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蕨野おもち🍡
2024-10-23 20:16:17
2425文字
Public
豊衣足食
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お裾分け/豊衣足食
父と子、そして季節のお裾分けについて。
珍しく愛息子から電話があった。
何でも、いつも私が頂きもののお裾分けとしてドラルクとマルスケのために送っていた野菜や果物を、今回からもう少し多めに欲しいという。
そういう連絡があったのはこれが初めてだった。そもそもドラルクは人間の食事を殆ど取らないので、食べるのはほぼマルスケ一玉しかいない。「あまり沢山貰っても消費するのに困りますので」と言うので、これまではなるべく綺麗で新鮮なものや丁度旬で食べ頃のものだけ厳選して少しずつ送っていたのだ。それでも時々「少し多いですよ」と言われることがあったので一体どういう訳だろうと思ったのである。
「送るのは構わないけれど
…
大丈夫なのかい?多すぎて困ったりとかは
…
」
心配になってそう聞くと、ドラルクは電話口の向こうで「ああ、それは大丈夫です。よく食べるのがひとり増えましてね」と笑って答えた。
「
…
うん?よく食べる?」
「ほら、ロナルドくんですよ。あの子あれで結構食べる子でして。せっかくならお父様から頂く美味しい野菜や果物も、あの子にも食べさせてやろうかなと」
食育において良いものを食べさせるのって大事でしょう?とドラルクは続けてそう言った。なるほど、あの退治人か。そういえばドラルクは先日からその退治人と新横浜で一緒に暮らしているのだったと思い出す。
「
…
あの男。まさかドラルクに炊事係の真似事なぞさせているのか?」
我が息子になんてことをさせているのだ、と私は憤った。ドラルクは竜の一族の高貴な血を引く由緒正しき吸血鬼である。故に吸血鬼側が人間を使役することはあっても、その逆があってはならないのだ。もし今、ドラルクがあの退治人によって不当な扱いを受けているならば今すぐにでも迎えに行かねばならない。そんな怒りを隠せぬまま「あの男に無理矢理やらされているのかい?」と聞くとドラルクは私のそんな心配を他所に、なぜかとても楽しそうに笑って「まさか!」と否定した。
「私がやりたくてやっていることです。私はやりたい事しかやらない主義ですので。それはお父様だってよくご存知でしょう?」
「しかし
…
」
それはそうなのかもしれないが。あの地にドラルクが留まりそこで生活することを一度は受け入れたが、もしそれによってドラルクが損なわれることがあったり不利益が生じるのなら話は別だ。やっぱり今からでも同居は止めさせるべきだろうか、と私が答えに迷っていると、ドラルクが遮るように「それに、」と言葉を続けた。
「
…
それに。私、今がここ数十年で一番楽しいのですよ。この街に来てからずっと。ね、お父様。私がこの街で楽しく過ごしているのに免じて、どうか諸々のこと、改めてお許し頂けませんか」
「ドラルク
…
」
ドラルクの声はいつになく真剣味を帯びていた。知らなかった。よもやそれ程までにあの人間のことを気に入っているとは。
「
…
本当に、お前の意思でやっているんだね?あの退治人に無理矢理言うことを聞かされている、とかではなくて
…
」
「ええ。
…
ていうか寧ろ、私が面倒見てやらないと日々の食事も儘ならないんですよ、あの5歳児」
「
…
んん?」
「
…
あそこに住むようになってからも最初はここまでしてなかったんですよ?ジョンの分は作ってましたけど。そしたらあの男、毎日何食べてたと思います?放っておけばコンビニ弁当カップ麺スーパーの惣菜インスタントの延々エンドレスリピート!!酷い時なんかインスタントラーメンそのまま齧ってやがったこともあって、信じられます!?」
「あっうん?あれ?そういう感じなの?必要に迫られてみたいな?」
何だか、私が先程から想像していたのとはちょっと状況が違うようだ。どうも話の雲行きがおかしい。そんなに酷かったのかい?と聞くとドラルクは「そりゃもう!」とさらに声を荒げた。
「あんまりにも酷すぎて見てられないからジョンのついでにって作ってやったのに、あの男最初は箸さえ付けようとしなくて。流石に失礼にも程があると思いませんか???」
「うーんそれは
…
彼が退治人なのならまあ
…
」
さもありなん、と思わなくはないが。吸血鬼の作った料理に手をつけないというのは、ある意味退治人としては正しいのだろう。しかしドラルクはどうにもそれが気に入らなかったらしく、彼のこれまでの食生活が如何に酷かったかということを尚も早口で次々に捲し立てた。
…
うん。流石の私もチ○ンラーメンそのまま丸かじりはちょっとどうなんだ思うかもしれないな。
「
…
こほん。失礼、少し取り乱しました。
……
まあ、そういう訳で最近ようやく警戒もしなくなったので。よく食べるから食費も馬鹿にならないし、せっかくなら質の良いものを食べさせたくて」
「なるほど
…
」
一通り喋ってようやく落ち着いたのか、ドラルクはようやく一息ついた。他人のことでここまで怒る(?)ドラルクを見るのは初めてだったので、思わぬ息子の一面に驚きを隠せず少々面食らってしまった。それだけあの退治人のことを気に入っているのだろう。この子が生まれてからもう200年以上経つのに未だ知らない面があったのか、と不思議な気持ちになった。それを知るきっかけがあの退治人というのが、少しばかり悔しいところだが。
…
まあ。楽しくやっているようだし。きっと彼は本当に良き友人なのだろう。ドラルク本人が心からそう望むのならば、あの街に居させることももう少し様子を見ても良いのかもしれない。
「
…
わかったよ。丁度今年、林檎が豊作らしくてね。少し時期は早いけどドラルクがそう言うのなら多めに送ろう」
「
…
!ありがとうございます、お父様」
「うん。あとでそこの住所を教えてくれるかい?すぐ手配するよ」
ドラルクは嬉しそうに分かりました、と弾むような調子で返事をした。子の成長というのは、己の知らないうちにも大きく進むらしい。私はほんの少しの寂しさを感じながら、林檎の他には何を送ってあげようか、と考えるのだった。
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