Hizuki
2018-06-18 20:23:44
3062文字
Public FF14
 

従業員への手出しは禁止されています

【FF14】エス光。ゴールドソーサーで起きたトラブルの話。ややモブの出番多め、捏造あり。具体的な内容には触れていませんが一応4.3後。みなもさん(@MinamoLeaf )の誕生日に捧げた話。


鼻につくアルコールの匂い。
雑音にしか聞こえない下品な笑い声。
馴れ馴れしく肩に触れる男達の不快な手。
マンダヴィル・ゴールドソーサーの特別室、そこに私はいた。

「おう姉ちゃん、酒がねぇぞぉ!」
すぐにお持ちします」

空になったグラスを回収して席を立つと、部屋に備え付けられたバーカウンターへと向かう。
この制服でさえなかったのならあの場で止められたのに、と見えないように拳を握った。
今の私が身につけているのはゴールドソーサーの従業員の制服。
黒のビスチェに網タイツ、白くて丸いふわふわの尻尾にうさ耳のカチューシャ。
誰がどう見てもバニーガール、という有様。
金銭にお酒、そして異性が絡めば、自然とトラブルは付き物になるわけで。





事の発端は、ゴールドソーサー・フェスティバルの開催に当たって人員が不足しているという、ゴッドベルトさんからの相談だった。
色々あったもののドマ方面の問題も落ち着き、新たな騒動が起きた中に訪れた小休暇のタイミング、特に急ぎの用事があるわけでもなかった私はゴッドベルトさんの手伝いを申し出た。

「ホホゥ!それはとても助かりますぞ!」

そうして渡されたのが件の従業員の制服。
とにかく期間中のゴールドソーサーはお客さんが増えるため、妙な輩も増えるのだという。
通常業務のお手伝いと不審な客がいないかどうかの場内の見回りが私に割り振られた仕事だった。
数日は大した騒ぎもなく、平和に過ぎていった。
けれど、問題が起きたのは今から3時間ほど前。
見回りの最中、困惑した声が聞こえて2階にあるラウンジに向かうと、ララフェル族の女性従業員に絡む男達の姿があった。
その手には特別室の鍵を持っていて、言動や身なりはともかくゴールドソーサーにおける上客のようには見受けられた。
要求は自分達の酒の相手をしろというもの。
ここでなくとも目にすることは少なくない。

「お客様、従業員への強引な要求はご遠慮願えますか?」

男達と従業員の間に割って入り、できるだけ穏便に済ませようと言葉を選ぶ。
漂ってきたアルコールの匂いから察するに、既に相当飲んでいるに違いない。

「あぁ?俺達は『お願い』してるだけだぜぇ?」
「それとも何か?姉ちゃんがこいつの代わりに相手してくれるってぇのか?」

ひっ、と私の後ろの彼女が小さな悲鳴を上げた。
ララフェル族からすれば、自身の倍以上もある酒の入ったヒューラン族やミコッテ族は恐怖の対象に見えるだろう。
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて男が近付いてくる。
私がこれまで対峙してきた蛮神達を思えば温いもの。

分かりました、私がお相手しましょう」





そして、今に至る。

まだかぁ?」

男の急かす声が背中から聞こえる。

「酒1杯に随分遅かったじゃねぇか、え?ここの従業員は客を待たせるのか?」
「これは失礼しました。まだ日が浅いもので」
「フン、まぁいい」

ローテーブルにグラスを置き、男の隣に腰を下ろす。
あぁもう
思わずどこかの誰かの言葉が口から出そうになる。
じわりじわりと肩口から這い下りてくる男の手に鳥肌が立つ。
明らかに非があるのは相手側。
この制服を着ていないのであれば、実力行使で黙らせることもできた。
けれど今日はそうすることは叶わない。
くれぐれも客に手を出すことはしないように、とゴッドベルトさんから釘を刺されていたけれど、もう我慢できない。
いくら特別室への出入りができる上客といえども、このままのさばらせておいたらまたさっきのようなことが起きてしまう。
ゴッドベルトさん、ごめんなさい。
心の中で小さくオーナーに謝罪して、手を振り払い反撃しようとした時だった。

「従業員に手を出すことは場内の規則で禁じられているはずだが?」
「な、何だぁ!?」

勢いよく部屋の扉が開き、聞き慣れた低い声が響く。
部屋に飛び込んできた紅い槍は、私に手を伸ばしていた男の顔の数センチ横の壁に突き刺さった。
その槍には見覚えがあって。
声の方を振り返れば、黒襟の白いスーツ、男性用の従業員の制服を身に付けたエスティニアンの姿。
髪を後ろで一つに束ねていて、普段とは違う装いに目を奪われる。

「お引き取り願おうか」

槍を引き抜いて顔を近づけ、有無を言わせない低音でそう言い放った。
エスティニアンの圧に押されたのか、男達はただ無言でこくこくと頷く。
遅れて入ってきた警備の人達に身柄を拘束され、連行されていく。
そして部屋に残されたのは酒盛りの残骸と彼と私。

大丈夫か」
「えっ、ええ

かけられた声にはっと我に返り返事をすると、険しかったエスティニアンの表情が僅かに和らいだ。
それも束の間。

「話は全部オーナーから聞いた。全くお前はすぐ厄介事に首を突っ込むな

吐き出された溜め息と共に、私への苦言が漏れる。

だって仕方ないじゃない。目の前でやられて私が手を出さないとでも思った?」
「出さないわけないだろう。そんなこと分かり切っている」

同時に『そういう間柄』でもある以上、私が動くことまで理解してくれていることに思わず顔が緩んだ。

「エスティニアンはどうしてここに?」

こう言っては何だけれど、あまりこういった場所にエスティニアン自らが足を運ぶとは思えなかった。
それでも彼は今ここにいる。

「来たのはたまたまだ。何やら催しがあると街で聞いてな。いざ来てみれば何やら従業員達からお前の名が聞こえたんだ」
「そうだったのごめんなさい、巻き込んでしまって」
「無事ならそれでいい」

ソファから立ち上がって、歩き始めたエスティニアンの背中を追う。
片付けは後で専属の人がやってくれるとのことで、何も気にすることなく部屋を後にした。
別の問題が起きないようにするためか、特別室の区画は他の客の出入りが禁じられているようで、私達以外に人の気配はない。
従業員用のエレベーターに向かう最中、エスティニアンがふと足を止めた。

あの男達に何もされなかっただろうな」
「多少触られはしたけれど、何もされていないわ。ただお酒の相手をしていただけよ」

問いかけに対してありのままを答える。
本当にその言葉通り、特別何かをされたわけではない。

気に入らない」
「え?」

物珍しい静かなゴールドソーサーの景色に辺りを見回していると、一際低い声が耳に届いた。
こちらを振り返ったエスティニアンと目が合ったかと思えば、壁にその身を押し付けられて。

「お前から別の男の匂いがするというのは」

青灰色の目が細められ、告げられた言葉を理解するよりも早くエスティニアンに唇を奪われていた。
同時にするすると彼の手が私の身体を這う。

怒ってる?」
「好いている奴を好き勝手されて怒らない奴がどこにいる」

口付けから解放され、控えめに問いかければ、答えは肯定で。
元をただせばその原因は自分にあるわけで。

俺の相手をしてもらおうか?」

まるでさっきの男達のような口ぶりなのに、少したりとも嫌な気持ちはしない。
むしろ従業員の格好でエスティニアンがその言葉を言うのはいかがなものかと、おかしくて小さく笑みが零れた。

「もちろん、私がお相手しましょう」

今の私はゴールドソーサーの従業員。
自分の格好に相応しい言葉を選んで返せば、エスティニアンが口の端を持ち上げた。