Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
Hizuki
2024-05-27 23:37:31
7325文字
Public
あんスタ[零薫他]
Clear cache
さよならをする時はあんたの隣がいい
【あんスタ】零薫。世界最後の日にライブをするUNDEADの話。その時が来たなら。
「
…
正直まだ信じられないんだけど、俺」
どうやらこの世界は今日終わりを迎えるらしい。
「突然あんなことを言われて、すぐに受け入れられる方がどうかしていると思うぞい」
隣を歩いている零くんが俺のぼやきに苦笑交じりに応える。突然の終末のお知らせは天祥院くんから告げられたものだった。空から大きな隕石が降ってきて、世界の全てが崩壊してしまうのだとか。『fine』の名を冠するユニットのリーダーの彼から終末を知らされるというのは何の因果なんだろうと思わなくもない。俺達が情報を知った数分後、あらゆるメディアの話題もそれ一色になった。
「とはいえ、今からできることなんて特に何もないもんねぇ」
「そうじゃのう。あと3日、せめてもう1日あれば多少やりたいことをする、ということも叶ったであろうが」
そんな空想の中でしか起きないようなことが実際に起きるなんて誰が予想しただろう。『もし世界最後の日が来たらどう過ごしますか?』なんていう質問をいつかのインタビューでされた気がする。その時の俺は何て答えたんだっけ。『できそうなやりたいことをできるだけやる』みたいなことを言った気がするけれど、それが現実になってしまうとできることは意外と少ないのだと気付かされた。せいぜいいつも通りの生活をするくらいしかなくて、世の中は思ったより混乱していないような空気になっている。あるいは唐突すぎて世間を巻き込んだ大規模な冗談くらいに受け止められているのかもしれない。
「
…
零くんと一緒に行きたい場所とか、見たいものとか、まだいっぱいあったんだけどなぁ」
「我輩もじゃよ。思い立ったが吉日とはよく言ったものじゃ」
紫色のペンライトで染まった客席。
いつだったか零くんがおすすめだと言っていたお店。
以前俺が個人の仕事で行ったすごく綺麗な海。
他にもいっぱい。
互いに忙しかったのは本当で、そのうち時間が取れたら、で先送りにしていたら、こんなことになってしまうなんて思ってもみなかった。零くんの言った通り、思いついた時にちょっと無茶をしてでもやっておけばよかったと今になって思い知らされる。
「
…
色んなことがあったよね」
決して長い人生とは言えないけれど、濃い人生だったとは言える。夢ノ咲に入って、零くんやみんなと出会ってUNDEADとして活動するようになって、零くんとはユニットの仲間として以上の関係にもなって。
「うむ、実に様々なことがあった。そのどれもが我輩にとっての宝物じゃよ」
愛おしそうに零くんが言う。形として残っているものがあれば、そうでないものもある。全部俺が生きてきた証で、かけがえのない宝物。
「
…
ありがとう、零くん」
ぽろりと零れたのは零くんへの感謝の言葉。
「いきなりどうしたんじゃ?」
「ん~?何となく、言いたくなっただけ」
「ふふ、ではそういうことにしておこうかの」
疑問を滲ませつつも、嬉しそうな声で零くんは俺の曖昧にした答えを受け入れてくれた。零くんと出会わなかったら、きっと俺は今ここにいない。テレビで今日の知らせを知っても、何もできることはないし、最後の日をただ普通に過ごしているだけになっていた気がする。
「本当は薫くんともっと同じ時を重ねて、ずっと共に在りたいと思っておった
…
我輩の命が自然に尽きる、その時まで」
「えっ、そこまで!?」
零くんの言葉は時折とてつもなく重くなる。例え同じ言葉を他の誰かが言ったとしても、多分零くんからの音の方が重く聞こえる。それが嫌とか、重荷とかそういう意味ではない。前振りなくいきなり放り投げられるから、受け止める態勢がすぐに取れないというだけの話。
「そこまで、じゃよ。まぁ、叶わぬ望みとなってしまったがの」
少し遠くを見るように視線を上げて発せられた音は寂しさを含んでいた。そんな先まで考えていたことに驚きつつも、そこまで考えていてくれたことを嬉しく思う自分がいる。
「
…
何寝ぼけたこと言ってるの?もっと同じ時間を、ってのは無理だけどさ、最期までは一緒にいられるじゃん」
「いてくれるのかえ?」
「零くん、俺達がこれから何をするのか忘れたわけじゃないよね?」
俺達はとある場所に向かっている途中だった。その目的地には晃牙くんとアドニスくんがいる。
「
…
くくく、冗談じゃよ。そうじゃの。覆せぬ終焉を迎えるのならば、その時までアイドルで在り続ける。ファンの皆の不安を和らげるために、我輩達の歌を届ける」
いつも通りに世界が動いているように見えても、突然『世界が終わります』なんて言われたら不安になるのは当然のこと。そういった声はSNSを中心に溢れていた。『怖いからずっと推しの声聞いとく』とか『好きな歌聞いて気紛らわせてる』とか、そんな言葉をたくさん見かけた。もちろんその中には俺達の名前を挙げてくれているものもあった。場所の共有まではさすがに無理だけれど、今の俺達の生の声なら届けられる。
「そう。最初にTrickstarの子達が動いたのをきっかけに、みんなが動き出した」
やっぱりそういうことへの動き出しが早いのはTrickstarだった。彼らが先陣を切り、もう既にいくつかのユニットが生配信の形でライブを始めていた。予告を出しているところもあり、俺達も配信の告知は出してある。あちこちで始まった配信に、今度は『どこも見たいけど目と耳が足りない』なんて悲鳴が飛ぶようになって。
「もちろん俺達も。だからどうしたって、俺は零くんと一緒にいる、ってこと。晃牙くんとアドニスくんもね」
「
…
ありがとう、薫くん」
俺や零くんが声をかけるより前に晃牙くんから連絡が来た。『当然俺様達もやるんだよな!』という断定の文面で。疑問符付きじゃないところがあの子らしい。ライブの場所を検討していた俺達も早々に決めて共有すれば、『さきにじゅんびをしておく』とアドニスくんから返事があった。その時が来るまでライブは終わらない。だから零くんが望む通り、その瞬間俺は零くんの側にいることになる。
「最期の場所がステージの上だなんて、アイドルとして最高の場所だと思わない?」
突貫で準備するステージだから凝った演出もできないし、ファンの子達が目の前にいるわけでもない。それでも、アイドルとしてステージの上に立って、その場所が最期の場所になる。同時に世界も終わってしまうから、誰の記憶にも、どこの記録にも残らないけれど。
「その言葉、学生時代の薫くんが聞いたら驚くじゃろうな」
「ほんとほんと。あの頃の俺からは絶対出ない言葉だよね」
「それだけ薫くんが成長したということじゃの」
うんうん、と零くんは大きく頷いた。アイドルとしてやっていく、と決める前の俺からは間違いなくそんな言葉は出ない。その道を進むと自分で決めて、歩いてきた今の俺だからこそ言えること。そんな風に思えるようになったのは、成長した証と自分を誇ってもいいのだろう。
「さて、そろそろ行こっか。みんなを待たせちゃってるし」
お互いに歩く速度が普段よりゆっくりなことは自覚していた。零くんと話したいことはまだまだいっぱいある。もちろん『今日』だから、というのもあるのは分かっている。だけど、晃牙くんとアドニスくん、それに俺達の配信を待ってくれているファンのみんながいるから、このまま話し続けているわけにもいかなかった。名残惜しさを断ち切るために、並んで歩いていたところを一歩前に出る。
「
…
薫くんや」
「何、零く
…
」
名前を呼ばれて振り返った瞬間、腕を引かれた。
名前を呼ぼうとした声は、途中で消されてしまった。
…
零くんが、俺の口を塞いだから。
触れるだけだったそれは、徐々に長く深いものへと変わっていく。いつの間にか腕は頭の後ろと腰に添えられていて、しっかりと固定されている。応えるように零くんの背中に腕を回し、舌を絡めた。世界の終わりはもうすぐ近くまで迫ってきていて、どうにもならない最後の日を人々が過ごしている側で、俺達は背徳的な行為で互いの存在を確認している。
「
…
こうして薫くんに触れられるのも、きっと最後じゃから」
熱い口づけから俺を解放すると、目を伏せたまま息が触れる距離で告げた。そして、カーネリアンの瞳を真っ直ぐこちらに合わせると、俺の口の端を親指で拭う。
「愛しておるよ、薫くん」
穏やかな笑みを浮かべて、何も飾らない、シンプルな言葉を、極上の甘い声で囁く。
この表情の朔間零を知っているのはきっと俺だけ。
「ほんっと、ズルいよねそういうとこ
…
」
ただでさえ熱くなっているところにかけられたストレートな想いは、更に熱を引き上げていく。嫌でも顔が熱いのが分かる。さっきのまま俺の頬に手を添えている零くんの手には、きっとダイレクトに伝わってしまっているはずだ。腰も抱かれたままで逃げることもできず、視線を逸らすことくらいしかできない。いや、最初から逃げるつもりなんてなかった。世界が終わってしまったら、もう二度とこうして零くんから求められることもなくなってしまうのだから。
「
…
俺も。愛してるよ、零くん」
だから、俺も同じ言葉で返すことにした。満足そうに笑みを浮かべた零くんはもう一度触れるだけのキスをして、腕を解いた。そのまま俺の方に差し出された手を取って、何も言わずに歩き出す。
俺達が最後のステージに選んだ場所は放棄されたビルの屋上だった。そこに出るための古びたドアを開ければ、きぃと蝶番が音を立てる。
「遅ぇぞ、先輩達!」
開けるのと同時に飛んできたのは晃牙くんの声。待ちきれないといった様子で、その声は弾んでいる。
「ごめんごめん。準備ありがとうね」
「いつでも始められる」
そう言って準備万端なアドニスくんが俺と零くんの二人分の衣装を手渡してくれる。揃ってそれを受け取り、いつものユニットの衣装を身に纏う。ファーの付いた黒のロングコートを羽織り、グローブを着ける。指を折って馴染ませて、最後に帽子を被った。
「では、我輩達も最後の宴を始めるとしよう」
殺風景な屋上のあちこちに紫と黒のキャンドルが置かれていた。手分けして火を灯し終えると、揃って中央に集まって顔を見合わせる。
「
…
We are?」
夜闇の王が俺達に問う。
返す言葉はただ一つ。
「UNDEAD!!!!」
インスト版の音源が流れ出す。一曲目はこれが俺達だと叫ぶのにうってつけの曲を選んだ。何度も繰り返し歌ってきて、全身に馴染んでいる曲。普段のライブなら客席からコールが返ってきて、本当にテンションが上がる曲。今日は一気に流れる同じコメントがコール代わりで、形は違っても同じように乗せてくれる。
今回はセットリストを組まずにリクエストを拾いながらやっていこうと決めていて、俺達のライブにしてはゆっくりとした進行だった。コメントから話を広げたり、全く関係ない話をしたり。今の俺達を見て、一時でも怖いことを忘れてくれればと。
それでも、世界の終わりが近付いてきていることに変わりはなくて。
青かった空が夕焼けの色よりも濃い赤へと少しずつその色を変えていく。ついにはその時がいつ訪れるのかという予測が立ったようで、コメントを追っていた端末にホールハンズで天祥院くんから連絡が入った。
―
終末まであとおよそ一時間の見込みだ。これまでの皆の協力に感謝を。またいつか、どこかで
世界が終わるのにいつかもどこかもないだろうにと思いつつ、コメントの共有を装って三人にそのメッセージを見せる。零くんは順番に俺達と目を合わせると、ゆっくりと立ち上がった。
「さて、嬢ちゃん達よ。我輩達ともうひと騒ぎ、できるかえ?」
零くんの問いかけに画面の文字が応える。
「うむうむ、よい返事じゃ。今度は我輩達にも何が出るかは分からぬ。聞きたい曲が聞けるように祈っておくれ」
何をしようとしているのか、その言葉で理解した。ランダムで曲を選ぼうというつもりらしい。その通りに設定を変え、俺と晃牙くんとアドニスくんも準備を始める。とはいえイントロが流れないと、どこに立つのかも分からないのだけど、そういうのも面白い。普段のライブではまずできないことだった。
「では、始めようぞ」
パフォーマンスをしながら、空の色をちらりと見る。空全体を染めた赤はより濃くなり、その奥にうっすらと影が見えた。何か機器が影響を受けているのか、しばらくしてメロディが途切れるようになった。影は徐々に大きくなっていく。きっとSNSには今の空を撮った写真が溢れているのだろう。少しずつコメントも減り始めていた。
知らされた予想時間まではあと2曲くらいだろうか。数時間前までは実感がなくて、誰かを支える側に回っていたけれど、こうして目の前まで迫ってくるとさすがに怖くなってくる。
きっと次が最後の曲。聞こえてきたイントロは、いつかのライブの記憶を蘇らせた。ステージの玉座に座っている零くん、その右側に立っている晃牙くんとアドニスくん、左側に立っている俺。棺桶を吊るして落とそうって言ったのは誰だったっけ。でも今ここにあるのは、演出の棺桶じゃない。世界の終わりを告げる隕石で。まるで俺達の真上に落ちてくるかのように影を落としている。ここが俺が、俺達UNDEADが眠りに就く場所。
…
最期までアイドルで在り続けようと思ったけど、やっぱり無理みたいだ。
きっともう誰の目にも入っちゃいない。真っ赤な空と大きな黒い影に気を取られて、誰もこっちを見てなんかいない。だったら、いいよね?
「っ
…
零くんっ!」
手にしていたスタンドマイクを手放して、名前を呼んだ。マイクが倒れる音に紛れたものの、声は届いたらしい。一瞬驚いたように目を見開いて、それでも、伸ばした俺の手を笑いながら引いてくれた。手を引かれた拍子に帽子が頭から落ちる。そんなことはもうどうでもよくて。衝動のままに零くんを抱き締めて、キスをした。零くんの温度を唇に感じたのを最後に、俺の意識は途切れた。
この曲の歌詞のように、眠りから蘇らせる歌声が届くことはない。
でも、隣には零くんがいる。
もう目覚めることがなくても、それだけで十分だった。
「
…
っていう夢だったんだけど」
午前の仕事の関係で後ろにずれ込んだ昼食を取り、食後のコーヒーを飲みながら昨日見た夢の話を零くんにした。突然告げられた世界の終わり、そして、その最後の日をどう過ごすのか。久し振りに夢を見たと思ったら、それは随分と現実からかけ離れた話だった。内容が内容なだけに正直零くん以外には話せないだろうなと思っていたのもある。多少の暇つぶしくらいにはなるだろうかと、「ちょっと変な夢を見たんだよね」と切り出した。
「それはそれは
…
また濃い夢じゃのう」
相槌を打ちながら聞いてくれていた零くんがカップに手を伸ばす。それにならって俺もカップを口に運べば、中身は飲みやすい温度になっていた。
「夢の中の薫くんは最後の時に我輩といることを選んでくれたようじゃが、目の前の薫くんはどうなのかえ?」
「え、それ聞く?まぁ、物理的にどうにもならないって状況じゃなければ、零くんといるんじゃない?」
例えば、お互いに別行動をしていたとしても、移動手段が使えるのならどこかで合流するなり、二人の中間地点で落ち合うなり、といったことはできるだろう。もちろん一緒にいる可能性もあるし、どうあがいたってもう二度と会えない可能性だって否定できない。もし本当に夢の中みたいなことになったとしたら、それこそ状況次第になる気がする。けれど、できるなら零くんと一緒にいたいとは思う。
「そういう零くんは?」
「ん?どんな手段を使ってでも薫くんといるつもりじゃよ」
「
…
先に言っとくけど、常識の範囲内にしてよね?」
「もちろん分かっておる。ほんとほんと」
あまりにもさらりと言うものだから聞き流してしまうところだった。どんな手段でも、という言葉に一応釘は刺しておく。非常事態となれば常識が通用しなくなるような場面もあるのかもしれない。とはいえ、手段を選ばないと言い切ってくれるほどなのは嬉しいとも思う自分がいる。
「しかし、少しばかり考えさせられる話でもある」
カップをソーサーに戻した零くんは、真面目な表情でテーブルに肘をついて顔の前で手を組んだ。そう言う声はいつにも増して真剣だった。
「というと?」
「万が一の時に未練になりそうなことは一つでも減らしておきたい」
先を促すと、そのまま同じ調子で言葉を続けた。そして、組んでいた手を解くと表情をぱっと明るくさせる。
「そこでじゃ。我輩達、明日はオフじゃろ?」
「うん、そうだね」
「ずっと薫くんと行きたいと思っておった場所があるんじゃよ。一緒にどうかえ?」
スケジュールの確認の後に重ねられたのはお出かけのお誘い。零くんからの誘いが素直に嬉しくて、ふっと口元が緩んだ。
「あはは、奇遇だねぇ。俺も同じこと考えてた。この間零くんが気に入りそうなお店見つけてさ、一緒に行きたいなって思ってたんだ」
同時に同じことを考えていたことにも重なって、俺からも提案を返す。思い立ったが吉日。できることはできる時に。あんな夢を見た後だからこそ、余計にそう思う。
「ふふ、では決まりじゃのう」
「それじゃ、まずは今日のお仕事を頑張らないとね」
零くんと顔を見合わせて笑う。どうしようかと思っていたオフの予定も決まった。楽しみがあれば仕事はより頑張れる。夢の中の俺じゃないけれど、まだまだ零くんと見たいものや行きたい場所はいっぱいある。それに、きっとこれからもまた増えていく。零くんとしたいことリストは俺の未練と同じ。全部埋めるまでは終われない。
―
でも、もし何かどうにもならない理由で世界にさよならをする時が来るのなら。
その時は、絶対に零くんの隣がいい。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内