Hizuki
2019-02-14 12:45:56
2388文字
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贈り物に感謝を込めて

【グラブル】ジクグラ。バレンタインの話。某国の風習より。ちょっとだけヴェインがいます。感謝の気持ちを込めて。



「何か甘い匂いがするなチョコか?」
「明日バレンタインだからって女性陣が」
「なるほどなぁ」

ふわりと漂う甘いチョコレートの匂い。
出所はもちろん艇内のキッチンで。
女性陣によって占拠されてしまったそこは、今日明日の2日間男子禁制となってしまった。

「ヴェインももらってるんでしょ?」

隣を歩くヴェインを見上げながら廊下を歩く。
国のため、人のためと日々鍛錬を積む白竜騎士団の副団長。
肩書きはあっても親しみやすい、そんな彼の元に何もないとは思えない。

「まぁ確かにもらったこともあるけど、フェードラッヘはちょっと違うんだよな」
「違う?」

首を傾げれば、ああ、とヴェインが頷く。

「カップルの男の方から女の人に花束を贈るってのが多くてさ」
「へぇー」

国が変われば風習も変わるということか。
この場とは真逆の話に興味が湧くものの、今はそれどころではなかった。

「さって!俺は何を手伝えばいいんだ?」

手伝ってほしいことがある、とヴェインには声をかけた。

「えっと、ちょっと買い物に

想うのは、今ここにいないあの人のこと。
普段通りを装ったつもりだけれど、何となく顔が熱い気がする。
きっと、いや多分何を買いに行くのか言わなくてもバレているのだろう。

はいよ!ヴェインお兄さんに任せなさぁい!」

廊下の先には甲板に続く扉。
キッチンを避けるように遠回りをしてきたのは、まぁ仕方がない。
触らぬ神に何とやら。
嬉しそうに胸を叩くヴェインと共に、甘い匂いと女の人で溢れかえる街に繰り出した。





部屋の机にはみんなからもらったチョコレートが置かれていた。
色とりどりの包装に一言が添えられていて、嬉しいのと同時にこれは来月が大変だなぁと一人呟いた。
そして、いただきものの山とは別に置かれた黒い紙袋。
それを見ながら、ぽすんとベッドに倒れ込む。

「まだ帰ってこないのかな

想い人はまだ艇に戻らない。
少し出てくる、と言って艇を降りたのは3日前。
紙袋はあの人に渡すためのもので。
いつ帰ってくるのか分からなかったから、頼れる人に相談しながら喜んでくれそうなものを探しに行って。
重くなってきたまぶたがゆっくりと視界を覆い始める。
柔らかいベッドにそのまま身を預けようとした時だった。

「グラン、まだ起きているか?」

抑え気味に扉を叩く音に続いて聞こえた声は、僕が待ち望んでいたもので。

「ジークフリートさん!」

眠気は一瞬でどこかに吹き飛んでいき、慌てて身体を起こす。
ばたばたと扉を開けると、黒のスーツに身を包んだジークフリートさんが立っていた。

「すまない、準備に手間取ってしまった」

ジークフリートさんはそう言って申し訳なさそうに頬を指で掻く。
ただ僕は見慣れない姿に口をぽかんと開けて瞬きを繰り返すばかりで。
そんな僕を見て目の前の恋人は笑みを浮かべる。

「いつもありがとう」

目の前に鮮やかな赤が差し出される。
扉を開けた時から感じていた匂いの正体。
バラの花束。

「え、僕に?」
「ああ、もちろんだ」

何故と問おうとして、昨日聞いた話を思い出した。
彼の国では男性から花束を贈るのだと。

「フェードラッヘの習わしでな。受け取ってくれるか、グラン」

人生でバラの花束をもらうなんてことはそうそうあるものじゃない。
しかも大好きな人からもらって嬉しくないわけがない。
驚きながらもこくりと首を縦に振ると、ジークフリートさんは笑みを深くする。

そうだ!」

もらった花束を抱えて一度部屋の中に戻る。
突然の訪問と花束に驚いている場合じゃなかった。
僕だって準備していたんだから。
そっと机の上に花束を置くと、代わりにさっきまで眺めていた紙袋を手に取った。

「僕からも

袋の底と上部の端を持ち、ジークフリートさんに差し出す。
嬉しいのと少し恥ずかしいのとが混じって視線は床に落ちた。

「僕の方こそありがとういつも頼りになるし、かっこいいし、えっとそれから

重みを感じなくなった手。
ふっと顔を上げるのと同時に、少しかさついた柔らかいものが言葉を遮るように触れる。
状況を理解するのに数秒。

「ありがとう、グラン」

この至近距離で、その格好で、その笑顔は無理。
全身の熱が顔に集まってしまったかのように熱く、蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなる。
言葉にならない声が口から漏れ、行き場なく彷徨っていた視線が机に置いた花束を捉えた。

「かっ、花瓶持ってくる!」

裏返った声を上げ、無理矢理動かした足でふらつきながらジークフリートさんの横をすり抜ける。
そう、せっかくもらった花束をあのままにはしておけないから花瓶を取りにいくのであって。

「大丈夫か?」
「だ、だいじょうぶ!」

バラの匂いと甘い匂いが混じる廊下をゆっくり歩く。
あの場にいたら倒れてしまいそうで、逃げ出すように距離を置いたものの、戻ったらきっとジークフリートさんは部屋にいる。

本当に僕、大丈夫かな

ゴンという鈍い音と同時に額に感じる痛み。
夜間用に絞られた照明のおかげで、倉庫の前に置かれていた荷物に気付けなかったらしい。
倉庫から透明の花瓶を持ち出して水を入れ、ぶつけてしまった額を押さえながら部屋に戻る。
部屋の前で深呼吸をひとつ。
ノブに手をかけようとするより早く扉が開いた。

「おかえり」

想像通り出迎えてくれたジークフリートさんと部屋に広がっているバラの匂いに、僕は全てを悟る。

うん、大丈夫じゃない。

これから先バラの花を見る度に、バラの匂いを感じる度に、今日のことを思い出すのだろう。
まるで僕の心の動揺を映したかのように花瓶の水面が揺れていた。