Hizuki
2021-05-03 20:54:00
2295文字
Public FF14
 

叶わなかった夢、叶えたい夢

【FF14】エス+光。小さい頃のヒカセンの夢の話。5.5前半メインクエ後、レヴナンツトールにて。直接的なネタバレは含んでいないとは思いますが、一応クリア済みの方が安心かと。昔夢見ていたことは。



さてどうしようかとセブンスヘブンを出てすぐの石造りのベンチに座って人々を眺めていると、何やら可愛らしい声が聞こえてきた。

「わたし、おおきくなったらおにいちゃんのおよめさんになる!」
「おお?そうか、じゃあ楽しみに待ってっかんな!」

レヴナンツトールのエーテライトの側。
幼い女の子が隣に立つ男の子に向かってそう言った。
少女の無邪気な宣言に少年も顔を綻ばせて答える。
微笑ましい光景である半面、少しばかり複雑な感情が心の中に浮かんでくる。

はぁ」
「お前が溜め息とは珍しいな」

目には見えない形になって顔を見せたそれは、どうやら相棒様に聞かれていたらしい。
私の上に影が落ち、そちらの方を見上げた。

「そういう時だってありますよーだ」
「で、どうしたんだ」

隣に腰を下ろしたエスティニアンがほんのちょっとだけ心配の色を声に乗せて尋ねる。
とはいえ、彼が心配するようなことではない。

「もう叶わないだろうなっていう昔の夢を思い出したの」

後ろに手をついて空を見上げた。
遠い遠い何年も昔の話。

「小さい頃に私をお嫁さんにしてあげるって言ってくれた男の子がいてさ。それが純粋な少女だった頃の私の夢だったわけよ」

故郷のお姉さんの結婚式だった。
近所の人達総出で準備をした晴れの日。
村一番の裁縫上手のおばさんが作った白いドレスを着て、幸せいっぱいで笑っていたお姉さんを見ていた時に、私の隣にいた男の子がそう言った。
向かいの家に住んでいた男の子で、よく一緒に遊んでいた。
今考えれば結婚するような感情とは違うんだろうなと思うけれど、多分あの頃は好きだったんだと思う。

「ガキの頃の約束なんて、あってないようなものだろう」
「まぁそうなんだけど。昔の話は別にしても、普通に恋して、結婚して、幸せな家庭を築けたらなって思ってたって何なのその顔は」

エスティニアンの言うこともその通りで。
大きくなれば小さい頃の約束なんて大体なかったことになる。
言葉の意味も分からないまま交わした約束が本当に現実になるなんてそうありはしない。
私だって分かっていた。
ふと隣の彼を見れば、驚いたように目を丸くして、意外とでも言いたそうに私を見ていて。

いや、気にするな。続けてくれ」

慌てて顔を逸らしたエスティニアンが続きを促す。
とはいえ意外と言われても仕方ないなという自覚もある。
彼が知っている限りでそんな要素は私には微塵もない。
深く追求することは避けて、視線を前方に戻した。
さっきの女の子が男の子に手を引かれて歩いていた。

旅に出て色々あった結果、英雄なんて呼ばれるようになって気付いたら今ここよ。エオルゼアで私のことを知らない人なんてほとんどいないと言っていい」
「なるほど?」

旅に出たのは今いる場所からもう少しだけ広い世界を見てみたいと思ったからで、ちょっと見たら戻るつもりだった。
そう、『ちょっとだけ』見たら戻るつもりが、今に至っている。
時々手紙を出してはいるけれど、旅に出てから今まで一度たりとも故郷に帰ってはいない。
いや、帰れなくなっていたというべきか。

「私の人生、もう戻れないところまで来てるんだなって思ったら、ね」

あの約束をした男の子も、きっと村のいい子と結ばれているだろう。
そして、このエオルゼアという土地で、もう普通の恋愛をして結婚するなんてことは叶わないと言っていい。
憧憬、羨望、尊敬、あるいは畏怖。
私に向けられる感情は恋や愛といったものからは遠くかけ離れている。
はぁ、とまた息が零れた。

「何だ、そんなことか」
「そんなことって

今度はエスティニアンが呆れたように息を吐く。
切実、とまでは言わないけれど、私にとっては結構重要なことなのだから。

「逆に今の普通から考えてみればいいんじゃないのか」
「今の普通から、か」

エスティニアンからの提示に、ふむ、と少し考えてみる。
今の私がいる環境、周りにいる人達から。
一緒に戦ってきた場数がある分、どうしても頼れる戦闘面に目が行きがちではあるけれど、何だかんだで魅力のある人達に違いはない。
得体の知れない危機がすぐ側にある今、不用意なことがあろうものなら連携を乱す可能性だってある。
それ以前にいきなり恋愛感情に切り替えられるのかと言われれば、そういうわけでもない。
けれど、その中で一人だけなら。

ちょっと考えてみたんだけど、エスティニアン、どう?」
は?」

私の提案に返ってきたのは間抜けな声。
まさか矛先が自分に向くとは思っていなかったのだろう。

「多分恋愛感情とは違うけど、一番近いのはエスティニアンだと思うからさ」
「お前な

こんな話をできるくらいには彼に心を許している。
理由を告げれば、手で顔を覆い、更に呆れたように深い息を吐く。
言い出したのは自分の方でしょうに。
おかしくて思わず笑い声を上げる。

まぁ、俺も似たようなものか。全部に片が付いたら、考えてやらんこともない」

長い指の間からちらりと私の方を見たエスティニアンが言う。
小声で続けられた返事に彼の方に身を乗り出した。

「あ、言ったね?ちゃんと覚えといてよ?」

問いかけに答えないまま、エスティニアンは立ち上がって歩いていってしまった。
新しい約束に証人はいない。
それは、私と彼だけのちょっと普通ではない約束。
子供達の誓いが果たされるように願いながら、私達の約束が果たされるように願いながら、歩いていく彼の背中を見つめていた。