Hizuki
2018-08-18 17:53:32
3261文字
Public FF14
 

迫る足音

【FF14】ルン光。クガネのとある曰くつきの宿屋に泊まることになった話。『出る』らしいんです。



リムサ・ロミンサから船で揺られてきたのは東方の窓口の街、クガネ。
そして、いくつかある宿のひとつの受付に私とルンさんはいた。
私達がクガネにいるのはルンさんが受けた依頼のため。
依頼主との顔合わせに指定されたのが明日の午前中で、前日にはクガネにいようと先に現地に来たのだけれど。

「ここも空きなしかぁ
「お二方、来た時期が悪かったな。この時期は祭りがあるから、ほとんどクガネの宿は埋まっちまうんだよ」

はぁと盛大な溜め息が自分の口から漏れた。
この宿屋でもう何軒目だろうか。
確かに街中はいつもより人で溢れかえっていて、観光客のような姿の人達も多い。
手当たり次第に宿を当たってきたけれど、どこもかしこも満室の一点張り。

「そいつは困ったな。なぁ、どこか他に空いていそうなところはないのか?」
「うーんないということはないんだが
「じゃあ、あるんですか?」

流石に私達も宿がないと困る。
ルンさんの問いかけに言い澱んだ受付の人の言葉の続きを待った。

「ああ。あるにはあるんだが、曰くつきでね。あまりおすすめはできんぞ」

周囲を見回し、耳を寄せるようにと手招きすると、声を潜めてそう言った。

「曰くつき?」
何でも『出る』らしいんだ。聞いた話だと夜中に屋内をぺたぺた歩き回る音が聞こえるんだとか

出る、とは。
思わず動きが固まった。

「まぁ大丈夫だよな?」
とりあえず一晩泊まれれば明日からの宿はあるわけですし、行ってみましょうルンさん」

私の方を向いたルンさんにハッと我に返る。
事前に聞いた話では顔合わせ以降クガネ滞在中の宿に関しては、先方が用意してくれているとのこと。
ならば今日1日さえどうにかできれば、あとはどうにでもなる。
そうだな、とルンさんが提案に頷き、受付の人から宿の場所が書かれたメモを受け取ってその場所に向かった。
表通りから外れ、少し奥まった場所にその宿はあった。
年月の経過なのか、やや重い引き戸を開けて中に入ると、古きよきといった感じの木造の内装だった。

「あら、いらっしゃい」

内装に目を向けていると、カウンター越しに声をかけられる。
若い女性の声にそちらを振り返った。
もっと年を重ねたような人かと思っていたからこそ、その声に驚く。

「部屋は空いているか?」
「ええ、空いていますとも。うちの話はご存知で?」

ルンさんがそう尋ねれば、色いい返事が返ってきた。
どうにか一晩過ごせそうだとほっと息を吐く。
同時にかけられた問いに、宿側も状況は理解しているようだと知らされる。
背筋を冷たいものが撫でたような気がした。

一応は」
「そうですか、物好きですね。ではこちらのお部屋をお使いください」

台の上に鍵が置かれる。
部屋番号が彫られた木製の板が付いた鍵。
階段を上がり、部屋の扉を開けた。
思っていたよりも部屋は綺麗で、備え付けの品もしっかりしている。

「おすすめはできないって言ってた割にそこそこ人はいるんですね」
「そういうのを求めて来る奴らもいるってことだろうな」

値段もそう高いというわけではなく、むしろクガネにしては安い部類だと思う。
受付の人の物言いが少し気にはなったけれど、それもこの宿の趣きなのだろうと言い聞かせる。
宿に入ったのが遅めなこともあってか、そう間も開けずに夕食の時間となった。
翌日の依頼人との待ち合わせの時間が早めなのもあり、手早くお風呂を済ませ布団に入った。



何やら不穏な気配を感じて目を開ける。
窓の向こうに光が見えないことから、まだ朝ではないらしい。
隣の布団ではルンさんが静かな寝息を立てていて、ちょっとだけ安心する。
まだ早いしもう一眠りしようとした、その時だった。

「え?」

『何か』が聞こえる。

「嘘でしょ?」

ぺたり、ぺたり。
ぺたり、ぺたり、ぺたり。

「ひっ!」

ぺたりぺたり、ゆっくりと音が近付いてくる。
辺りが静かなせいで余計にはっきりと音が聞こえる。
そして部屋の前で、音が止まった。

「ルンさん起きて!起きてください!!」

声を極力抑えて呼びかけ、ルンさんの身体を揺する。
早く、早く起きて。

「うんどうした?」
「聞こえたんです!」
「何が?」
「例の足音!!」

眠そうな声、ゆっくりと起こされた身体。
耳をすませるも、聞こえないようで首を傾げる。

「何も聞こえないぞ?」
「だってさっき聞こえたんですもん!今部屋の前!!」

部屋の前で音が止まったということは、そこに音の主がいるということ。

「気のせいじゃないのか?」
「うう気のせいじゃないですよぅ

立ち上がったルンさんが部屋の扉の方に向かう。
その背中に隠れるようにして後ろを付いていく。
鍵を外して扉を開け、辺りを見渡した。

「やっぱり何もいないぞ。大丈夫だ」

ぽんぽんと頭を軽く叩く。
恐る恐る背中から顔を出し、ルンさんと同じように見渡すも、確かに何の姿もない。
じゃああの音は一体何だったのと思いながらも、何もないことに安心したのも束の間。

「やっぱり何かいる!!」

突き当たりの廊下の窓、そこに浮かび上がる丸い顔。
顔の横から生える細く長い髭のようなもの。
ニタァと歪む口。
勢いよく扉を閉め、部屋の隅っこで震えるしかなかった。
先に部屋に入っていたルンさんはもう既に布団に戻っていて。

「とにかく寝るぞ。明日からが本番なんだからな」
「やだ、こわい
分かった分かった、オレが一緒なら大丈夫だろ?ほら、こっち」

ルンさんが自分の布団を捲り、端に寄って空いたスペースを示す。
どうにかルンさんの布団まで歩み寄り、そこに潜り込んだ。
回された腕が背中を撫でる。
温かい。
浴衣の胸元をきゅっと握り、顔を寄せる。
側にルンさんがいるということにいつの間にか恐怖も薄れ、気付けばそのまま眠りに落ちていた。



「しかし意外だったなぁ、お前があの手の話を怖がるとは」
し、仕方ないじゃないですか怖いものは怖いんですもん

翌朝、身支度を整えながら、ルンさんが楽しそうに呟いた。
ドラゴンだろうが巨人だろうが、ちゃんと実体があるものならば打ち倒すこともできる。
けれど実体がないようなもの、言うなればお化けのようなものはとんと苦手だった。
それがいつから苦手なのかは覚えていない。
きっと覚えていないところに原因があるのだろう。

「あ、アリアちゃんには内緒にしといてくださいよ!」

私と同時に準備を始めていたルンさんはもうほとんど支度を終わらせていた。
そちらを振り返り、自分の後輩の名前を出せばルンさんが笑う。
自分のことを先輩、と慕ってくれるかわいい後輩にこんな間抜けな様を知られるわけにはいかない。

なら口止め料くらいはもらおうか」

食事かお酒か、それとも別のものか。
一体何を提示されるのかと考えていると、こちらに歩み寄ってきて。
顔を寄せられたかと思えば、そのまま唇を攫われていて。

「確かにもらったぞ」
「は、はい

いきなりそういうことするのずるい。

「さて、準備できたなら出るか」

満足げに笑うルンさんの背を追い、部屋を後にする。
まだ日はそんなに高くなく、他の客室は静かだった。
1階に降りて、受付で手続きを済ませていると何やら音が聞こえてくる。

ぺたり。
ぺたり、ぺたり。

「き、昨日の!」
「うぺぺ!?」

聞こえた足音。
丸い顔に顔から生える長い髭。
窓に映っていた見覚えのある姿に足から力が抜けていく。

「あ、おい、しっかりしろ!」

朝から姿を見せるお化けもいるのかと、ルンさんの声を聞きながら意識を手放した。
後日あの足音の正体が宿の手伝いをしているナマズオ族だと知らされはしたものの、しばらく彼らに対して敵対心を抱いていたのはまた別の話。