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ミイ
2024-10-23 21:34:55
2536文字
Public
静なつ
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新しい服を着たその日には
新グッズのビジュアルが出た時に思いついて書いたお話です。
鏡に映る自分の姿を見て、なつきはほんの少しだけ、口元を緩めた。
……
たまには、こういうのもいいかもしれない。
ふわっとしたシルエットのビスチェにホットパンツ。腹に足にと、普段の服と比べると、露出度が高めになっていると自分でも思った。以前の自分では、着ているところすら想像できなかったような服装。鏡の中のなつきは頬をほんのり染めて、慣れないながらもいくつかポーズをとってみたりしている。こういう服を着てみたいという気持ちがなかったわけではない。しかしそれよりも、優先するべきことがなつきにはあった。ただ、それだけのこと。そして今は、そんなしがらみはひとつもない。
なかなか似合ってるんじゃないか? などと心の中で呟きながらなつきは自室を出る。
あと数分後には、自分を待っているはずの恋人と、久しぶりのデートに出かける予定だった。
(静留は、どう思うだろうか)
新しい関係性が二人の間に追加されてからしばらく経つが、日常的な買い物などはよくしていても、休みが合わなかったり、または静留が忙しかったりして、今日のように予定を事前に立てておくようなデートは数ヶ月ぶりだった。だから、というわけではないが
……
気合いを入れてしまったのは確かだ。静留のことだから「なつきはかいらしなぁ」なんていつもの調子で褒めてくるか、「馬子にも衣装どすなぁ」と揶揄ってくるか。なにせ久しぶりなものだから想像もつかない。なつきは少し不安になりながら、足を進めた。こんなに緊張しているのはきっと私だけなのだろうと思いながら。
廊下を通り過ぎて、静留が待っているはずの今のドアを開けようとした時。
「なつき」
くんっと、存外強い力で肩を掴まれ、足が止まる。
「静留?」
いつも自分を呼ぶ甘い声よりも、少し固く静かな声だった。不思議に思って振り向けば、欲に濡れた赤い瞳が、なつきだけを映して揺れていた。思っていたどれとも違う反応になつきが羞恥で固まっていれば、顎に細い親指と人差し指が這い寄り、そのまま強引に唇を塞がれた。
「
————
っ! しず、るっ!?」
「そないな格好して外行こうやなんて
……
なつきもいけずやわぁ」
うちが毎日どれだけ、我慢してたかも知らんで。
耳元で聞こえた低い声に、ぞくりと背筋が粟立つ。
きつくきつく、息が苦しくなるくらいに強く抱きしめられ、呼吸が浅く、早くなっていく。縋るようになつきの指先が静留の肩を引っ掻けば、満足そうに静留の口元がゆるりと弧を描いた。
「しず、るっ、きょう、は」
「
…………
なつき、ほんにかいらしなぁ」
甘い甘い、歌うような声。誰にでも優しく見える静留が、唯一自分だけ向ける声色。その声を聞くだけで、なつきの心臓は全力で走った後のように強く早く鼓動する。そう、なるようになってしまった。二人で過ごした時間が、なつきにそうさせてしまった。
蛇が這うように、静留の指が、手のひらがなつきの全てに触れていく。頬をなぞって首筋へ。肩から腰、そしてその下まで。甘い痺れに耐えきれず腰が砕けたなつきを、静留は満足気に寝室へと運んで行った。
◯◯◯
「なつき」
「
……………………
」
「なつき、堪忍な?」
「
……………………
許さない」
「ふふ。なつきは優しおすなぁ」
「許さないと言ってるだろ!?」
長く美しい髪を揺らしながら、静留は愛しい人に声をかけていた。名前を呼ばれている恋人は着ていた服を全て脱がされ数時間愛され続けた後、毛布にくるまり籠城を決め込んでいる。
うちも、我慢できひんかったのは申し訳ない思いますけど
……
なつきも悪いと思いますえ。やって
……
あんなかいらし姿、他の人に見せたないんやもの。
自分の中の独占欲。今までなつきには見せないようにしていたものが、あの衝撃で爆発してしまった。
「
……
せっかく」
「え?」
「せっかく、あの服、着たのに」
むすっとした声は、拗ねている時の声だ。久しぶりに見るなつきの子供のような態度に、静留は思わず笑みをこぼしてしまう。
「似合うてはりましたえ。やかて
……
ああいうんはうちの前だけにしてほしおすなぁ、なんて」
「
…………
は?」
「なつきのかいらしいとこは
……
うちだけが知っとったらええやろ?」
「
…………
強欲」
「やぁん、そないに褒めんとってほしいわぁ」
「褒めてないっ!」
ばさっと布団が捲れて、愛らしい緑色が自分だけを映す。少しばかり成長したようなそこを慌てて隠すようにして、目を逸らす仕草がいじらしくて、あまりにも可愛くて。
目の毒、とはこのことを言うのだろうと静留は思った。
「
…………
静留に、見て欲しかったけど、で、デートも、したかった」
「
………………
」
「お、おい、静留? 目が怖いぞ? ちょ、なんで上に
……
静留!?」
「デートは今度、必ず。でも今日は
……
たくさん愛させてな?」
「
…………
お前っていうやつは」
ぐいぐいと押しのけていた手をぽふりとシーツにおろして降参のポーズをとったなつきの額に、静留は一つキスを落とす。命の色。美しい新緑に自分の赤が映ってきらきらと反射している色が、静留は好きだった。ほう、と見惚れていると、首に手を回され、気づいたらくるりと一回転。抵抗する気もないのに、手首はシーツに縫い付けられていて。
「
……
今度は私の番だ」
そんなことを言いながらも顔を真っ赤にしている様が愛らしくてたまらない。
「なつき、愛してますえ」
「
……
私も、あ、あいして、る」
「ふふっ。緊張しすぎやないの?」
「う、うるさい!
……
緊張、するだろ。好き、なんだから」
ああ、どうして、この子は。
「
……
すき」
なつきに愛を言祝がれるのは初めてではない。それでも、何度伝えられても慣れることはないのだろうと思う。叶うことはないとずっと、思ってきたのだから。
溢れ出しそうになる涙を見られないように、静留はそっと腕を伸ばしてなつきを引き寄せる。重なった体温が心地よくて目を閉じる。耳元で呼ばれた名前に、抱き締める腕に力を込めて応え、静留はまた、恋人への愛を紡いだ。
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