【小説】ディコトマのおじちゃん

モノメビ。ディコトマとシューニャ
Twitterに載せていた小説

 ──ちゃん



『ディコトマ──』





「ディコトマのおじちゃん!」

 目の前に、鮮やかな銀が散らばる。

「ん? おお、どうした」

 シューニャ、とその子供の名前を呼べば、彼女はむう、と不服そうに唇を尖らせた。

「ずっと呼んでたのに」
「そいつは悪ぃ悪ぃ」

 ぽんぽんと宥めるように頭を撫でたものの、ご機嫌は斜めな様子でシューニャの表情に変化はなく、これは自分が思うよりもずっと彼女の声を無視していたのだと実感して、改まって「悪かった」と再度はっきりと謝罪を口にした。
 途端、にこりと破顔したシューニャにホッと胸を撫で下ろす。
 こんなところをハルに見られでもしたら、特注の酒が空になってしまうというものだ。

「許すぞ!」

『許すぞ』

 笑ってそう言った彼女と、ダチの姿が一瞬重なる。
 もう一度瞼を開いたときにはその面影は立ち去っており、ディコトマは思わず笑った。
 言葉も仕草も本当にパシュパクルとそっくりだ。

「そいつぁ重畳」

 時折、女の子らしからぬ言葉遣いをするのも、あの漢があの地でひとりシューニャを育てたからに違いなく、なんとも気付いたときには手遅れで慌てたであろう姿が容易に想像出来てしまって笑いの波を助長させた。

「それで、どうした? ハルは一緒じゃねぇのか?」
「うん、オシュトルと一緒に出てった」
「あー、あれか」

 そういえば、裏通りの仕事を任せていたなと思い出す。
 一緒に連れて行って守ってやれば良いものを、とまだまだ青臭い弟子の後ろ姿を呆れて思い浮かべ、それから大人しくお留守番をすることになったらしい少女を見下ろした。
 さては、あれか?

「おじちゃん! 父様のお話の続き!」

 きらきらと輝く宝石のような双眸に、ディコトマは破顔した。
 だと思った、と。

「仕方ねぇなあ。じゃあ、アイツらが帰ってくるまでな?」
「やったー!!」

 ぴょんぴょんと跳ねる彼女を微笑ましそうに見やるユゥリに気付き、「ユゥリ、茶を頼む」と声を掛ければ「かしこまりました、御館様」と穏やかな声が返されるのにまた笑って。

「さぁて、今日はどの話にしようかねぇ」


 今はもう亡き友の話を、彼の忘れ形見に紡ごう。
 これからも、さみしくないように。