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Hizuki
2018-09-07 23:34:33
3262文字
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香りに捕らわれる
【グラブル】ジクグラ。アイドルパロ、香水の話。恋人の悪巧み。
ふかふかと座り心地のいいソファは恋人の部屋のもので。
そこに腰掛けてぱらりと音楽雑誌を開き、お目当てのページに目を落とす。
普段から雑誌を買う方ではないけれど、彼らが載っているのならば話は別。
手にしている雑誌は今日学校が終わってから本屋に立ち寄って買ってきたもの。
巻末特集として組まれているのは今や人気沸騰のドラゴンナイツ。
撮り下ろしの写真とインタビュー記事が今回の目的。
そして今僕の隣には、そのドラゴンナイツのメンバーであり、僕の恋人でもあるジークフリートさんが座っていた。
「みんなの香水、普通に買えないものだったんだね」
インタビュー内容に目を通しながら、初めて出てきた情報になるほどと納得する。
恋人であるとはいえど、まだ知らないことはたくさんある。
―
みなさんが付けている香水が気になるとの声をよく耳にしますが、一体どちらのものを使われているのでしょうか?同じものが欲しいという声も多いようですが。
『これはそれぞれ俺達のイメージに合わせた独自の調合になっている。同じものが欲しい、という声はありがたいが、残念ながら事務所の意向で一般販売の予定はないとのことだ』
質問に答えているのはパーシヴァル。
雑誌から視線を上げて、ジークフリートさんを見る。
「ん?ああ、そうらしいな」
「そうらしいって
…
」
「俺もこのインタビューの時に初めて知ったくらいだ」
自分が使っているものなのにそれでいいのかなぁ、なんてぼんやりと思う。
最初に香水の話が出た時もパーシヴァルにちゃんと付けるように言われたんだろうなという予感がする。
自分の仕事に対しては妥協をしない人だ。
仕事として、と言われればそれを欠かすことはしないだろう、というのは分かっている。
「まぁ俺はあまり気にしないからなぁ。グランも気になるか?」
「うん、気になってたよ。ずっといい匂いするなって思ってた」
インタビュアーの質問通り、みんなが付けている香水が気になるという話を電車で偶然耳にしたことがある。
ドラゴンナイツはコンサートの度にファンクラブ会員を対象とした握手会の抽選会がある。
それに当選すれば終演後の握手会に参加できるというもの。
女の人が2人、その片方の人が握手会に参加したことがあるようで、すごくいい匂いがしたと興奮気味に話しているのが印象的だった。
もちろんパーシヴァルをはじめ、同じメンバーのランスロットとヴェインにも何度か会ったことがあるけれど、みんなそれぞれ違ういい匂いがしたのを覚えている。
当然、今日のジークフリートさんからも。
「そういうものか」
「何て言うのかな、大人の男の人ーって感じ?」
「
…
ふむ。試しに付けてみるか?」
「え、いいの?」
そう言って立ち上がると、玄関の方へ歩いていく。
雑誌をローテーブルに置き、後ろ姿を目で追いかけた。
確か扉の横の小さな棚の上に透明な四角い瓶が置かれているのを見たような気がする。
忘れないように必ず通る玄関に置いているんだ、と瓶を手にして戻ってきたジークフリートさんが話してくれた。
キャップを外して手首に一噴き。
ふわりと香りが広がる。
「
…
ちょっと匂い違うね」
噴き付けたところにすんと鼻を寄せれば、ジークフリートさんが纏うものとは違う匂いがした。
レモンのような、柑橘の匂い。
「付けてすぐは匂いが違うのだそうだ」
「へえ
…
」
「それから徐々に馴染んで落ち着いた匂いに変わっていくのだと」
ジークフリートさんのものはあまり強い匂いではない、と思う。
けれどふとした瞬間に感じる甘い香りが好きだった。
「ジークフリートさんと同じ香水、かぁ
…
」
好きな人と同じ香り。
一般販売の予定はないと公言している香りを、今自分が付けている。
それがすごく嬉しい。
「自分からジークフリートさんと同じ匂いがするの、何か変な感じ
…
」
そう零すと、そうかと嬉しそうに笑う。
確かに同じ匂いなのだけど、何となくジークフリートさんのものとは違う気がして。
というよりは香水を付けているジークフリートさんの匂いが好きなんだろうなと。
もう一度香りを吸い込んだところで、ロボットのようにピタリと動きが止まる。
「ってこのままじゃ僕帰れないじゃん!」
ぼふんと手をソファに叩きつけた衝撃はふかふかの座面に吸い込まれる。
…
重要なことに気付いてしまった。
のんびり香りに浸っている場合じゃない。
そんなに人数はいないとはいえ、コンサートの度に握手会はある。
つまり街のどこかにこの香水の匂いを知っている人がいないとも限らない。
外で匂いの出所が知られれば、どうなるかなんて想像に難くない。
それに本来今日は約束していた日ではなかった。
仕事が早く終わったと連絡を受けて学校の帰りに待ち合わせをして、ジークフリートさんの部屋にいる。
帰りに直接こっちに来ている以上、当然僕は制服のままで。
「約束は明日だったんだ。泊まっていけばいいだろう?」
「う〜
…
」
何の問題もないとばかりに投げかけられる提案。
元々約束をしていたのは明日で。
帰ったところで明日またここに来ることになる。
もしかしてジークフリートさん、これを狙って
…
?
「ふふ
…
どうしても帰るというなら、落としてきても構わないが?」
声に滲んだ笑みで確信する。
最初から狙っていたのだと。
「
…
このままでいる」
どうせ後でお風呂には入るんだし、そこで嫌でも落ちる。
すぐ落とすなんて誰がそんなもったいないことをするもんか。
足を立てて腕で抱え、顔を膝の上に乗せると、さっきよりも香りが甘くなっているのが分かる。
手のひらの上で踊らされているような気がして、少しだけ身体の向きをジークフリートさんから逸らした。
「
…
香水の話を聞いてピンと来た。こうすればグランと一緒にいられる時間が増えると思ってな」
急に肩が重くなる。
首筋に触れる柔らかい感触。
自分の手に重ねられる大きな手。
耳元で告げられる恋人の悪巧み。
ジークフリートさんの匂いに包まれて、後ろに意識を向ける。
「許してくれ、グラン」
「怒ってないよ
…
だけど、ちょっとずるいなとは思った」
恋人という立ち位置にいても、普通のカップルのように頻繁に会うことはできない。
だからこそ、一緒にいられる時間が増えるのはとても嬉しいことで。
「貴重な時間に恋人といるためなら多少ずるい手だって使うさ」
「
…
大人なのに」
「大人だからな」
画面の向こうにいる彼はあんなにも凛々しいのに、一度僕の隣に来ると途端にその姿は消えてしまう。
ふわりと表情を崩して甘えてくるジークフリートさんも好きなのだから仕方がない。
そのギャップさえもこの人の魅力で。
「
…
このまま泊まっていくけど、着替えとか取りに行きたい」
「分かった。車を出そう」
「ありがとう、ジークフリートさん」
財布と携帯と家の鍵をポケットに入れて部屋を出て、2人で地下の駐車場に下りる。
いつの間にか慣れていた車の助手席に乗り込んだ。
シートベルトを締めながら隣を見れば、何かジークフリートさんが考えているようで。
「毎度荷物を持ってくるのも大変だろう。いっそのこと、こっちに置いておいたらどうだ?」
「ジークフリートさんの部屋に?」
「その方が今日みたいなことになっても困らないだろう?」
…
この人は。
これはきっと今後こういうことが増えるに違いない。
変な顔をしていたのだろう、そんな顔をするな、と言いながらくしゃりと頭を撫でられる。
でも確かに荷物を持ってくる手間も省けるし、とてもありがたい申し出に変わりはなかった。
「色々切れているものもあるし、ついでにお前に入用なものも揃えに行くか」
ゆっくりと景色が流れ出した。
地上に出れば、空にはもう星が姿を見せている。
いつもより長くなったデートの始まりは、大好きな人の甘い香りに包まれていた。
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