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ミイ
2024-10-23 21:23:52
1612文字
Public
静なつ
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426の日③
「静留」
「
……
なつき。どないしたん?」
不意に手を、掴まれた。まるで、迷子の子供の手を取るかのように優しく、でも決して離さないとでも言いたげな、柔らかくあたたかな力加減で。散り急ぐ桜の木の下で、二人はじっと見つめ合う。桜と髪色の対比が美しく絵になる、と思っていたのはお互い様。決して心地悪くはない沈黙ののち、先に口を開いたのはなつきの方だった。
「お、おまえが」
「
……
うちが?」
「どこかに、行ってしまう気がしたんだ」
そっぽを向いて口を尖らせて。大人ぶっているくせに、子供みたいな仕草をするなつき。クールビューティ、などと言われながら実は一部からはヘタレと評判。頭は決して悪くはないのに家事全般はてんでダメで、果てには超のつくマヨラーで、何も言わないでおけば全ての食べ物にマヨネーズをかける。そんな、近しい人にしか見せない彼女のギャップがいじらしくてたまらない。ついつい、揶揄いたくなってしまうほどに。
「あら、なつき寂しなったん? うち、ここにおりますえ?」
「べ、別にそういうわけじゃ
……
!」
静留の言葉に、図星を突かれたのだろう。子犬のようにきゃんきゃんと吠える様も可愛らしい。こんな戯言にも頬が緩んでしまうのは、相手がなつきだからだろうと静留は思う。
「もう。素直になったらええのに」
「なっ
……
もとはと言えばお前がだな!」
「うちが?」
少し頬を染めた彼女が、あーだのうーだの口篭る。
……
なつき、堪忍な。あんたのそないな顔見たらうち、勘違い、してしまいたなるわ。
なつきはきっと、そんなつもりはないのだろうに、深く意味をとってしまいたくなる自分に嫌気がさして、俯く。こんなにも素直な彼女に、自分はふさわしくない。隣に立つことすら許されるのだろうかと疑ってしまう。嫌な方向に重なり深まる思考に視界が黒く染まりかけた時、くんっと手を強く引かれ、桜と、新緑の。命の色が、目に映った。
「お前がそんな顔、するから」
瞳に宿る強い意思に、息を飲んだ。言葉を失った。目が、離せなかった。自分はどう足掻いても、玖我なつきという少女に心の底から惚れてしまっているのだと思った。
「
……
あら。そんな顔て、どんな顔?」
「
……
またそうやって隠す」
素直じゃないのはお前だろう、なんてこぼすなつきに、静留は完璧な笑みで答えていた。
もしも素直になってしまったら、胸の内のこのどろどろとした気持ちを伝えてしまったらもう、なつきは自分のそばに来てはくれないだろう。そんなことくらい、静留はわかっていた。わかって、しまっていたのだ。
気まぐれな猫、いや。警戒心の強い野良の子犬のような彼女が自分に気を許してくれているのは、きっと、今の付かず離れずの距離を保っているから。野生味溢れる彼女に自分という首輪をはめてしまえば、きっと彼女は今の瞳の輝きを失ってしまうだろう。それは、静留の望むところではない。
……
たとえ、静留が、彼女の全てを手に入れてしまいたいと願っていても。
「ふふっ。かいらしなぁ、なつきは」
「なっ!? か、可愛くなんかない!」
「そうやってムキになるところも。ぜーんぶ」
「
……
どうせ、誰にでもそう言ってるんだろう」
「さて、どうやろなぁ」
あんたにだけやって言えたら、どれほどええんやろか。
そんな勇気も自信も何一つない自分は、ただただ、いつものように笑うだけ。不安にさせないように、なつきにはよく不機嫌な顔をさせてしまう、綺麗な笑顔で。
自分を見て膨れっ面をしている彼女を見ていれば、心の中にぽっかりと空いた何かが埋まっていく気がする。
かいらしなぁ。ずっとこうやって、なつきのこと見てられたらええのに。そしたら、うちは。
……
こないなこと思うやなんて、うちも大概やなぁ。
静留はぽつりと呟き、小さく熱いため息をこぼした。
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