけ電話に出た」怒鳴り声が聞こえてくる。「着信が喧しかったからな。笑ってたぞ」
「えー? なんでー?」
「知らん。話しかけるな」
立ち上がって駆け寄ろうとするも世界が回って見える。あ、回っているのは俺ちゃんか。平衡感覚が完全にいかれてやがる。あっちへふらふら、こっちへふらふら、段差につまずいたりその辺の柱にぶつかったり道端の看板に足を取られてすっ転んだりして、思うように前へ進めない。このまま朝まで寝ちゃおうかなと諦めて目を瞑っていると、ぐいと腕を引かれて体を支えられた。そいつの肩に腕を回しながらよたよたと歩き始める。
「敵に自分の位置を知らせたのは撃たれるためか?」
近くにいるはずなのにローガンの声が遠い。
「馬鹿な真似を
——
」
「あんたが
……
攻撃を止めたのも、敵に、撃たれるため?」
視界が回り、こめかみから零れちゃいけないやつが垂れ流しなせいで、あらゆるものの輪郭が霞んで見える。俺は息も絶え絶えに言い返した。
「説明してくれないと、俺も言わない」
沈黙で返されたが、腰を支える手に力がこもった。俺が頑張って歩かなくてもこのまま引きずってくれそうだ
——
安堵して全身の力を抜くと、おいとローガンの焦ったような声が聞こえる。
「ウェイド。目を開けろ」
「
……
説明
……
俺も
……
」
「お前の頭を破壊すると言われた」観念したらしいローガンが早口で答えた。「あの前からお前の居場所はとっくに割れていた。なぜ目立つような真似をした?」
俺は喉の奥を引きつらせて笑った。「撃たれてもどうせ治るのに」
「勝手に死なれるのは気分が悪い。質問に答えろ」
「
……
ハハ、そういうこと。お優しいねえローガン
……
」
全身がふわふわする。ヤクをキメたときのような、甘美で完全なトリップが目前に迫っている。
「甘すぎて反吐が出そうだ」
「
——
何だと?」
俺はこめかみの傷口を叩いてトリップを中断させた。幸福感が消え失せ、残ったのはひどい目まいと痛みと胸を圧迫する吐き気、それにローガンに対する胸糞悪い気分だけだ。
「気分が悪い? そんな理由であんたが攻撃されたら
……
俺は、ブチギレるぞ」
引きずっていた足に力を込め、一歩ずつ地面を踏み締める。無意識だろうか、ローガンの手にさらに力が入った。俺の体はローガンのほうに引き寄せられ、ぴったりくっついた体半分から相手の体温を感じる。めちゃくちゃ熱い。ローガンの体温が高いのか、それとも俺の体温が極端に低いのか。たぶん後者だ。あまりにも血を流しすぎている。
俺は首を動かしてローガンを睨みつけた。
「自分の身くらい自分で守れるわボケじじい。あんたは、あんたの、心配だけしてろ」
「
……
てめえの想像ができるのなら俺の立場も想像しろ」
ローガンの声は怒りで震えていた。「狙撃手なら目立った行動をするな」
「あんたのせいだ
……
」
「ウェイド」
「あんたがひとりで突っ走ったせいだ」
夜闇に紛れて黒く見える奴の瞳が、俺の言葉で左右に揺れ動いたように見えた。
「
……
だから、次からは仕事が入ったらあんたに言う。それで、あんたを入れた作戦をあらかじめ組む。報酬も二人で山分けだ、感謝しろよ」
ローガンはとうとう黙り込んでしまった。俺も口を閉じて俯く。空気は最悪だったが、ローガンも俺も歩くことだけは止めなかった。
ちょっとだけ考えたあと、再び息を吸って重い口を開く。
「今日の獲物は、あんたが居なかったら取り逃がしてたと思う。
……
サンキューな。助かったぜウルヴィ。お腹が空いた。あんたからアップルパイみたいなシナモンのいい匂いがする
……
」
「ウェイド。
……
大丈夫か?」
おっと、本音だと思われていないようだ。これにはさすがの俺ちゃんもショックかも。悲しいよクソが、不貞寝してやる
……
。
——
意識を失う直前、あるいは既に夢の中だったかもしれない。
ローガンの声が聞こえた。今度はとても近かった、俺の耳たぶに熱い吐息がかかるくらい。残党を皆殺しにしたと言っていたか、奴の体からは血と汗のにおいがして、なのに不思議と不快ではなかった。俺が知っているウルヴァリンのにおいだ。どんな戦場でも必ず生き残る男だと確信させてくれる、生と死の香り。
こいつは普通の人間のように銃を持たない。代わりに全身が驚異的な武器なのだ。まさに生きた兵器だった。だが、銃が体の部位ではなく道具であるように、心まで武器になったわけじゃない。俺を心配して任務についてきたあんたはちゃんとした人間で、とても親切だ。その事実に俺は救われるし、一方で歯痒くも思う。だから俺たちは衝突する。傷付き、傷付け合う。俺たちの心は痩せ衰えて脆く、性格も思考も真逆で反発し合うのに、気付くとなぜか同じ方角を向いて、同じ場所に戻ってくる。
ゆえに、あんたの隣は心地良い。
ゆえに手放し難い。
ゆえに
——
。
彼が何と言っているのが聞こえたか?
名前だ。俺の名前。人の命を奪うことしかできない傭兵でも、安全圏に居座る卑怯なスナイパーでも、実際に人を殺しまくった生きた兵器としての名前でもない。熱い手のひらで俺の頰をさすりながら、ローガンはひとりの人間として存在する俺の名前を、繰り返し呼んでいた。
× × ×
ちょっと待って。このページを閉じる前にひとつ、後日談でもどう?
翌朝、怪我からおおかた回復した俺は、鬼のような形相をしたローガンに絶対安静を言い渡された。ベッドから一歩も出るな、だとさ。過保護で困っちゃうよな。しかし、俺としても目まいが収まっていなかったので、大人しくベッドの上で一日を過ごすことにした。
たっぷり二度寝したあと、昼過ぎにスマートフォンを引っ掴んで電話をかけた。相手は昨晩の任務のクライアントだ。奴はすぐに電話に出て、見舞いの言葉を淡々と述べた。今までずっと心配していた、きみを仲間のように思っていた、だって? そう思うならまずはあんたの部下を一から鍛え直せ。昨日のあんたらはサッカーを習いたてのガキみたいにゴール一辺倒で、全く周りを見ていなかった。俺の言葉にクライアントは笑い、形だけの謝罪を口にして報酬の話に移った。この電話が終了してから三十分以内に、前払金を差し引いた残りの金額を指定の口座へ振り込む。俺は同意し、電話を切ろうとしたのだが、クライアントが引き留めた。
『きみはレーザーサイトなんて使わずに直ちに撃つべきだった』
うわ。覗き見かよ、趣味が悪いな。思わず出てしまった俺のぼやきに、クライアントは小声で笑った。
『銃は体の一部だ。狙撃手であったのなら尚更、きみの脳は一体化して銃そのものだったはずだ。実際、きみは直前まで人の頭を大量に撃っていたのに』
「それってクレーム? 悪いが、あんたが何を言いたいのかさっぱりわからない」
『殺せという銃の声が聞こえなかったのか?』
俺はベッドの上であぐらをかき、隣に置いていた皿に手を伸ばして、不格好な大きさに切り分けられたリンゴを摘み上げる。さっき、ローガンが無言で部屋に入ってきて置いていったのだ。たぶんあいつが切ってくれたのだろう。態度が態度だったので面と向かって言えなかったが嬉しかった、食べるのが少しもったいないと思えるくらいには。
「俺は銃じゃない」
ギザギザな切れ目を眺めながら俺は答えた。
「体の一部であるように感じる瞬間はあるが、銃は俺の体になり得ない」
短い沈黙のあと、そうか、とクライアントの声が聞こえた。私には理解できないが、きみの考えも素晴らしいものなのだろう。きみは強いから
——
そうそう、それともうひとつ。
『きみは個人主義だと聞いていたが、まさか仲間がいたとは』
「仲間? ああ、俺ちゃんが気絶している間に通話したらしいね」
そういえば二人は何を話したのだろう。俺が知る余地は無いのだろうが、笑っていたって、こいつが? やっぱり気になる、あとでローガンに聞いてみよう。それまでにあいつの機嫌が直っているといいんだけど。
「俺の相棒だ。これからは二人でやっていくつもりだから、よろしく頼むよ」
『承知した。ありがとう、デッドプール』
通話を終えてリンゴに齧り付いた。口の中でしゃくしゃくと音を立てて果汁が喉の奥へ流れ落ちていく。おいしかった。だが今の俺にはちょっと甘すぎたかもしれない。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内