Hizuki
2018-10-01 12:52:38
2078文字
Public FF14
 

紅、重ねて

【FF14】ルン+光。装備を染める理由の話。少しでも、あなたに近付きたい。



「珍しく荷物を持ってると思ったらそれが入っていたのか」

手元から視線を離して声のした方を振り返ると、髪の毛をタオルで拭いているお風呂上がりの師匠の姿。
慌ててテーブルいっぱいに広げている布を端に寄せてスペースを空ける。

「あ、ごめんなさい。ちょっと散らかしてます」
「いや、気にしなくていい」

情報収集に訪れた街で思っていたよりも有益な情報が得られた結果、気付くと空は夕焼けと夜が混ざり始めていた。
このまま戻るには遅くなりすぎるだろうからと一泊を決めて今に至る。

「ところでそれは?」

テーブルの側の椅子にルンさんが座り、天面のそれを見つめる。
先にお風呂を使わせてもらって明日の用意を済ませ、あとはもう寝るだけにしたところで少しだけ荷物を広げた。

「今の装備が脆くなってきたから、そろそろ新しくしようかと思いまして」

裾や袖口のほつれが目立つようになってきたのは少し前のこと。
空いた時間を見つけては素材集めに各地を駆け回っていた。
おおよそ形になりつつあるものを広げて手渡すと、ルンさんから感嘆の声が上がる。
胴以外の部位はもう全部出来上がっていて、アパルトメントの自分の部屋に置いてある。

「なるほどな。よく自分で作るのか?」
「結構作りますよ。その方が使いやすくできますし、自分好みにもできますから」

もちろんマーケットで買うこともあるし、親しいクラフターに製作をお願いすることもある。
基本の作り方は手引書に載っているからその通りに作ればいいだけのこと。
けれど自分で作って自分で使うのであれば、使い勝手のいいように手を加えることもできる。

「確かに装備は自分の動きやすさにも繋がるから、使いやすいようにするというのは理に適っている」
「そういうことです。これだけ縫い終わったら片付けますね」

ルンさんの手元から戻ってきた作りかけの服を受け取ると、糸を通しておいた別の針を針山から抜いた。
裁った端を折り畳んだ長く黒い布を広げて、重なった山の部分を縫っていく。
これは首回りを覆う黒のストール。
元々これを終わらせたら片付けようと思っていたところだった。

「今度ルンさんの分も作りましょうか?」
そうだな、何か機会があれば頼むか」
「いつでもどうぞ」

背中側に流す方の端には灰色の十字の飾りを。
テーブルに肘をついて私の手元を珍しそうにルンさんが見つめている。
提案に返ってきたのは前向きな返答。
いつかそんな時が来ればいいなと針を進めながら思った。



帰り道で互いに得た情報を再度整理して、次の予定を決めてからルンさんと別れた。
今回の情報から目的地を絞り込んだ。
次は3日後。
どうやら今度の行き先は魔物もいるらしい。
ならばそれまでに仕上げてしまわなくてはとアパルトメントに戻った。
残っていた部分を一気に縫い上げて、ストックしてある染料の素材を砕いてお湯に溶かす。
一瞬で透明から紅へと色を変えた、その中に服を浸した。
仕上がりは上々。
黒と紅。
新しい衣に袖を通して、待ち合わせのイディルシャイアに向かう。
2人で大まかな予定を確認してから拠点を出た。

「それ、この間作ってた装備だな?」

隣を歩くルンさんが確認するように問いかける。

「あ、覚えててくれたんですね。その通りです」
赤の生地、じゃなかったよな?」
「ええ、違います」
「前のものも赤だったな?何か理由が?」

まさか理由を聞かれるとは思わなくて足を止める。
消えた足音に気付いたのか、ルンさんが私の方を振り返った。
慌てて開いてしまった距離を詰めて元通りに隣に並んだ。

「悪い、言いたくないなら言わなくていい」
「いえ、大した理由じゃないんですけど

歩幅を戻し、口を開く。

「赤魔導士として身に付けるものは、この色にしようって決めてるんです」

名に色を冠するのなら、その色を身につけていたい。
多少心得のある黒魔導士や白魔導士もそう。

「わざわざ染めてるってことか」
あともうひとつあって、願掛け、というか、ルンさんみたいな赤魔導士になれたらいいなって思って」

全く同じ色ではないものの、できるだけ師匠が纏う赤魔導士の装束に近い色を選んでいるのは少しでもこの人に近づきたいから。
別に隠さなければならないような理由ではないけれど、少しだけ恥ずかしい。
そして今の装備を作ることを決めたのは、背中に流れるストールが、何となく装束のマントに似ていると思ったから。
視線は自然とルンさんから外れ、少し前方の地面へと落ちた。
嬉しそうな笑い声が聞こえる。

「どうせならオレみたいな、じゃなくてオレを超えるくらいにはなってもらいたいんだが?」
「ふふ、努力します」
「期待してるぜ」

紅に込めた思いと願い。
それとは別に自覚しつつある確かな想い。
今はまだその時ではない。
けれど、いつかこの人に打ち明けられる日が来ることを願って、今日も紅を身に纏う。
ふわりと撫でる風が、2人の背中の衣を揺らした。