しゃどやま
2024-10-24 20:54:28
2264文字
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【宗戴】死神

死神宗雲よすぎ〜〜〜〜の宗戴 死ぬけど、HAPPY ENDです。

「死神を見て怯えないのか」
「いえ。そのために居ますから」
 死神は、病床の男の部屋で奇妙なものをみる。真っ白い服に、長い金の髪。跪いて祈る男は、死神に言った。
「ご当主様の命の代わりに、私の魂を刈り取っていただきたい」

 死神が来た館は大きく、豊かな財産を持っているようだった。だが死神には関係ない。あの世には魂一つで逝くのだから。大鎌を背負った死神は、困惑しながら金髪の男を見下ろす。
「お世継ぎはまだ齢十一。今、ご当主様に逝かれては困るのです」
「関係ない」
 死神は強く拒絶する。魂を一つ刈り取ることは既に決まっていたからだ。病床の男は、明日までに死ぬ。しかし金髪の男は余裕たっぷりに、髪を撫でて首筋を晒してみせた。
「死神の鎌は百発百中。命をみすみす逃せば恥になるのでしょう?」
 交渉できるとでも思っているのか。死神が戸惑っているのにも関わらず、金髪の男は堂々と言う。
「私の命をどうぞ持ち帰ってください」
……それは、できないわけではないが」
 死神は口籠る。決まっているのは魂一つだけ。その魂が若かろうと、老いていようと関係ない。この部屋で、人が死ぬ。その魂を持ち帰る。
 金髪の男は真っ直ぐな瞳で言う。
「迅速果敢。どうぞ決断を」
 死神には、人形のような瞳に見えた。
「この男の魂はまだ一日ほど地上に留まる。その間、よく考えろ」
 困惑しながら死神は言う。金髪の男は立ち上がり、迷いなく首を振った。
「考えることなどありません。私の命で家が育つなら、それ以上の最善はありません」
 死神は少し考える。腕を組み、窓の外を顎で示した。
……来るか?」
 金髪は意味がわからないというように、目を丸くする。

 街中では鎌とマントを消す。平然と歩く死神の横を、やや緊張した面持ちで金髪が歩く。
……本当に街へ行くとは」
 人混みに戸惑いながら、連れ出された金髪は屋台の品物を覗き込む。死神は肩をすくめた。
「言っただろう。街は初めてか?」
「馬車で通ったことはありますよ」
 それを初めてと言う。道をふらりと外れそうになった金髪の男の腕を引っ張り、路地を曲がった。
 夕暮れの酒場はさして混んでいない。まだ夜には早いからだ。座らされた金髪は、渡された麦酒を見下ろしながら呟いた。
「なぜ酒場……
「人間の享楽と言えば酒、食事、色恋だ」
 死神は麦酒に口をつけ、唇を潤した後に続ける。
「お前も恋の一つでもすればいい。俺の仕事を妨害しようなどとも思わなくなる」
……死神にしては俗っぽいことを言うのですね」
 金髪の男は、はっ、と短く笑う。酒はいけるクチのようで、すいすいと呑んだ。
「恋に、命をかけるほどの価値がありますか? 後世に残る偉業がありますか?」
「後世に残る偉業に、命をかけるほどの価値があるか?」
 死神の返した言葉に、金髪の男は眉をひそめる。価値観は歩み寄れなかった。

 夜が更ける。酒を飲みながら他愛もない話をした。頭の切れる金髪も、世間を知る死神も、悪くない話し相手だった。ボードゲームのように議論を楽しむ。一枚上手の死神が勝ち逃げしようとすると、金髪もムキになった。金髪が勝つと、楽しげに笑みを浮かべた。
 帰り道を歩く。ほどよく酔った金髪は、呟いた。
「あなたとの酒盛り、楽しくはありましたよ」
「生きる気になったか?」
「いいえ。私には使命と義務がありますから」
 答えは決まっていた。死神にもすでにわかっていた。簡単に揺るぐ男ではないと。真っ直ぐ伸びた一本の線のような男だと。
「そうか……
 残念そうに言う死神に、金髪は笑いかける。小さな事にこだわる男だと、からかうように。
「死神というのは、そんなにもプライドが高いのですか? 一つの命には変わりないでしょう」
「いや」
 死神は逡巡する。けれど、死ぬ相手ならと、言った。
「麦畑のようで、綺麗な髪だと思った」
 金髪を揺らして、男が笑みを失う。瞳を覗き込むように、死神は言う。
――死なすのは惜しい」
 長い沈黙の後、ふふ、と楽しげに金髪の男は笑う。
「死神が人を口説くとは」
「フ。死にたくなくなったか?」
 愉快そうに目元を拭う。金髪は、首を左右に振った。
「いいえ……いいえ」
 祈るように胸元に手を当てる。金髪の男は、微笑んだ。
「帰ります。私の命を、お願いします」

 息絶えようとしている病床の男の隣で、金髪の男は跪く。死神はその首に鎌を当てた。疲れた様子で言う。
「頑固な男だ」
……死ぬのは嫌ではありませんでしたから」
 顔を上げる。死神を見上げる瞳に、後悔はない。
「私の好悪は関係ありません。全ては家のためです」
 指を祈りの形に組んで、金髪の男は微笑む。
「でも。あなたに刈られるなら、死ぬのも素敵なことだと思いました」
 死神は唇を噛む。魂と肉体を切り離した。











……それでなぜ、まだここにいる?」
 死神の隣に、ふわふわと浮かぶ幽霊がいる。長い金髪を、空気に散らした。
「弟のことが心残りで浮遊霊になってしまいましたね」
「そんな気軽にか……
 死神が呆れると、幽霊は片頬を持ち上げる。皮肉に言う。
「あなたがきちんと冥府へ送らなかったから」
……む」
 青空に背を向けて、金髪の幽霊は笑う。死神に向けて手を広げた。
「死神のあなたに、幽霊の私。似合いでしょう?」
「似合いの、なんだ?」
 幽霊は答えない。死神の言葉を、待っていた。


おしまい