Hizuki
2019-01-16 23:34:43
2574文字
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同じ空を見上げて

【グラブル】ジクグラ。依頼の途中で雨に降られたジークフリートの話。同じ景色を見ているのだろうか。



辺りを打ち付ける雨音だけが耳に届く。
洞窟の入口から見える景色は、まるで滝のような雨に遮られていた。
剣を立てかけてから火を起こし、手頃な岩に腰掛けると、ふうと息を吐いた。



「では、行ってくる」
「気を付けてね、ジークフリートさん」
「ああ。そちらもな、グラン」

愛用の大剣を担いで、見送りに出てきてくれたグランと言葉を交わす。
時間がまだ早いこともあってか、甲板にはグランと俺の2人しかいなかった。
今回グランが受けてきた依頼のうち、俺に割り振られたのはよくある魔物退治だった。
曰く、『多人数で行くよりもジークフリートさんにお願いした方が早いと思うんだよね』と。
手渡された依頼書を再度確認して、懐にしまった。
背伸びをしたグランに合わせて少し身を屈めると、頬に唇が寄せられる。
周りに人がいないからこそなのだろう。

「へへ、おまじない」

そう言ってにっこりと笑うグランに送り出され、目的地の森の奥の小さな村へと向かった。
何を根拠にこの依頼を俺に振ったのかと考えていたが、理由はすぐに察した。
生い茂る木々に伸び放題の草、加えてあちこちに転がる岩と、何分村までの道中が険しかった。
なるほど、これは俺に託すわけだと納得する。
依頼自体は何の問題もなく済み、あとは騎空艇に戻るだけ。
来た時と同じ森の中を進んでいく。
雨が降り出したのは、そんな時だった。
最初は弱かった雨脚は次第に強くなり、あっという間に視界を覆いつくしてしまった。
流石にこの視界で動くのは危険だと判断し、近くにあった洞窟に避難して今に至る。
幸いなことに洞窟の周囲は開けていて、外の様子を窺うのに支障はない。
そういえば以前もこんな洞窟で雨をしのいだことがあったな、と外套が吸った雨を絞りながら、自分の記憶を遡る。
王殺しの汚名を着せられ、事件の真相を探っていた時のこと。
追手を撒くために逃げ込んだ山、視界だけではなく、音までも遮る雨。
天然の洞窟に身を隠し、気配を殺し、相手が去るのを待った。
今だからこそこうして思い返すこともできる、苦い記憶の欠片。
そう思えるようになったのは、太陽のような少年のおかげだった。
周りに魔物の気配などもなく、今の状況でできることは何もない。
動けるようになるまで一休みしようと静かに目を閉じた。



どれほど時間が経ったのだろうか、気付くと雨音はぴたりと止んでいた。
青空と夕焼けが混じる空、傾きつつある太陽が雨露に濡れた世界を輝かせている。
岩壁に預けていた剣を手に表に出た。
眩い光に目を細め、明るさに慣れると空を見上げる。
その瞬間、自分の目に飛び込んできたのは七色のそれだった。

「虹、か」

自然がもたらした彩りに思わず声が漏れた。
赤、橙、黄色、緑、青、藍、紫。
大きくアーチを描く虹の青に、不意に愛しい少年の姿が思い浮かんだ。
彼が隣にいてくれたなら。
長くは保たない七色は徐々に薄れ、空へと溶けていく。
同じ島の同じ空、彼も見ていたのだろうかと、今ここにいないグランを想う。
完全に消えてしまうまで見届けてからようやく足を動かす。
早く戻って彼に会いたい。
意識してしまえば、自然と足取りは速くなっていった。
行きに見た景色が増え、遠目にグランサイファーの姿が見えてくる。
空は夜に包まれていて、戻った艇の甲板には酒を片手に賑やかにしているいつもの面々の姿があった。
団長なら食堂にいるはずだぞ、と声をかけられ、そちらに向かう。
廊下に漏れる明かりが見え、中を見れば確かにそこにグランがいた。
テーブルに伏せ、すやすやと寝息を立てている。
グランも今日の日中には依頼に出ていたはずだ。
報告書を仕上げながら俺を待っていてくれたのだろうか。
散らばっている書類をまとめ、眠っているグランを起こさないようにそっと身体を抱き上げると、彼の部屋に向かう。
ベッドに寝かせて布団をかけ、メモを残した。
『明日の朝、報告に行く』と。



報告は以上だ」
「ありがとう、ジークフリートさん。お疲れさまでした」

翌日、グランの部屋を訪ねて報告書を手渡した。
それに目を通し、俺の報告を聞くと、机の上の『済』と書かれたケースにそれを入れる。

「あと昨日僕を部屋まで運んでくれたのもそうだよね。ありがとう」
「気にしなくていい。グランこそ待っていてくれたのだろう?帰りが遅くなったのは俺の方だからな」
「雨で足止めされてたんでしょ?あの雨じゃ仕方ないよ」
「まさか夕方まで動けないとは思わなかった。おかげであの時間だ」

本当にお疲れさま、と笑いながら席を立ち、俺が腰掛けるベッドの隣に座った。

「そういえば、昨日虹見たんだけど、ジークフリートさんも見た?」

突然振られた話に昨日の空を思い出す。
そうか、同じ虹を見ていたのか。

「ああ、グランもか。綺麗だったな」
「うん。大きかったからルリア達も大はしゃぎでさ」

同じ場所ではないにしても、同じ景色を見ていたということが嬉しい。
あの雨はグランと同じ景色を共有するためのものだったのかと考えれば、悪いものでもなかったと思える。

でもどうせならジークフリートさんと一緒に見たかったなぁ、なんて」

視線を隣に落とせば、少し寂しそうにグランが笑っていた。
空は何一つとして同じ顔を持たない。
例え同じ晴天であったとしても雲、光、色、決して同じものはない。
昨日と同じ虹を見ることは叶わないのだ。

「俺達は空にいる。ならば、きっと次があるさ」

けれど一緒に見られれば、と思ったのは自分も同じだった。
どんな顔を見せてくれるのだろうか。
どんな感想を聞かせてくれるのだろうか。
ベッドに突いたグランの手に自分の手を重ねる。
すっぽりと覆ってしまえる成長途中の手。
重ねた手から伝わる温もりを逃さないように、少しだけ力を込めた。
指先を絡めるとゆっくりこちらを見上げた。

「うん、そうだね」
「次は一緒に見られるといいな」

不確かな空に願いを託す。
いつか綺麗な景色をグランと共に見られますように、と。

いや、どんな空でも、どんな景色でもいいんだ。
隣にグランがいてくれるのならば。
例えそれが、『      』なのだとしても。