Hizuki
2015-12-25 20:24:16
2879文字
Public FF14
 

甘い使者

【FF14】エス光。星芒祭でお菓子を配る話。


「エスティニアン、こっち!」

待ち合わせ場所に指定された聖バルロアイアン広場。
そこを指定してきた本人は、神殿騎士団の本部から姿を見せた。
普段の装備ではなく、緋色のロングコートを身に纏い、両手には大きなバスケットが1つずつ。
石像の縁の腰掛けに持っていたものを下ろすと、ふわりと甘ったるい匂いが鼻をくすぐった。

「大層な荷物だな」
「だって今日はお祭りだもの」

そういえば騎士団の奴等が何か言っていたような気がする。
下層の市民たちにちょっとした催しをする、と。
子供を多く見かけるのもそのせいだろう。

「これ、エスティニアンの分ね」

2つのバスケットのうち、赤い布が乗っている方を示される。
布を取ると、中には透明な小袋に数個ずつ入れられた焼き菓子が入っていた。
甘ったるい匂いの正体はこいつか。
色とりどりのリボンで封がされ、祭りを祝う言葉の書かれたタグが付いている。
そしてその赤い布をよく見ると、それはただの布ではなく祭りの発端となった兵の外套の模造品だと分かる。
触った感じからして、あまり防寒には適していないようだ。

「そういうことか」

配るのを手伝って欲しい、といったところか。
たまたま今日は休みと重なっていて、そのことを聞くと『頼みがある』と言ってきた。
普段は頼み事を引き受ける側のこいつに、珍しいこともあるものだと思っていたが。

まさかこれ全部作ったのか?」
「そうよ、まぁラッピングはちょっとルキアさん達に手伝ってもらったけどね」

通りでこいつの纏う匂いが違うわけだ。
早朝から調理場に詰めていたのだろう、焼き菓子と同じ匂いが漂っている。

「これはお前が着ているものとは違うようだが?」

自分が手にしている外套とは装飾が異なっているのが気になった。
祭り用の装飾が施されたものとは違い、どちらかといえば神学院の制服に近しい。

「私のは自前なの。あまり数がないみたいで」
「自前?」
「以前ダンジョンで見つけたコートなんだけど、色も似てるしちょうどいいかなって」

冒険者らしい理由といえばそうだが、戦闘用の装備で代用してしまうとは。

「さ、エスティニアンもそれ着て。みんな待ってるよ」

予め知らされていたのか、像の反対側に目をやると子供達が集まってきていた。
騎士団の兵達がそれを宥めている。

仕方ないな」

何でお前がそんなことを、と思ったが、聞くタイミングを逃してしまった。
薄い緋色の外套を羽織ると、既にバスケットを持って先を歩くあいつの後を追った。






笑顔を振りまいて、1人に1つずつ、小袋を手渡していく。

「はい、どうぞ」
「おねーちゃん、ありがとう!」

祭りと飾り付け、市民の声が重なって、薄暗い印象の下層が少しだけ明るく見える。
気付けば自分に割り振られたバスケットが軽くなっていた。
俺があまりこういったことを得意としないのを知っているからか、初めからこっちには多くない数が入れられていたようだ。
中を覗くと、もう最後の1つになっていた。

「あの

躊躇いがちにかけられた声が聞こえた方に目をやると、見上げるように子供が立っている。
視線が怖がらせたのか、子供の肩がびくりと震えた。
できる限り柔らかい声で話しかける。

「どうした?」
「おかしって、まだありますか?」

そう言った子供の手には既に菓子入りの袋が握られていた。

「悪いが菓子は1人1つだぞ」

多くの人に行き渡るように1人1つ限り、それが今回の決まり事だった。
最初にあいつが『お姉さんとの約束ね』と言っていたのを聞き逃したのだろうか。

「ううん、ぼくのじゃないんだ」

自分のものではない、というのは。
何か理由があるのか、しゃがんでその子供と視線を合わせる。

「おにいちゃんのぶんがほしくて
「兄貴がいるのか」
「うん!ドラゴンをたおしにいったの!それできょうかえってくるって!」

久し振りに会えるのだろう、その声が弾んでいる。

「でもおまつりにはまにあわないかもって

途端に声のトーンが落ちた。
ぎゅっと袋を握り締めている。


兄ちゃん!


懐かしい声が聞こえた、ような気がした。

バスケットの中に手を入れ、最後の袋を子供の前に差し出す。

「ほら」
いいの!?」

日も傾きつつあり、もう広場に人影は少ない。
あいつの方にはまだ多いようだが、咎められることはないだろう。

俺にも弟がいたんだ。他の奴には見つかるなよ」
「ありがとう、おにいちゃん!」

勢いよく頭を下げた子供がぱたぱたと駆けていく。
その子供に向かっていく弓を背負った男。
子供の兄だと分かるのに時間はかからない。
男は子供の頭を撫で、渡された菓子の入った袋を受け取った。
弟から何があったかを聞いたのか、男はこちらに向かって頭を下げる。
兄弟2人が手を繋いで夕日の中に消えていくのを見送って立ち上がると、相棒が側に佇んでいた。

「さっきの奴に2個目やったけど、いいよな?」

念のため、といっても事後だが、確認を取る。

「うん、大丈夫。2人でしょ?」
「あぁ」
「ありがとね、エスティニアン」

状況を見ていたのだろう、やはり咎められることはなかった。

「こっちはさっきので最後だ」
「私も全部終わったわ。それじゃ戻りましょうか」

軽く辺りの掃除をして、2つのバスケットを抱えて騎士団本部に戻る。
約半日着ていた緋色の外套を脱ぎその中に入れた。
薄いとはいえ多少仕事はしていたようだ。
本部の中にはアイメリクの姿もあり、俺がいることに驚いていた。
片付けを終えて外に出ると、はらりはらり小さな雪が舞っている。

「あ、雪」

雪なんてもう珍しいものではないだろうに。
嬉しそうにくるくる回って見せると、緋色のコートの裾が揺れる。
そのコートを見て、ふと思い出した。

「星芒祭って孤児がきっかけだったんだろ?」
「そう聞いたわ。とはいえ、イシュガルドのお祭りなんだから、エスティニアンの方が詳しいんじゃないの?」

イシュガルドの兵が自身の緋色の外套を孤児に着せて兵舎に招いたことが祭りの発端。

「まぁそうだな。で、だ。」

邪竜によって身内は既にない。
戻る故郷もない。

「孤児のための祭りだっていうなら、俺も一応孤児なんだが?」

回る足を止め一瞬ぽかんとした表情を浮かべるも、すぐに崩れる。
歩きながらくすくすと笑ってみせた。

「随分と大きな子がいたものね。でも、もうお菓子はないわよ?」

エスティニアンは甘いもの苦手でしょ?と。

「ここにあるのにか?」
「え?何が

甘い匂いはまだ消えない。
前を歩く肩を掴み、自分の方を向かせる。
そのまま唇を奪えば、言葉は消え失せた。
少しばかり舌を絡めて、抵抗の色が見えたところで唇を離した。

「お前を貰おうか」

耳元でそう囁けば、コートと同じ色に顔を染める。

さて、その味はいかほどか。