【小説】遺物

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アクタが遺跡にて拳銃げっとして、烏いわくセーフティがかかってるから人っ子1人殺せぬ護身用だと言われる。
そこで敵の強襲。

 アクタは何を思ったのか、先程拾った遺物を取り出すと、力いっぱいに十手を叩き付ける。
 自棄を起こしたのかと一番近くにいたクゥランが驚きの声を上げた。

「アニキ⁉ 何やって……

 その声を聞いた仲間達の視線がつられるようにアクタへと向けられた。
 その視線の先で異変は起こった。
 アクタの手のひらに収まる程に小さかった遺物が、何か恐ろしい勢いで膨張したのだ。
 広がり、再構築されたそれは元々の形状など跡形もない。
 それに驚愕の表情を浮かべた仲間達の中で、2人、正確には一体と一羽は別の意味でその表情を歪ませた。
 あれは。
 一瞬の思考の間。
 その間にアクタが握りしめた遺物は煌々とした輝きを漏らしだした。
 まるで、頂でみた光よりも刺すような眩さのそれは留まることを知らぬように膨張し続ける。
 敵も味方もその光景に釘付けになった中、アクタはカッと目を見開き、声を張り上げた。

「てめぇらどけぇえええ‼」

 その怒号に、反射的に、または躰が勝手に従ったかのように仲間達はアクタの射線上から全力で離れた。
 そうしなければ命はない。
 そう、何か、直感のような恐怖があったのだ。
 仲間達が飛び退いたのと同時、アクタの腕よりも膨張した遺物が眩い光を吐き出した。
 それは遺物の口径よりも広く長く吐き出され、逃げ遅れた敵を一纏めに光が呑む込んでいく。
 そして弾けた。
 とんでもない眩しさと熱さに身を伏せ目を閉じてやり過ごした仲間達が恐る恐ると顔を上げたとき、みたこともないというのに、そこはまるでディネボクシリのような有り様が広がっていた。
 先程まで自分達が立っていた場所は深く抉れ、その傷跡は硬く傷もつけられぬはずの遺跡の壁さえも穴を空けている。
 当然、敵の姿なぞ見当たらない。
 あるのは抉られた跡地と、まだ冷めぬ熱気だけだ。

「息子よ‼」

 そんな中、声が響く。
 ハッとしたように声につられて見やった先、この光景を生み出した男が立っていた。
 あれほどの威力を叩き出した遺物はもう手にはなく、足元に崩れた炭のようなものがその残骸だろうか。
 それよりも、男だ。
 上半身の衣服はなく、遺物を握っていた両腕は肘よりも上まで黒ずんでいる。
 もしや、と烏に続いて我先に傍らに駆け寄ったのはミナギではなくツクヨミであった。
 その肩に舞い降りた烏が「なんという無茶を‼」と苦言を吐く中、ツクヨミは振り返り、「早く‼」と立ち尽くすミナギを叱咤する。
 己の擬似ナノマシンよりも、確実に効くミナギの血を頼ったのだ。

「アクタ様‼‼」

 縺れるような足で駆け寄ったミナギはツクヨミによって強制的に寝転ばされたアクタの炭化した腕に血をぶちまけた。
 本来なら滴る程の量で良かったはずなのに、ミナギは恐怖に駆られて深く身を裂いたのだ。

「ミナギ⁉」

 慌てて身を起こそうとしたアクタを、遅れて駆け寄ったクゥランとシラユキが縫い止める。

「アニキまだ動いちゃダメだよ!!」
「主様、どうか落ち着いてくりゃれ‼」

 深すぎるミナギの傷口をさっと押さえたのはスズリであり、その上から癒やしの術を施したのはディーだ。
 ツクヨミはいざという時のために自身のナノマシンを残した。

「息子よ、何故あのような真似をした!?」

 ミナギによって炭化した腕に肌色が戻り、熱気が当たったのか火傷を負っていた顔のそれも落ち着きを取り戻しかけたとき、黙ってツクヨミの肩でアクタの傷を見つめていた烏が再度声を荒げた。
 あれは、セーフティを一時的に停止させる行為だ。
 それはかつての時代では管理者権限により厳重に秘匿され、ロックされ、武器を携帯し使うことを許可された人間であろうとも軽々しく行える行為でもなく、そして出来ることさえもしられていない違法な使用方法である。
 確かに、かつて己はその使用方法を教えたことがある。
 しかし、その方法も記憶を失った男が再現させるすべはないはずだった。
 躰が無意識にその動作を行ったのか。
 あれほど使うなと教えたというのに、という言葉は喉奥につっかえて出てこない。
 何故か、確認してはならないような恐怖があったのだ。
 一つ間違えば、この場にミナギやツクヨミが居なければアクタの腕は、命はいったいどうなってしまっていたのか。
 息子を失っていたかもしれない可能性を目の当たりにして、烏は恐怖に震えた。
 きょとりと此方を見返すアクタの視線を受けて、その恐怖は嵩を増したのだ。

「無茶? 無茶じゃあねえだろ?」 

 自分も、仲間も、誰ひとり失っていないのだ。

 そう不思議そうに、そして心から安堵しているように呟いたアクタの影の中で、及第点だなとひとり嗤う存在があったのを誰も気付けなかった。