Hizuki
2018-10-29 22:44:49
2235文字
Public FF14
 

変化なんか必要ない

【FF14】エス光。2018年守護天節イベントの話。屋敷と変化についての捏造あります。そのままのお前がいい。



「エスティニアン、見て見てー!」

声は聞こえる。
だが、肝心の姿が見えない。

「ここ!」

聞こえ方からして側にいるのは分かる。
まさか透明にでもなっているのかと周囲に目を凝らすも、それらしい姿は見えなかった。

「ここだってば!」

何かにズボンを引っ張られる感覚。
足元を見れば薄桃色の髪のララフェル族の姿。
視線が合ったのは誰がどう見ても、ウルダハの女王だった。

「なっ!?」
「ナナモ・ウル・ナモである!なぁんちゃって」

その場にしゃがみ込み、相棒の声で話すウルダハの女王を見る。
くすくすと笑い、くるりと一回転。
何とも奇妙だ。
ぼふんと煙が姿を包み込むと、まるで黒魔導士のようなローブに身を包んだ相棒が現れた。

「どう、驚いた?」
「どうなってるんだ一体
「そこの部屋に色んな姿に変身させてくれる人がいるんだよ」

相棒は屋敷に入ってすぐの階段の向こう側にある部屋を指し示す。
ちょっと待ってて、と言い残すともう一度部屋の中に入っていった。

グリダニアは守護天節の最中。
毎年この時期になるとグリダニアを訪れるコンチネンタルサーカスの催しに冒険者達を含めた人々が興じていた。
中央森林の外れにある主を失った廃屋敷、そこを飾り付けて出し物の会場に使っているのだと言う。
屋敷に俺を引っ張っていくといつの間にか姿を消していて、声が聞こえたと思ったらさっきの姿だった。
部屋の外にある椅子に腰を下ろして、相棒の戻りを待つことにする。
中で物音が聞こえたかと思うと、次から次へと姿を変えていく。
グリダニアの角尊、リムサ・ロミンサの提督、かつてのウルダハの猛牛、果ては魔物の姿にまで。
ただ俺は様変わりしていく相棒の様子を半分呆れ気味に眺めていた。

「よし、これにしよう!」

そう言って俺の前に現れたのは、よく見知ったエレゼン族の姿で。
青と黒をベースに、金の装飾を織り交ぜたサーコート。
左耳には緑色の耳飾り。

「な、アイメリクだと

間違いなく外見はアイメリクだ。
だが、声は相棒のままなばかりに気が抜けるというか、何とも締まりがない。

「おおー、すごい!エスティニアンを見上げなくて済む!」

普段なら相棒から見上げられるというのに、この姿ではほとんど同じ高さになる。
表現豊かな相棒に合わせて、見知った騎士団長の表情がコロコロと変わる。
俺の顔を見て真っ先に言うことがそれかと小さく息を吐くも、気にしていないのかそれとも気付いていないのか、何も言及はなかった。

「さ、中も見て回ろっか」

屋敷の中は実に賑やかだった。
どうやって運び込んだのか分からない巨大なカボチャ。
辺りを漂うお化け達。
壁の足跡。
現実離れした飾り付けを見て、相棒が楽しそうにしている。
ただしアイメリクの姿で。
ふと、昔のことを思い出す。
騎士団にいた頃はこうしてアイメリクと並んで歩いたこともあった。
その頃を思い出すと、懐かしくもあり、くすぐったくもあり。
だが、今は別に昔の記憶に浸りたいわけではない。

「なあ、その変化はすぐに解けるんだよな?」
「解けるよ。解呪の魔法も教えてもらってるからね」
そうか、ならすぐにでも解いて欲しいんだが」

首を傾げながら折り畳まれた紙を取り出す。
小声で何かを唱えると、相棒の身体を先程と同じ白い煙が包み込んだ。
煙が徐々に薄れ、いつもの顔が見えると、その顔には疑問の色が浮かんでいる。

「はい、解いたけど?」

種族差の分もあり頭一つ以上も背丈は違う。
元の身長に戻れば、相棒の目線も戻る。

「お前と同じ目線の高さはどうにも落ち着かん」
「せっかくの機会なのにー」

エレゼン族の身長がお気に召したのか、口からは不満の声が漏れている。

「アイメリクの姿のお前とこんな所を歩いていても仕方ないだろう」

相棒から視線を外す。
確かに一時的に変化したものであるとはいえ、自分の視覚が捉えるのはどう見ても別の人間だ。
普段ならばまず行かないようなもの。
『こいつ』とだから行ってみてもいいかと思ったのであって。

お前とだから、来たんだ」

不満の声がピタリと止む。
急に静かになった相棒の様子を窺うと、まるで石像のように固まっていた。
照明の少ないこの屋内ですら分かるほどに顔が赤い。

はっ、はい」

自分でもらしくないことを言ったと思った。
互いに目を合わせようとはせず、どうしていいか分からない沈黙が落ちる。
きっと相棒からは動けそうにない。

ほら行くぞ。そろそろ時間のようだ」

屋敷の中から人気が徐々に減っていっている。
そろそろ4人参加型の催しの準備のために一度屋敷が封鎖される時間が迫っているからだろう。
それにも参加したいと相棒が言っていた。
声をかけて入口の方面に向かって歩き出すと、小走りの足音が後ろから追いかけてくる。
不意に手を引かれ後ろを振り返れば、相棒が俺の手を握っていた。

「えっと、あの、ありがとう

顔の赤さは引かないまま、上目遣いでそう告げられる。
昔の自分ならば何とも思わなかっただろう。
だが、こういうのも悪くない。
何も言わずにくしゃりと相棒の前髪を崩した。
俺とこいつがこの身長でなければ見られないものは多くある。
例え変化の魔法で姿を変えようとも、やはりこの高さから見られるこいつに勝るものはないな、と一人納得した。