Hizuki
2017-03-13 22:57:20
2060文字
Public FF14
 

雪解けの向こうに

【FF14】エス←光。竜騎士ヒカセン、3.3メインクエラストの内容を含みます。次に会いに行く時は。


雪が降っていた。
大粒の雪が、止むことなく降っていた。
一体いつから降り出したものなのか、もう覚えてはいない。
いつの間にか辺りを覆い尽くしたそれに、解ける様子はない。
この雪が解けることはないだろうと、そう思っていた。



寝てた、のか」

視界に入ってきたのは、騎士団の自室でなければ、宿屋でもない天井。

「あ、エスティニアン起きた?」

聞こえてきたのは相棒の声。
声の聞こえた方を見れば、ベッド横の椅子に座って本を広げている相棒の姿が見えた。

「来ていたなら起こせばいいものを」
「気持ちよさそうに寝てたから、起こさなかったの」

相棒はくすくすと笑いながら、本を閉じた。
そんなに寝ていたのかと窓の外に目をやる。
自分の記憶の中では確かまだ日は高かったはず。
それが今や傾き、室内に橙色の光が差し込んでいた。

「悪かった」
「気にしなくていいよ」

神殿騎士団病院の一室に俺はいた。
ニーズヘッグが眷属を率いて皇都を襲撃した。
相棒を筆頭とした冒険者達がニーズヘッグを征し、俺は邪竜の影を道連れに死ぬつもりだった。
奴に復讐するためだけに、ここまで生きてきたのだから。
そして、俺ごととどめを刺せ、と。
けれどそれは叶わず仲間達に助けられ、竜詩戦争は終結し、こうして生きている。

「あ、そうだ」

起き上がって、固まった身体を伸ばしていると、思い出したように口を開いた。

「アイメリク卿の議長就任式典の日が決まったから、それを伝えに来たの」
「いつだ?」
「1週間後だって」
そうか」

これで俺の動き方も決まったようなもの。
アイメリクから今後のイシュガルドをどうするのかというのは聞いていた。
王権の放棄、共和制への移行、デュランデル伯爵の説得で議会の初代議長に就くということも、就任の式典を開くということも。
その式典に紛れてイシュガルドを出ようと、決めていた。
人々の目が式典に向いている間なら、誰かに引き止められることもなく行動できる。

「お前も呼ばれているんだろう?」
「うん、明日から色々打ち合わせ」

考えていることを気付かれないように言葉を続ける。
誰かに話すつもりはない。
親友にも、相棒にも。

「ということは、しばらくは来られないか」
「私はちょっとしたお手伝いだけだから大丈夫」
「頑張れよ」
「ありがとう、また明日」

ぱたんと静かに扉を閉め、相棒は去っていった。
この部屋を見るのもあと数日かと、離れていく足音を聞きながら目を閉じた。



雪が降っている。
いつの間にか雪の粒は小さくなっていた。
それでもまだ止む様子はない。
はらはら、はらはら。
この雪はどうなっていくのだろう。



こんなに綺麗な青空をイシュガルドで見るのは一体どれほど振りだろうか。
国の新たな門出に相応しい、澄んだ青が広がっていた。
新しい服に袖を通して、愛用の槍を手にすると、式典会場のグランド・ホプロンに向かった。
既に多くの人々が詰めかけていて、その顔を明るくしていた。
竜詩戦争が終わったという現実を肌で感じる。
式典は滞りなく進み、アイメリクの演説を聞き届けてから、会場を後にした。
聖竜の羽ばたきが聞こえる。
歓声は止まない。
声から遠ざかるように足を進めていく。
それに混じって足音がもう一つ。

エスティニアンっ!」

俺の名を呼ぶ相棒の声に足を止める。
何も話した覚えはない。

こんなところにいていいのか?」

戦争終結の立役者が式典を離れている。
からかうように、そう訊ねていた。

「ひとつだけ、伝えたいことがあって

普段と違う声の調子に気付き、振り返って相棒を見た。
大きく深呼吸をすると、意を決したように口を開く。

私、エスティニアンのことが好き、です」

まさかそんな言葉をこいつから聞くことになるとは思わなかった。
昔の自分なら、関係ないとその場で切り捨てている。
共に旅をして、同じ蒼の竜騎士として互いの背を預け、そして俺を救ってくれた。
それをしなかったのは俺の中にある何と呼んでいいのか分からない感情のせいか。

悪い、今すぐに返事はできない」
「分かってるよ」

だからといって今すぐ相棒の言葉を受け入れることもできなかった。
それすらも予想していたというように相棒は頷く。
復讐のためだけに生きてきた今までを一度清算して、あいつとはちゃんと向き合いたい。

「だから、私の気持ちだけ知っておいて」

頷いてもう一度歩き出す。
長居は望まない。
俺だけじゃなく、あいつも。
足音が互いに遠ざかっていく。

またな」

再会を願う言葉は蒼天に消えた。



雪が止んだ。
雲が途切れ、隠れていた太陽が姿を見せる。
じわりじわり、暖かな日射しが積もった雪を解かしていく。
まだ当分雪の中にあるものは見えそうにない。
名前もまだ知らない。
けれど、この雪が解けた時、俺からあいつに会いに行ける気がした。