岬菊花
2024-10-23 19:20:23
1862文字
Public
 

かおりと五橋さんss

嬉しさのあまり勢いのまま書いた内容のないものです。恥ずかしさが再燃したら消します

面倒事は嫌いだ、巻き込まれて被らなくていいはずだった不幸に自分の服が汚されるのだから。
この世は努力したとて報われるとは限らない。正しいと思っても、幸せになるための苦労だと信じても、無慈悲な時間と運命によって足元からひっくり返される。だから、無駄な努力はしたくない。頑張ろうとして、余計なことを引き寄せたくなどないと思うのは、当たり前のことだ。

「好きに座りな」
言われ小さく頭を下げた来客者である五橋は、慣れたように靴を脱ぐ。かおりも特に視線を寄越すでももてなすでもなく、一人でいるときと変わらず煙管を咥えたままだ。

厄介な性質を持っているやつは少なからず存在している。けれど奇怪ながら人情に則したような安寧を保つこの街にいる限り、極端なほど迷惑をかけるようなやつはいない。故に追い出されたり捕らえられていないというだけで、ある程度は安心していいという保証となっている。
秋口のぬるま湯のようなこの街に、比較的最近やってきたこの五橋という男は、ギリギリを保証されたといえるくらい、厄介なものを抱えているらしい。手斧を持っている時点で危険性を疑われることは仕方のないことだろうが、幸い普段は正義の味方ということで、夜間の警備を手伝っているらしい。
それでも時おり、精神なのか性質の問題か。己の髪を酷く雑に切り落としたり、酷いときは肉体にも傷を負わせている。包帯の下を醜くすることを、苦しみを伴いながら行い続けては「治らないでくれ」とぼやく声は、果たして幻聴だったかは覚えていない。
そんなことよりも、運命に振り回されて苦しみの道を進む姿が、あまりにも不健全に見えたのだ。

「かおり殿」
無駄口を叩かない五橋からの言葉に、かおりは緩やかに視線を寄越す。彼の素顔を隠すようなものに溢れていながら、真っ直ぐの灰色に光る目はよく目立つ。機嫌も悪くないらしく、誠実さが伝わるほどの迷いのない色を持っていた。
「ご厚意により長居する許可を頂いているが、本当に長居しては迷惑だろうか」
取り乱したようなあの血にまみれることをよしとしていた姿とはほど遠い、どこまでも真面目であるからこその言葉だろう。自身の性質と性格が、非常に相性の悪いものとを理解している。対象が自分自身だとしても、暴れてしまうことも理解し、もしも何かの拍子に、巻き込んで傷つけてしまったら。自覚できている己の危険性についても、短くだが吐露していた。

だがかおりは、自身が傷を受けないことを理解している。彼が自分の命を軽んじるかのように傷をつけるのと同じように、かおりは自身は死んでいるのだからと己にまつわる全てを軽んじている。故に、危険性についてを理由にされても、なにも響かないのだ。
「好きにしな。居たいから長居するでも構わんさ。行きたいところができたら、自由にでていけばいい」
本当にそれでいいのかと、端的にいえばかおりにメリットがないことを考え悩んでいるのか、五橋は口を結いながら視線をさ迷わせる。納得のできる答えでないことは、かおりとて理解していた。だがかおりにできることは、これなのだ。

厄介なものを抱えているだけで、悪人ではない。己の性質に苦しめられているが、苦痛を和らげる道は探すことはできる。人間界での束縛の延長があるとしても、ここは神もいるくらい穏やかで自由が多い場所だ。
なにより苦しみたいというわけではなく、嫌いなものにまみれた自分をどうにかしたいらしい。数少ない、かおりの知る五橋の内側。それを知ったから、協力することにしたのだ。

元に縛られすぎないで、少しでも自分の好きなものを得ればいい。消えてしまうとしても、好み選んだ意志が残るのならば、何かしら与えることは可能だ。もしも新しいものを探すための時間がほしいのならば、この場所が落ち着くのならば、いくらでも協力する。
中途半端に背負うから厄介になるのだ。自分のできることを考え、余計なことはせず、出来ないことははっきりと断る。できることにのみ集中すれば、少なくとも自分を納得させ満足させる結果が得られると知っていた。
「選んで苦しみが緩和できるなら、いくらでもここで考えていい。あたしがそうしていいと決めたんだからね」
協力すると手を差し出したのだから、追い出すことなどしない。いて迷惑になることもないのだから、困ることなどない。
安心させるには言葉も説得力も足りないだろうが、ひとまずは変わらない沈黙が訪れる。線香の火がゆっくりと進むような夜は、今日も心地よいものだった。