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Hizuki
2017-11-27 22:43:40
2677文字
Public
FF14
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特等席の先客
【FF14】エス光。4.0終了後以降のどこか、クガネの温泉でエスティニアンと会う話。熱いのは湯の温度のせいか、それとも。
最低限の荷物だけを持ち、長屋の屋根に上がった。
極力音を立てないように駆け抜け、提灯を吊るしている縄を伝い隣の長屋へ。
もう一段屋根を上がり、望海楼の欄干に乗る。
看板の上と外壁の出っ張りを足場に上階へ登っていく。
宿泊客に余計な不安を与えないように素早く動く。
そうして屋根を2階分上がった場所に今回の目的地があった。
屋上に設えられた温泉が2つ。
クガネの私の特等席。
「相棒
…
?」
「え?」
誰もいないと思っていたその場所から聞き覚えのある声が聞こえた。
その呼び方をするのは一人だけ。
声の方に目を向ければ、こちらを振り向いた声の主と目が合う。
「エスティニアン!?」
湯に浸らないように雪色の髪を一つに結わえた彼がそこにいた。
「何でここにいるの!」
「街中を歩いている時に偶然見つけた」
「ほとんど誰も知らないと思ってたのに
…
」
一体どういう歩き方をすればここを見つけられるのだろう。
私ですら隠し湯があるらしいという噂話を聞いてようやく探し当てたというのに。
疑問を抱えつつ、持ってきた荷物を置いて自分も準備をする。
彼に背中を向けるように湯に浸かりふぅと息を吐く。
少し熱めの温度と時々吹き抜ける風が気持ちいい。
「そっちは最近どうなの?」
一息ついたところでそう問いかけた。
エスティニアンがイシュガルドを旅立って以降、会った回数は多くない。
互いに連絡を取るということはしなかったし、便りがないというのはきっと無事にやっているからなのだと何となく分かっていた。
「ああ、気ままに見て回ってる。こっちは初めて見るものばかりだしな」
紅玉海にヤンサ、ギラバニアにアラミゴ。
彼の口から出た地名は、どこも自分には馴染みのあるものばかり。
自分も同じようなものを見てきたはずなのに、他の人から話を聞くと新しいもののように聞こえる。
それは自分がいつも話す側だったからというのもあるのかもしれない。
「そういえば、アジムステップは懐かしい感じがした」
「羊いたもんね」
以前聞いたエスティニアンの昔の話を思い出せば自然なこと。
けれど、どうにも戦っている姿の印象が強すぎて、羊の世話をしている姿と結びつかない。
機会があれば一度お目にかかりたいものだけど、それは一体いつになるのやら。
「ここにはよく来るのか」
そんなのどかな様子を想像していると、今度はエスティニアンの方から問いを投げかけられる。
「時々ね。景色も綺麗だし」
夜の明かりが点されたクガネの街並みは煌びやかで、日中とは別の活気があふれている。
だからこそこの屋上のような賑やかさから離れた場所が心地良く感じるのだろうか。
もちろん、宿の側の開放的な温泉も好みではあるのだけれど。
「覚えておく」
覚えておく、ということはもしかしたらここでまた会えるかもしれないということだろうか。
意味を理解するのに手間取って聞き返せず、ただ頷くことしかできなかった。
それを境に沈黙が流れる。
街の声が遠くに聞こえるだけ。
後ろに目を向けることはできず、ぼんやりと天を覆う星を見上げていた。
あの星は何だったっけ。
上がるタイミングを考えながら、自分の記憶の引き出しを漁る。
程よく温まったし、もう少ししたらこちらから。
「
…
他に誰もいないんだ。こっちに来たらどうだ?」
「えっ、あっ、ひゃい!」
沈黙を破ったのは相手の方で。
まさかそんなことを言われるなんて思わず声が裏返る。
びくりと驚いた拍子に湯が跳ね、外に零れた。
「そんなに警戒しなくてもいきなり取って食ったりはしないぞ」
私の返事を聞いてエスティニアンが笑う。
久し振りに顔を合わせたと思ったら場所は温泉で、そのうえ一緒になんて。
肯定の返事をしてしまった以上もう退くわけにはいかず、覚悟を決めて立ち上がった。
入るための緩やかな板の坂を下り、隣の同じ坂を上る。
「お、お邪魔します
…
」
縁に座っているエスティニアンの左隣、そこに少し距離を置いて座る。
ここが広いところでよかった。
もし一人で入ることを想定しているような場所だったのなら、それこそ先に出ていたのかもしれない。
彼の顔を直視できないまま、少しだけ様子をうかがう。
イシュガルドの病室で見た時よりも傷が増えているような気がする。
戦う者である以上避けられるものではない。
「ここは気持ちいいな」
湯の温度とエスティニアンが側にいるということで頭がくらくらする。
いつもなら熱を奪ってくれる風も今日はあまり効果がないようで。
「おい、大丈夫か?」
「だいじょう
…
」
エスティニアンの声が聞こえる。
視界が徐々に真っ暗になる。
声が遠くなっていく。
その先はもう覚えていない。
目を覚ますとそこは自分が取った望海楼の部屋。
くらりとする頭を押さえながら身体を起こせば、ベッドの側に出た時に持っていった荷物が置かれていた。
「お前、あそこで倒れるやつがあるか」
急に飛んできた声に思わずまた肩が跳ねる。
そして辺りを見回すと部屋の入口の側のテーブルに肘を付いている人影が目に入った。
雪色の髪で人物の正体を悟り、一体何が、と記憶を遡る。
久し振りに屋上の露天に行こうと思って部屋を出て。
そこでエスティニアンと会って、何故か一緒に入ることになって。
思い出すだけで全身が熱くなる。
…
確かな記憶はこの辺りまでだったような気がする。
「ご、ごめん
…
」
あの後のぼせてしまったのだろう。
部屋に運ばれて、ちゃんと服が着せられているのはこの人のおかげだろうか。
「俺がいてよかったな。誰もいなかったらあのまま放置だぞ」
誰のせいだと
…
と出かかったところで言葉を飲み込んだ。
その前に言わなければいけないことがある。
「
…
あ、ありがとう」
「それじゃ俺は先に出るぞ」
窓から見えた空はまだ暗い。
動き出すには早いくらいの時間なのは何となく空の色で分かった。
「あのっ」
「何だ」
立ち上がったエスティニアンを呼び止める。
「も、もう少しだけここにいて
…
」
きっとまた同じ場所で会うような気がする。
それでももし彼が許してくれるのならもう少しだけここにいて欲しい、と。
次がいつになるのかは分からないからこそ、今を
「
…
お前が寝たら行くからな」
振り返ってそう言うと、こちらに歩いてきてベッドの側にもう一度腰を下ろす。
横になって布団をかぶり直し、彼の横顔を見ながら眠りに就いた。
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