Hizuki
2018-10-16 18:41:47
2352文字
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聞きたいけど、聞けない

【グラブル】ヴェグラというよりはヴェ+グラ。ご飯の話。どうしても食べたい。



「ただいまぁご飯あるぅ?」

正に疲労困憊、といった声が耳に届いた。
俺が今世話になっている騎空団の団長、その人の声。

「おう、おかえり!ちゃんとグランの分残してあるぜ」

食堂にふらりと見せた姿からは疲れがにじみ出ている。
キッチンの目の前の席に腰を下ろすと、そのままテーブルに突っ伏した。

「ヴェイン、ありがとうー
「すぐ温めるからちょっと待ってな」

顔だけを起こして礼を言うと、またこてんと伏せてしまった。
一緒に俺が行ければよかったのになぁとコンロに火を点け、オーブンを温めながら準備をする。

今朝グランがルリアとビィくんを伴って依頼で出かけていったのは、夜が明けてすぐくらいの頃。
他の団員は別の依頼だったり、帰ってきたばかりだったりで、その依頼に出られたのはグラン一人だった。
もちろん、同行者に手を挙げたものの、自分も例に漏れず艇に帰ってきたばかりだったのと、翌日の夕食当番が重なっていたのもあって渋々留守番となった。
せめて見送りくらいは、と少し早起きをして甲板に出れば、ちょうど出かけるところだったグランと顔を会わせた。

「今から出るのか?」
「うん、今日は遅くなりそうでさ

しょんぼりとうなだれるグランの頭を軽く撫でた。
艇内へ繋がるドアの向こうから、ルリア達の声が聞こえる。
依頼自体はそう大したものではなかったはずだ。
だが、指定された場所がとにかく遠い。
ほぼ島の端から端に行くようなもので、それを考えれば自然と出発する時間も早くなる。

「あ、そうだ」

思い出したようにグランが顔を上げる。
ヴェイン、と手招きされ、頭一つほど小さい身体に身を寄せるとそっと耳打ちされた。

僕の分のご飯、残しておいてほしいんだけど」

つまり普段の夕食の時間には戻ってこられそうにないということなのだろう。
とはいえ今までだって夕食に間に合わないなんてことは何度もあった。
そういう時は大抵外で済ませて帰ってきていたというのに、何故今日だけ?という疑問が湧く。
でも他でもないグランの頼みを断る理由はなく、任せとけって、と胸を叩いた。

そんな朝のことを思い出しながら、時計をちらりと見ればもうすぐ日付が変わろうとしている時間。
そりゃ腹も減るよなぁと鍋のスープをかき混ぜる。
オーブンが調理完了のベルを鳴らし、中から白身魚のソテーを取り出した。
そいつと別に取っておいた一人前のサラダとライス、ボウルによそったスープをトレーに載せ、グランが待つテーブルへ向かう。

「はいよ、お待たせ!」
「いい匂いいただきます

そのままグランの向かいに腰を下ろした。
ゆっくりとした動きで身体を起こして、きちんと手を合わせる。
スープを一口。

「熱っ!」
「おい、大丈夫か?」

湯気が立ち上るスープを冷まさずに口にしたら当然熱いに決まっている。
慌ててコップに注いだ水を差し出すと、それを一気に飲み干した。

「飯は逃げねぇからゆっくり食べてくれよ」
「ふぁい」

スプーンで掬って息を吹きかけて冷ます。
そしてもう一口。
その瞬間、グランがほうっと息を吐き、表情が安心しきったようにふわりと蕩けた。
ああ、この顔だ。
グランは本当に俺の料理をおいしそうに食べてくれる。
他にも喜んでくれる人は多くいるけれど、俺にとってグランは特別だった。



「はぁやっぱりヴェインのご飯おいしい生き返る

料理を全て平らげ、満足そうにグランが呟いた。
生き返る、とはまた大げさなとも思ったが、そこまで言ってもらえるのはやはり嬉しい。

「はは、そりゃ何よりだ」

腹が膨れたら今度は眠くなったのか、くぁと小さく欠伸をすると、顔を横に向けてテーブルに伏せた。
ほぼ丸一日出ずっぱりで帰ってきたのだ。
それはもう疲れが溜まっていることだろう。
ゆっくりと瞼が閉じていくのが見える。
ここを片付けたら部屋に運んでやらないとな、と立ち上がろうとした瞬間だった。


「もうヴェインをお嫁さんにしたい


ん、今何て?

「俺をおよお嫁さん!?」

思わず裏返った声でグランが口にしたことを繰り返した。
静かな食堂に自分の声が響く。
夜間にしては大きすぎた声にばっと自分の口を両手で塞いだ。

「毎日僕のご飯作ってほしいむにゃ

俺の声に起きる様子もなく、問題発言をしたグランはゆっくりと船を漕いでいる。
更に追い討ちをかけるような言葉を残して。
はぁぁぁと深い溜め息を吐き、顔を覆った。
片付けている間グランをこのままにして、これ以上寝言でかき乱されては堪らない。
皿の1枚や2枚割るくらいで済めばいいけれど、割らないに越したことはない。
そもそも俺は嫁にはなれないだろうと内心突っ込みを入れつつ、ひとまず水を張った桶に食器を浸けた。
そして、軽いグランの身体を抱き上げると、彼の部屋へ向かいベッドに寝かせる。
本人が例の発言を翌朝覚えていないことを願いながら食堂に戻った。



「こんな時間にぼーっとしてどうしたんだ、ヴェイン?」

片付けを終えてもどうにも落ち着かず、ぼんやりとしているところに声をかけてきたのは幼馴染。

「どうしようランちゃんお嫁さんにしたいって言われた
一体誰にだ?」

ついさっきの彼の発言を口にすれば、青い目を丸くする。
その表情はどこか嬉しそうにも見えた。

グラン」
え!?」

何を言っているのか分からないというように、ぽかんと口を開ける。
やっぱりそうなるよなぁ、うん。
忘れていてほしいけれど、覚えていてもらわなくては聞くこともできない。
果たしてその真意を聞ける日は来るのだろうか。