Hizuki
2016-03-12 11:43:10
1977文字
Public FF14
 

雪に咲く花

【FF14】オル光というよりはオル→光。ドラゴンヘッドに咲く花の話。

日付が変わるまであと1時間程。
同じように、夜が明けてから2時間程経った頃
その頃合に彼女は時々ドラゴンヘッドに姿を見せる。
前者は採掘用のピックを、後者は伐採用のハチェットを手にして。
聞いた話によれば、ある時間帯にしか取れない素材がクルザスにあるのだという。

そして、今日も彼女はここに姿を見せた。
珍しくいつもより早い時間。
久し振りに空に雲はなく、陽が差している。
早朝の稽古を終え、天を見上げると、キャンプ中央のエーテライトの側に人影が見えた。

「今日は早いのだな」

階段を上り、声をかける。
急な声で驚かせてしまったのか、人影の肩がビクリと揺れた。

あれ、オルシュファン?」

恐るおそる振り返った彼女は私の顔を見ると、ふぅと息を吐いた。

「脅かさないでよね」
「フフ、すまない。久し振りに見慣れた姿が見えたのでな」

背には使い込まれたハチェット。
大切に扱っているのだろう、丁寧に手入れがされている。

「今日も素材を?」
「うん、飛空艇作るんだって素材のこと知ってるの?」
「噂程度にしか聞いてはいないが、珍しい素材が採れるのだろう?」
「そうそう。クルザスによく行ってるみたいだからついでに採ってきてーってマスターが」

肩をすくめて苦笑する。
彼女が素材以外に何の目的でこちらに来ているのかというのは少し気になったが、それを聞くことは流石に躊躇われた。

「最近よく見かけると思っていたが、そういうことだったのか」

何はともあれ、彼女の姿が見られるというのは嬉しいことに代わりなかった。
しかも今日は声まで聞けて、意識せずとも少し心が浮かれている。

「もうちょっといい時間なら挨拶していこうかなっていつも思うんだけど、こっち来るのが早いか遅いかのどっちかだからさ」
「お前ならいつでも歓迎するぞ。いつでも訪ねてくるとイイ」

いやいや、と手を振る。
実際彼女が現れる時間というのは特に何かをしているという訳ではない。
来てくれようものなら喜んで歓迎するのだが、彼女の方が気を遣ってくれているのだと分かっている。
気にするなと言っても、気にするのだろう。

「つれないな、私とお前の仲だろう?」
「むぅ、じゃあ、次は時間調整して来るよ」

少しからかうと、降参といったように微笑んだ。
半ば誘導したような感じもあるものの、彼女から拒否する様子は見えない。
それどころか楽しみにしているようにさえ見える。

「楽しみにしているぞ」

さて、その『次』は一体いつになるのだろうかと頭の隅が日付を辿り始める。
いつ彼女が来てもいいように準備をしておかなくては。
どれだけ気が早いのだと自嘲気味に心の中で呟くと、彼女の声が聞こえた。

「色々見てきたんだけど、この辺り木とか鉱石とかは取れるのに、あんまり植物ってないんだね」

木も大きな括りで言ってしまえば植物には違いないが、彼女が指しているものはきっと違う。
今となっては雪に閉ざされてしまったクルザスも、かつては緑豊かな土地だった。
第七霊災がなければ、今もそのままだったのだろう。

「確かに霊災からこっち、この辺りでは『自然の花』というのはほとんど見かけなくなってしまった」
「そっか

こっちのも見てみたかったな、と残念そうに小さく呟いた。
この環境に耐えうる植物が出てくるようなことでもあれば、多少の緑は戻ってくるかもしれない。

代わりに、別の花が咲くようにはなったがな」
「花、咲いてるの?」

彼女の顔が一瞬で明るくなる。

「あぁ、日によって表情が違う花だ」

強く、逞しく、そして、美しい。
まだ私の知らない顔が沢山ある。

「どこで見られるの?」
「ドラゴンヘッドで見かけるな」
「ここで?」

辺りをぐるりと見回し、首を傾げてみせる。
キャンプの中を歩いて探し始めた彼女の後ろをついて歩く。
建物の影か、雪の下か、はたまた外壁沿いか。

「うーん見つからない
「ではヒントだ。今私の前で咲いている」
え?」

ヒントというよりはもうほぼ答えだ。
ぽかんとしている彼女に答えを告げる。


「お前は私にとっての『花』だからな」


花弁が朱色に染まる。
雪の中、彼女はいつだって鮮やかな色で咲いている。
目を奪われない訳がなかった。

「っ!そっそろそろ時間だから行くね!」

ばたばたと慌てて走っていく。
この時間であれば北に抜けていく彼女が、南に向かっていった。
時間というにはまだ少しばかり早い。
きっとすぐに戻ってくることだろう。
彼女の邪魔をしないようにと、書類の山が出迎えてくれる館へ向かう。


真意は伝えない。
伝えられない。
今は、まだ。


いつか、あの花が私の側で咲いてくれることを、ただ願う