夢の続き

ダーリンランデヴー! / レディ・グレイス

 目が覚めた。
 まるで、永い夢を見ていたようだった。

 体を起こす。五体満足、多少左足の見目が不格好だが問題はない。手を伸ばす。左手薬指に腐敗が見られる。不思議なことに動きはするらしい。何度か手を握っては広げ、ようやく己の身体なのだという実感を得た。
 自分は――グレイスは一度死んだ。
 それなら、この動く心臓は何?
 誰か、男が自分に馬乗りになっていたような気がする。痛み、苦しみ、それすら上回る悔しさ、虚しさ、手の届かなかった成果。
 だが、意識の端に引っ掛かっていただけのその光景は、グレイスが瞬きをする間に消えてしまった。痛みも苦しみも悔しさも虚しさも、潮が引くように胸中から消えていく。どくどくと心臓が高鳴り、脳の天辺から指先まで慌ただしく血が巡っている。視界が明滅し、ひとつ息を吸う。
 体が軽かった。それはもう、驚くほどに軽かった。
「ふ、……あはは、あはは!」
 頭の中が透き通るようで、思わず笑ってしまうほどで、不気味な肉体をした死人の笑い声は、きっと路地裏中にこだましたことだろう。
「なんだ、わたし、よみがえったんだ! よみがえるのって、こんなに簡単だったんだ!」
 じゃあ、あの子はどうして戻ってこなかったの?
 片隅で呟く声があった、誰かの顔が浮かんだ気がした。しかし疑問はふと潰え、次の瞬間には思い出せなくなっていた。夢だったのだ、きっと。すべてが。だって、生きることさえ完全な終わりがないのなら、いったいなにが現なのだろう?
 自分の体が研究対象になるなんて思いもしなかった。楽しくてたまらない。グレイスは覚束ない足取りで、鼻歌混じりに、誰もいない夜道を歩いていった。
 真っ黒い、底のないような眼孔が星を映す。
 ここからはすべて、涯のない夢の続きだ!