Hizuki
2019-03-18 21:16:59
2257文字
Public FF14
 

心に留めておくだけのはずが

【FF14】アイ+光。3.3よりは後、一日執事の話。ヒカセンの仲間の名無し冒険者が3名ほどいます。似合いそうだなぁと口にしてしまったばかりに。



さぁ、俺にどうして欲しいんだ」

ゴブレットビュートの片隅、とある冒険者仲間の家で行われた宴会の場。
普段は仲間達の最前線に立って、敵の攻撃を一手に引き受けるヒューランの戦士が仏頂面で口を開く。

「わぁ威圧感すごい
「執事ってそういうのじゃないでしょー!もっとこう優雅な感じでさぁ!」

黒を基調とした燕尾服にスラックス、更に白の手袋に片眼鏡まで身に付け、私達の前に立っていた。
ウルダハでちょうどプリンセスデーの催しが行われている期間だったこと、それに加えて少し前からゴールドソーサーで遊べるようになったドマ式麻雀が全ての始まりだった。
ばったり出くわした4人でちょっと遊んでいこうという話になり、戦士と吟遊詩人と学者と私で卓を囲むことになって。
準備を整えながら、学者の彼女がこう言い放ったのだった。
『最下位の人が勝者の望みを何でも一つ聞くというのはどう?』と。
そしてその結果、見事1位になった彼女が最下位の戦士に告げた望みは『執事の格好をしてほしい』というものだった。

「クソッ、何で俺がこんな
「まぁとりあえず飲んで落ち着こうぜ」

勝者の望みは絶対。
上機嫌に笑う学者、宥めるように戦士のグラスにお酒を注ぐ吟遊詩人の姿を眺めながら、私もまたほんのりと甘い果実酒に口を付けた。



なんてことがありまして」
「なるほど、ウルダハではそういった催しがあるのか」

所変わってここはイシュガルド。
神殿騎士団の総長室、傍らには温かい紅茶と添えられたシロップ。
机の向かいに置かれた椅子に座り、休憩を入れる所だった部屋の主と時間を共にしていた。

「はい。この季節は各地で桃の花も咲いていて、綺麗なんですよ」

簡単にプリンセスデーの成り立ちと、つい最近あった仲間内の出来事を話すと、アイメリク卿は興味深そうに頷いた。

「王自らが市民に仕える、というのは市井の視察にも一役買ってくれそうだな」
「だと思います」

イシュガルドで同じことをするのは難しいだろうけれど、議会制となった今では以前よりは市民の声も届きやすくなっていることだと思う。
他国の話は置いておいて、自分の意識は先日の仲間の姿に引きずられていく。

「まぁ今回は完全に人選ミスだったなぁって思いましたよね」

やや服のサイズが小さかったのか、動きにくそうにしていたのを思い出す。
加えて話し方はいつも通りのものだから執事とは一体何なのかとなってしまう。
執事の格好を、ということだったからそこまでは求められていなかったにしても、イシュガルドで実際の執事の人達を見ていたからこそ、そう思ってしまうのだろうけれど。

「エスティニアンは同じことになりそうな気がする。アルフィノなら様になるんだろうなぁ」

かつて一緒に旅をした仲間達、彼らが同じ格好をしてみたらどうかと少しだけ想像を巡らせる。
眉間に皺を寄せて腕を組んでいそうなエスティニアン、照れながらも素直に着てくれそうなアルフィノ。
そして、私の頭に思い浮かんだ人物がすぐ側にいることに気付き、ふとそちらに視線を向ける。

「私の顔を見てどうかしたのか?」

それに気付いたようでアイメリク卿がカップをソーサーに戻しながら問いかける。

アイメリク卿、執事の格好似合いそうだなぁって
「私が、か?」
「あ、ごめんなさい!急に変なこと言って!」

問いの答えに目の前の人物が首を傾げる。
確かに考えていたとはいえ、まさか本人を前にしてそのまま口に出してしまうなんて。
取り繕いようもない私の言葉にただアイメリク卿は笑みを浮かべる。

「ふむ望むのなら私は君の一日執事になっても構わないが?」
「ええ!?」

更に返された返答に思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
紅茶を飲んでいるタイミングじゃなくて本当によかった。
もし重なっていたら噴き出すかむせるかのどちらかになっていて、アイメリク卿に迷惑をかけてしまうところだった。
代わりに被害を受けたのは手にしていたカップから零れて濡れた私の服の胸元だけ。

「えっと、あのちょっと考えさせてください

慌ててハンカチで零れた箇所を拭いつつ、小声で保留の意思を示す。
白い服を着ていなくて本当によかった。
多少色が濃くなってしまってはいるけれど目立ちはしないし、どうせコートも羽織るのだから誰も気にはしない。

「ならば君の心の準備ができたら、だな。いつでも言うといい」

付け加えられた言葉に一気に顔が熱くなる。
私が望めばこの人は、この神殿騎士団の長は、いわゆる貴族の使用人の服に袖を通してくれるというのだ。
自分で言っておきながら何てことを言ってしまったのかと一人慌てふためく。

「こ、紅茶ごちそうさまでした!」

カップの中に残る、飲み頃の温度になっていた紅茶を一気に飲み干して立ち上がる。
しっかりとシロップが混ざりきっていなかったのか、底の方の紅茶は酷く甘かった。
『また顔を見せてくれ』という彼の声にただ頷いてそそくさと部屋を、本部を後にする。
できるだけ彼の居場所から距離を置きたくて、下層の街中を駆け抜けていく。
私の前に片膝をついてこちらを見上げるアイメリク卿の姿が一瞬過り、慌てて頭を振る。
一体何を考えているんだ私は。
あまりにも不用意に言葉にしてしまった自分に頭を抱え、深く息を吐いた。
白い息はあっという間に外気に溶けていく。
心の準備ができる日は来るのだろうか。