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Hizuki
2018-10-22 12:42:43
1889文字
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彼の者を導く鍵とならん
【グラブル】ジクグラと言うよりはジク+グラ。アイドルパロ、トラブルに巻き込まれたグランとジークフリートの話。過去作の『夏の思い出に熱を添えて』とふんわり繋がっています。突貫作業。この窮地から脱するために。
「はぁぁ
…
」
バイト先の最寄り駅に着いたところで盛大に溜め息を吐いた。
本来ならこの時間は自分の部屋で飲み物とちょっとしたお菓子を用意して、大好きな人達のラジオが始まるのをわくわくしながら待っているはずだったのに。
1年間でたまにある、平日に挟まれた祝日。
朝から入っていたバイトもあと30分で上がり、というタイミングで店長が僕に手を合わせてきた。
何でも僕と入れ替わりで来る予定だった人が体調不良で来られなくなった、とかで終わってみれば閉店時間までいることになって。
断ってもよかったのだけれど、以前休みの申請を出した日に融通を利かせてくれたこともあって気が引けた。
閉店時間までとなると、どう頑張って帰ったとしても半分聞けたらいい方。
おまけに今日は電車が人身事故で遅れているらしく、駅の周りは人で溢れかえっているという有り様。
今日の分は配信で聞くしかないな
…
と、何度目か分からない深い息が漏れたところで、ふっと何かが鼻を掠めた。
―
この匂いどこかで
…
。
食べ物とは違う甘い匂いにつられて足を進める。
どうせ今から帰ったところでラジオには間に合わないし、電車もまだ動きそうな気配はないし、時間潰しにはなるだろう。
駅の改札から少し離れた場所、匂いの先にいたのは困った様子で壁にもたれる長身の男の人。
耳に当てていた電話を上着のポケットにしまうと、ふぅと息を吐く。
何故だか分からないまま、僕はその人に話しかけていた。
「どうかしたんですか?」
「いや、大したことでは
…
」
僕の声に気付いたその人がこちらに顔を向ける。
黒のサングラスで目元を覆った男の人は、波打った少し長い茶色の髪が印象的だった。
「
…
グラン、だったか?」
「えっ、何で僕の名前
…
」
こちらを見た、見ず知らずのはずの人が、僕の名前を呼ぶ。
同時に同じ音を拾った記憶が一気に蘇ってくる。
それにこの匂い。
―
夏祭りの、あの日。
「まさか、ジ
…
!」
僕がそれを口にするより早く、目の前の男の人が自分の人差し指を唇の前に立てた。
そうだ、こんなところで口にしたら大騒動になる。
慌てて自分の口を両手で塞ぎ、こくこくと首を縦に振った。
「すまないな」
「ぼ、僕の方こそごめんなさい
…
。それよりどうしたんですかこんなところで
…
これからラジオじゃ
…
」
自然と声が小さくなる。
対照的に自分の心臓の音は大きくなる。
この時間に、この人が、こんな場所にいるはずがない。
なのに、間違いなく目の前にいるのは、大人気アイドル、ドラゴンナイツのジークフリートさんで。
「ああ。事務所の者がここまで迎えに来てくれるはずだったんだが、渋滞に巻き込まれたらしくてな
…
」
なるほど、だからか。
話を聞いて頭が回り始める。
バスの振替輸送やタクシーを待っている時間はない。
それならば。
「あの
…
僕に考えがあるんですけど、ついてきてもらえますか?」
「一体何を?」
ポケットに入れていた鍵を見せる。
鍵には前回のドラゴンナイツのコンサートツアーで買ったラバーキーホルダーが付いている。
「バスとかタクシーより早くて確実な方法です。学校とバイト先の最寄り駅がここだから自転車置いてるんです」
以前届いた封筒に書かれていたラジオ局の住所を思い出す。
確かこの駅からならそう遠くなかったはず。
「
…
なるほど。だが、明日は学校だろう?」
「家を早く出れば問題ないから大丈夫です。僕のことより今は
…
あなたのことの方が大事ですから」
名前をそのまま口にできず、少しだけ言葉に迷った。
明日の僕の朝の時間とスタジオの他のメンバー達やファンのみんなを待たせる時間、どっちが大事かなんて考えるまでもない。
深く頷いて、男の人が口を開く。
「
…
恩に着る」
その言葉を聞いて、人の合間を縫って駆け出した。
ついさっき自転車を停めたばかりの駐輪場へ。
指定された区画の端に自分の自転車を見つけ、鍵を開ける。
「そんなに大きくないから乗りにくいかもしれませんけど
…
」
「大丈夫だ。
…
ありがとう」
通路に自転車を出し、その人にハンドルを預ける。
「気をつけて!」
サドルに跨がり、ペダルを踏み込む。
徐々に遠くなっていくその背中を見送った。
そして姿が全く見えなくなると、足から力が抜けぺたんとその場に座り込んだ。
深呼吸をして心臓の音を落ち着かせる。
とりあえず明日何時に起きればいいんだろう。
いつも学校に着いている時間から逆算するために時計に目を落とす。
時計の針はラジオが始まる時刻を指し示していた。
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