Hizuki
2017-07-03 23:23:09
3831文字
Public FF14
 

落とし物の正体

【FF14】エス光。エアリー後、西部高地でヒカセンの落とし物を取り返しに行く話。


神殿騎士団本部に顔を出した帰り、隊舎に戻るのが面倒という理由で少し早めの昼食を済ませた後だった。

「エスティニアン、ちょっと一緒に来て」
「何だいきなり」

そう言って俺の前に姿を見せた相棒は何やら深刻そうな表情を浮かべている。
そして今日は槍ではなく、膝下まである白のローブを纏い、幻術用の杖を背負っていた。

「ちょっとお願いがあるの」
「お前が俺に?」

普段はこいつ自身が他人の頼みを解決して回っている。
こんな珍しいことがあるものかと思わず聞き返した。

相棒の頼みだ。話くらいは聞いてやる」
「ありがとう」

他でもないもう一人の蒼の竜騎士の頼みを、話も聞かずに断る気にはなれなかった。
相棒の方を向き、聞く体勢を整えると表情が幾分か和らいだ。

「実はあるものを取り返すのを手伝って欲しいんだけど
「ほう?」
「場所はクルザス西部高地のこの辺り」

空いた皿を少しずらして、テーブルの上に西部高地の地図を広げる。
示された場所はイエティの棲処と呼ばれるところだった。

「西部高地ならお前一人でも問題ないだろう」

そう大して強い魔物が生息しているエリアではない。
鍛錬中だという白魔導士ならともかく、こいつの槍の腕ならば敵わないような魔物はいないはずだ。

「それが大ありなのよ。『ミルカ』って知ってる?」

大きく息を吐き、相棒が口にしたのは聞き覚えのある名前だった。
確か酒場の入口横のセントリオボードに手配書が貼られているのを見た記憶がある。

「あぁ、角付きのイエティだったか」
「そう。その付近に大きなイエティの足跡があったの」

棲処とまで言われる場所ならイエティの足跡があっても不思議はない。

「何もないんだったら自分一人で何とかするけど、もしものことがあったら困る。だから一緒に来て欲しい」
「そもそも何故そんなところにあるんだ」
「ちょっと敵に囲まれて逃げる途中で落としたみたいで、そのまま普通のイエティに持って行かれた

余程大切なものなのだろう、表情が曇る。

「そこにあるという保障は?」
「勘」

さっきのしょげた様子はどこへやら。
自信満々に言ってのけたこいつに軽い目眩がした。
思わず溜め息が漏れ、こめかみを押さえる。

「っていうのは冗談。実際に近くまで見に行ったからそこにあるのは確認してる」
まぁいい。食後の運動くらいにはなるだろう」
「助かる。それじゃ早速行こう」

酒場を出てスカイスチール機工房の前を通り、西部高地へ出た。





何だあのデカブツは」
多分例のミルカね」
「どうするんだ」
「今方法を考えてるところ」

相棒と二人岩影に姿を隠し、声を潜めた。
大きく白い毛むくじゃらから角が1本。
そいつを見て相棒が例の魔物の名を口にした。

「俺とお前で倒せないのか」
「多少の傷くらいは付けられるだろうけど、勝てる気はしないね。本職の癒し手もいないし、それこそ返り討ちよ」

現実的な相棒の観察に奴の周囲に目を向ける。
そもそも今回の目的はそこではない。

「で、その落とし物とやらはどれだ」
「あそこ」

指し示された場所はミルカの後方、崖の上。
確かに小さな青い袋のようなものが転がっている。

「どうしたもんだかな」

また妙な場所に。
持ち帰った魔物が不要と判断して放り捨てたのか。

エスティニアン、あそこまで飛べる?」

うんうんと隣で唸っていた相棒から出た言葉に嫌な予感が過る。
飛べるか、だと?

「お前まさか
「そのまさか」
正気か」
「正気よ。大丈夫、私に考えがある」

またさっきと同じ自信満々の顔。
背負っていた杖を手にすると、何かを雪原に描き始めた。
袋の引っ掛かった木、牙の生えた丸い物体、そして丸と線の組み合わせの人らしきものが2つ。
今俺達が置かれている状況らしく、どうやらその正気とは思えない案を説明してくれるらしい。

「まずエスティニアンがジャンプであれを回収する」

人らしきものから木に向かって放物線が引かれる。
片方の丸に一本だけ描かれていた謎の線はドラケンアーメットの角らしい。

「回収できたら慎重に地面に下りる」

そのまま線は下に引かれ、ミルカの側に気付いた証らしきマークが描き足される。

「そうしたら多分ミルカが気付くだろうから、攻撃される前に私がエスティニアンを引き寄せる。どう?」

あいつが俺を引き寄せる。
ああ、何やら癒し手だけが使える特殊な技があるんだったか。
対象の相手を自分の側に引き寄せる技。
以前騎士団の誰かがそれで命を救われただか何だかという話を聞いたような気がする。

チッ、仕方ない。俺の命、お前に預ける」
「任せといて」

背中どころか命まで預けることになろうとは。
相棒が杖を構える。
続けて詠唱が聞こえ、俺と相棒の周りに水色の魔法の幕が広がった。
こくりと頷いたのを見て、俺も槍を構える。
深呼吸を一つして、雪原を蹴り宙へ飛んだ。
周囲を見回し、魔物に見つからないように道を選び、目標物までの距離を詰める。
そして難なく背面の崖に着地し、転がっていた青い袋を手に取る。
ちゃり、と金属の何かが擦れるような音がした。
提案された通り、慎重に地面に下りると同時、俺に気付いたミルカが唸り声を上げる。
振り上げられた腕に、反射的に槍を構えた。

「相棒!」
「エスティニアンっ!」

何もないはずなのに腰の辺りを掴まれるような感覚。
空を切る音が耳に届く。
あっという間に白毛玉が視界から消え去り、今度は雪でも毛玉でもない白が目に入る。
白に入った赤の線で、それが相棒の着ている白魔導士のローブだと気づく。

「逃げるぞ!」
「うん!」

一瞬顔を見合わせて頷くと、一目散に走り出した。
ミルカにつられるように周囲のイエティ達も動き出す。
空が眩く輝いたかと思えば、複数の足音がピタリと止まる。
ちらりと様子を窺えばミルカ以外の奴らの動きが止まっていた。
相棒の魔法だろう。
その隙を突いて距離を引き離していく。
走るよりこっちの方が早いことに気付き、少しだけ進行方向の逆を向き、そのまま後方に飛び退いた。

「あっそれズルい!」
「使えるものは使うに決まってるだろう」

相棒から非難めいた声がかけられる。
同じ竜騎士ならば使えるその技も、白魔導士である今は当然ながら使えない。

「あーもう!ファルコンネストで待ってて!すぐ追い付くから!」

自棄とも取れそうな叫びを聞きながら、指定されたその拠点へと走った。
待つのならば分かりやすいところの方がいいかと、北側が見える広場の外壁際に立つ。
雪原の方を見渡し、相棒の姿を探す。
だがそちらではなく、10分ほどしてからエーテライトの側に現れた。
どうやら転送魔法で戻ってきたようだった。

「戻ったか」
「はぁ死ぬかと思った
「お前はもっと危ないことをしてるだろうが」
「まぁそうなんだけどていうかあれ使うのはズルくない!?」

魔物より危ないものをこいつが度々相手にしてきていることは知っている。
それを考えれば多少はマシだろうに。
何やら言いたいことは山のようにあるらしい。
息を整えながらポロポロと言葉が出てくる。

ほらよ」
「あありがとう!」

が、さっき取り戻してきた小袋を差し出せばその声も一瞬で止まる。
険しい表情は和らぎ、明るさを取り戻す。

「何が入ってるんだ」
「えーと内緒」
「あれだけのことをさせておいてか?」
「う

中身を問えば、相棒が言葉に詰まる。
詳細まで聞こうとは思わないが、どういったものなのかくらいは聞いてもいいはずだ。
手のひらほどの袋のもののために危険を冒してまで取り戻しに行ったのだから。

お守り、だよ」

お守り、というにはいささか重いような気がした。
本人に言うつもりはないのだろうが、袋に触れた時に何となく中身が分かってしまった。
恐らくあの中に入っているのは、邪竜への復讐に駆られた者が身に着けていた甲冑の欠片。
もっと言うのならば、アーメットの角の部分。
あんなものが『お守り』になるとは到底思えなかった。
砕け散った竜騎士の甲冑の欠片などというものをお守りにしているこいつの気が知れない。

そうか。無事戻ってきて良かったな」
「うん!あっ、お礼しないとね。何がいい?」
「要らん」

邪竜はもういない。
それでも、万が一『何かが』あったとしたなら。
同じ蒼の竜騎士として協力を申し出てくれたのだとしても、復讐に巻き込んだ俺に責任がある。

「え、でも

依頼には報酬を。
冒険者にとっては当然のことなのだろうが、もしものことを考えればまだ受け取れるとは思えない。
少なくともこの目玉を処分するまでは。

「うーん何かない?」
どうしてもというなら、今度一杯奢ってくれ。それでいい」

辞退しようとするも、おとなしく引かせてくれそうな様子はない。
もう何度目か分からないやり取りにこちらが折れ、一つだけ望みを出した。
いつもの酒を一杯、それで十分だ。

「わかった。とっておきのお酒、用意しとくからね!」

旅をしてきている分、俺の知らないものも知っているのだろう。
それはいつかの楽しみに取っておくとしよう。