Hizuki
2018-08-13 12:51:01
2849文字
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異装の心構え

【グラブル】ジクグラ。浴衣ジークさんと部屋にこもったグランの話。若干ランスロットの出番多め。不意打ちって怖い。



「うわぁ、ジークフリートさんどうしたんですかその格好!」

おかえりなさい、と甲板で出迎えてくれたランスロットから興奮気味に声をかけられる。
その声を聞きつけてか、甲板にいた面々がこちらに集まってきた。

「あぁ、手入れを頼んでいたユカタヴィラが仕上がったそうで引き取りに行っていたんだ。久し振りだから着方の練習がてら着て帰ろうと思ってな」
「以前見た時も思ってましたけど、すごく似合ってます!」
「ありがとう、ランスロット。機会があればお前も一度見に行ってみるといい」
「はい!」

団長であるグランから団員に休暇の通達が出たのは3日前。
話を聞くにお目当ては明後日の祭りらしい。
ならばとそれに合わせてユカタヴィラの手入れをしてくれるところを探して預け、無事に引き取りに行ったのが今日、というところだ。

「ところでさっきそこにグランがいたかと思ったのだが」
「あれ?ジークフリートさんが来るまでは確かに俺といたんだけどな

集まってきた面々の中に一つ足りない顔があった。
ランスロットが辺りを見回す。
その様子からするに、確かにグランはランスロットと一緒にいたようだ。

「まぁもう少しすれば夕食だろうから顔も合わせるだろう」

とはいえ取り立てて急ぎの用事があるわけではないし、何かうっかり忘れていたものを思い出したのかもしれない。
少しばかり団長室の方に足を向けるも、部屋に続く廊下の途中でビィに止められた。
しばらく誰も部屋に入れないでほしいとグランから言われているとのことで。
そういう時もあるだろうと深く追うことはせず自室へと戻った。
荷物を整理して一息ついていると、部屋の外を賑やかな声が通り過ぎていく。
そろそろそんな時間か、と部屋を出ると、ちょうどランスロットと顔を合わせ、一緒に食堂に向かった。
夕食を受け取り、適当に空いている席に座る。
やはり普段の姿とは違う俺が珍しいのもあるだろうが、団員から声をかけられることが多かった。
だが、その中にグランの姿はない。
食堂の中の顔触れは徐々にまばらになっていく。

来ないな。少し様子を見に行ってみるか」

流石に何かあったのではないかと心配になる。
食後の茶を飲みながらそう零すと、向かいに座るランスロットから堪えたような笑い声が聞こえた。

多分そのままジークフリートさんが行っても出てこないんじゃないかと」
「俺が?何か知っているのか?」

すいません、とランスロット。

「実はさっきここに来る前にちょっと話聞いてきたんです」
「ふむ理由は?」
「まぁグランから直接聞いてください」

ランスロットの口ぶりからして、どうやらグランが部屋から出てこない理由を知っているらしい。
加えてその表情から察するに、恐らく悪いものというわけでもなさそうだ。

「なので、俺が一緒に行って呼びますよ。出てきたら代わりましょう」

席を立ち、洗い場まで食器を運ぶ。
今日の夕食担当の面々に礼を言い、食堂を後にする。
向かう先は先程ビィに止められた団長室。
俺の少し前を歩くランスロットもどことなく楽しんでいるように見えなくもない。

「グラン、そろそろ来ないと夕食なくなるぞ」

ランスロットがコンコン、と扉を叩いた。
中から聞こえる物音からして出る準備をしているようだ。
じゃ、俺はこれで、とランスロットは来た廊下を戻っていく。

「あ、これから行くところだよ、ランスロッって、え!?」

カチャリと音がして扉が開く。
部屋から姿を見せたグランが目を丸くする。

「ランスロットじゃ、ない?」

俺を見るや否や慌てて室内に戻って扉を閉めようとするのを、自分の身体を割り込ませることで封じる。
そうしてしまえば逃げ道はない。
唯一の扉をゆっくり閉めてからグランを見た。

「何でジークフリートさんが
「すまないな。何やらランスロットが事情を知っていたようで、少し手を借りた」

観念したようにベッドの端に腰を下ろしたグランはこちらを見ることはせず、そわそわと落ち着かない様子で床に視線を落としていた。
隣に座って一つずつ問いかけるも、明確な答えは見えてこない。

「俺が戻ってきた時、甲板にいなかったか?」
「いたよすぐ部屋に戻ったけど
「人払いもしていたようだが、何かあったのか?」
「ううん、何もない」
「体調が悪い、というわけでもなさそうだな」

ランスロットが呼びかけた時に返ってきた声はいつも通り。
顔色も普段と変わった様子は見られない。

何か気に触ることでもしたか?」

自分が気付かないうちにグランの気を害していた可能性がないとは言い切れない。
それならばきちんと謝罪をしなければならない。
けれどグランはその問いかけに対しても首を振った。
いよいよ本当に理由が分からなくなってしまう。
一体ランスロットは何を聞いたというのか。

いきなりユカタヴィラ着てるから」

沈黙に耐えられなくなったのか、グランが口を開いた。
目を逸らしたまま、小さく発せられた声に耳を傾ける。

「ジークフリートさんがカッコよすぎて直視できなかったんだよ!」

自棄気味にグランから飛び出した言葉に、今度は俺の方が目を丸くする番で。
ああもう、とぼやいたグランは顔だけでなく耳まで赤く染めている。
確かに悪いものではない、むしろ喜ばしいことだ。

ふふ、そうかそうか。そこまで言ってもらえるなら着たかいがあったというものだな」
「もうどうしたのそれ」
「祭りに行く、と言っていただろう?だから手入れに出していたんだ」
「それ着るならちゃんと予告してちゃんと心の準備させて

グランが額に手を当て、はぁと息を吐く。
魔物や強大な星晶獣を相手にしても臆さない団長が、俺の普段と異なった装いだけでこうも崩れるとは。
不意打ちは案外効くのかも知れない。

「ならば先に言っておくぞ。祭りにはこれを着ていくからな」
「は、はい

未だにこちらを見てくれないグランの顎を掬い、視線を合わせれば顔の赤みが更に深まった。
頷いたグランを解放すると、大きく肩で息をしていた。
やりすぎたか、と少しばかり反省する。

「さて、そろそろ行かねば本当に夕食がなくなってしまうぞ」
行く」

息が整うのを見計らい、立ち上がって手を差し出せば、素直に握り返される。
手を繋いだグランは俺の少し後ろを付いて歩く。
どうにかこの姿に慣れようとしてくれているのか、背中に視線を感じる。
歩きながらわずかに目を向ければ、偶然にもばっちりグランと目が合い、慌てて逸らされる。

「折角の祭りの日ならば恋人には隣を歩いてほしいのだが?」
「ど、努力はします

その様子に自分の口から笑みが漏れた。
夕食は先に戻った弟子が確保しておいてくれているはず。
食堂までそう長くない距離、歩く早さは普段よりも緩やかだった。