Hizuki
2016-01-02 08:53:41
1725文字
Public FF14
 

不意打ち

【FF14】オル光。雪の家の頃、不意打ちの話。


意識が次第にはっきりしてきたところで、自分が微睡みの中にいることに気付いた。
それなりに休んでいたつもりではあったが、どうやら身体はそうは思っていなかったらしい。
そして、瞼もまだ覚醒を望まないようで重いまま。
幸か不幸か、この空間にはそれを咎める者もいない。
ならばそれに少しだけ甘えよう、と意識を傾けた時だった。
キィと扉の蝶番が小さな音を立てた。
周囲が静かな分、わずかな音でさえも響く。
誰、と問う必要もない。
気配で彼女なのだと分かった。

「あれ

聞こえてきた声が本人だと告げている。
コツリ、コツリ。
石の床を歩く音がゆっくりとこちらに近付いてくる。
徐々に大きくなる音は自分の側でぴたりと止んだ。

寝てる

右肘を机に立て、掌に頭を預けて俯いている状態だ。
表情は恐らく彼女からは見えないだろう。
一呼吸おいて、左頬に何か柔らかいものが触れる感触。
それが彼女の唇だと気付くのに時間はかからなかった。

「本当に、ありがとう」

ほんの数秒で離れたそれと、彼女の声。

ここで彼女を引き留めたなら、どんな反応を返してくれるだろう。

十分に届く距離。
私の左手が彼女の右手を掴んだ。

え?」

間の抜けた、歴戦の冒険者らしからぬ声が耳に届く。
顔を上げゆっくりと開けた目が彼女の姿を捉えた。

あぁ、実にイイ目覚めだ」
「オルシュ、ファン起きて?」
「さてどうだろうな?」

笑いを堪えながら様子を窺うと、彼女の顔が赤く染まっていた。
居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
きっとこの手を離したなら、すぐにでもここから駆け出していくだろう。
私の手が離れないのに観念したように彼女が大きく息を吐き、隣にしゃがみ込んだところでその手を離した。
抱えた膝に顔を埋める彼女の頭を撫でながら声をかける。

「感謝しているのは私も同じだ」

ウルダハを追われ、仲間が決死の覚悟で彼女を逃がし、そして、その危機に私を頼ってくれたということ。
女王暗殺の疑いで消去法だっただろうとはいえ、そのことが何より嬉しかった。
蛮神騒動の時も、イシュガルド防衛戦の時も彼女に助けられている。
少しは借りを返せているだろうか。

「頼ってくれて、ありがとう」

掌の下で頷くように彼女が動いた。
完全に閉まっていない扉の隙間から風が吹き込んでくる所為か、身体を震わせている。

「む、このままでは風邪を引いてしまうな」
「す、すぐ部屋に戻るから大丈夫!」

椅子の背にかけておいたコートを取り、勢いよく立ちあがって動き出した彼女の背にかける。
長すぎやしないかと心配した丈も問題ないようだ。
名前を呼び掛けると動きを止めた。

「後で何か温かいものを部屋に届けさせよう」

正面に回り、彼女の額にそっと唇を寄せる。

「おやすみ、イイ夢を」
おやすみなさい、オルシュファン」

彼女が出ていくのを見送り、自分も動き出そうとしたところでまた扉が開く音がした。

「オルシュファン様、こちらでしたか」
コランティオか」

聞き慣れた部下の声だ。

「つい先程慌てた様子の彼女とすれ違いましたよ。何かあったんですか?」
「何かいや、ちょっとした不意打ちにはあったな」

フフ、と笑みを零せば、心配そうな顔をしていたコランティオの顔が納得した表情に変わる。
何となく状況を察してくれたのだろう、大きく頷いた。

「あぁ、そうだ。彼女の部屋に何か温かいものを届けてくれ。身体を冷やしているだろうからな」
「分かりました」
「それと、明日の書類を少し私の部屋に持ってきて欲しい」
「まだお休みにならないので?」

普段ならばそろそろ休んでいる時間ではある。
だが、わずかではあるが眠ったおかげで今は眠気がない。

「少し目が冴えていてな」

もちろん、予想だにしなかった彼女の不意打ちのおかげでもあるのだが。

「では後程お持ちします。無理はなさらぬよう」

そう言って、コランティオは館を後にした。
軽く机の上を片付けて外に出る。
今日の借りをどうやって彼女に返そうか、そんなことを考えながら部屋に戻った。