Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
南篠
Public
ダーリンランデヴー!
Clear cache
幸運
ダーリンランデヴー! / エリザ・ムーンライト
エリザ・ムーンライトは幸運の女神を信じている。
「ッ、うあああ〜〜ーーー!!!! 外れたあ!」
情けない叫び声とともに、エリザはテレビの前で膝から崩れ落ちる。今日の資金は底をついた。この大穴を当てさえすれば、どうにか取り戻せる手筈だった。もちろん、当てさえすれば、の話である。この土壇場で当てられる手合はほとんどいない。エリザもその一人、無謀を追い続けているだけだった。
「絶対、絶対勝っていただろあれは
……
ッ! はあ、今日は終わりだ
……
」
とはいえ、そこはオルドポルターが誇る正義の味方、Ag:47の職員。決めた金額以上には手をつけないだけの理性はあった。溜息と共に立ち上がり、エリザはとぼとぼと椅子に戻る。すらりと伸びた長身も、端から見ればいささか小さく映るだろう。
エリザ・ムーンライトは不運だ。
宝くじは当たったことはなく、賭け事は負け、傘を持たない日には雨が降り、そして自動のはずのドアも彼女には反応しない。
犬の如く、道を歩けば棒だか電柱だかトラブルだかにぶつかる人種だった。
椅子に腰掛けたエリザは、不貞腐れたように唇を尖らせながら足を組んだ。ポケットに片手を突っ込み、もう片手の指先でテーブルの表面をリズミカルに叩き、全体重を背もたれに預ける。背もたれが壊れないことを内心祈りながら。
不意に頭の中で軽やかな声が響く。
「賭け事、やめないの?」
いつか聞いた問いかけだった。思い返すようにエリザは瞼を閉じる。甘えるような声色にはどこか呆れのような色もあり、それをわかっていてもなお、エリザは「どうかな」と答えたのだった。
金の絡む賭博からは手を引いてもいいかと思ったが、日常の細やかな運試しまでやめることは憚られ、結局はずるずると賭け事もやめられないままだった。
そうして当時の彼女
――
問いかけた張本人
――
からこっ酷く振られてしまったのだが、それもまた、エリザに言わせれば「ツイていなかった」のだ。
ツイていないのは日常茶飯事だ。
ツイていないからこそ、エリザは今、この職に就いている。
あの誕生日、運悪くショッピングモールに行かなければ、そしてそこに運悪くダーリンが襲ってこなければ、運悪く人質にならなければ、きっとエリザは、今頃そのあたりのカフェで働いていたことだろう。アイスクリームショップでもいい。行列に並ぶ人々を笑顔て躱していくのも楽しかっただろう。
しかし、そのもしもの未来を、エリザはとうに思い描けなくなっていた。
「
……
はあ、よし。気を取り直すか」
組んでいた足を解き、勢いよく体を起こした。
今日は休日だが、体を鈍らせるわけにはいかない。いつまでもツイていないままじゃ仕方がない。さっさとトレーニングルームにでも行ってしまわないと。そばに置いたままの端末をポケットに滑り込ませ、沈んだ気持ちを奮い立たせる。
運が悪いのは今に始まったことじゃない。それでも何かに賭けてしまうのは、いつだって、肌がひりつくような可能性を味わいたいから。そして、いつか、「私はツイていた」のだと、大声で笑ってみせたいからだ。
エリザ・ムーンライトは幸運の女神を信じている。
いつか自分に微笑んで頬にキスをして、ありったけの幸運を恵んでくれるはずだと。それが叶うのなら、例え会場は地獄だって構わない。信じていなけりゃこの生に意味はない。
幸運の女神を信じることだけが、自分を信じる唯一の縁だ。
広告非表示プランのご案内