フリーカンパニーハウスに帰ってきて風呂にでも入ろうとしたら、風呂の中に巨大な肉の塊がぷかぷか浮いていたから、俺はぎゃあ!と悲鳴を上げた後、「ワカさーん!!!」と大声でサブマスターの名前を呼んだ。
なかなかのバトルボイスだったらしく、個室まで届いたようで、ぼさぼさ頭でくたびれたカウルのいつもの格好でサブマスターであるミコッテの男──ワカさんはあらわれた。
「風呂!」
俺──このフリーカンパニーのマスターであるウィスティルスタルの一声で、ワカさんは察したらしい。「ああ」となんでもないというような返事をした後、風呂に浮いていた肉塊を救出で引き寄せた。
「あ、ちょうどいいころ合いだわ。呼んでくれてありがと」
「ちょうどいいってあんたさあ うわっ!熱っ!」
「肉にはぬるくていいけど人間には熱いよ。水でぬるくしてから入りな」
「肉が漬かってた風呂に入りたくねえよ。シャワーでいい。っていうか掃除してくれよ」
風呂に肉を浮かべるのもどうなのか?と思うが、肉は特殊な素材でおおわれており肉汁はその袋の中でたっぷりと溜まっていた。まあ変人のやることだが、このワカという男、なんとまあマイスター調理師である。滅多に料理はしないがたまにやるとめっぽううまいものを出してくる。まあ今回の肉もかなり美味いものになるのだろうな、とは思うが、過程を見たくなかったなと思った。
俺はシャワーを浴びると、熱い風呂の湯を抜いた。どうやらフリーカンパニーのメンバーは不在のようで、ワカさんと肉だけが数日間風呂を堪能していたらしい。
「ウィスが帰ってくるのは意外だったな」
ワカさんは肉を担いで二階に上がっていく。「案外楽な仕事だった」と答えると、ふうんと興味なさげな返事があった。
「肉食う?」
「……食うよ」
「分かった 食わないって言っても食わすけど」
ワカさんがいなくなりざっとシャワーを浴びる。依頼の疲れを湯船でゆっくり取ろうと思ったが、使えないようじゃ仕方がなかった。
二階にあがると肉の焼けるいいにおいがした。「なにつくってんの」
「ローストビーフ」
「全部!?」
「めんどくさいしいいだろ」
フリーカンパニー全員で食べても食べきれないような肉の塊を、フライパンに載るように切り分けているのは猟奇的であった。
「あんたさあ、バリエーションあるはずなんだからもっといろいろ出してくれよ」
「肉切り分けたら考えるわ とりあえず今はローストビーフにすることしか考えらんねえ」
カウルの袖から打撲痕がいくつか見える。最近、ワカさんは”また”ろくでもない男に入れ込んでいた。この男は愛は金で買える、と言って、ストレス発散のように好みの男に金をつぎ込んだりする悪癖がある。今回の男は暴力をふるった後に優しくしてくれるタイプのいかれたゼーヴォルフだった。ワカさんは仕事が終わるとその男と逢引し、やられるがままにボコボコに殴られ、暴力的なセックスを受け入れ、「愛してるから止められないんだ」という男の甘いささやきで満たされていた。「愛してるからそういうことするんだよな~」と、目を青く腫らしながらへらへらと笑って帰ってくる。そしてまた逢引するための金を稼ぐために仕事をし、男との逢瀬を楽しむのである。
趣味が悪い。俺はハッキリそういったことがあるが、ワカさんはワカさんで狂った男である。貢いだり傷つくことで愛を感じるのだ。
珍しく料理をしているということは、暴力男と別れたのだろう。ワカさんは愛を金で買っては、別れ、精算のように異常な量の料理を作る。格別の酒も買ってきて豪華に振舞ってくれるので、特に困るわけではないが、時々空恐ろしくなる。
俺はワカさんがひたすら肉を切り分けるところを見るのに飽きて、食卓に乱雑に置かれていた新聞に手を伸ばした。まあ大したニュースはない。
そんな中で小さな枠に「ゼーヴォルフの男性の遺体が低地ラノシアに打ち上げられていた」というニュースがあった。遺体は外傷はなく、自殺ではないかと書かれている。
「……ワカさん」
「何」
ワカさんは切り分けた肉をフライパンにどんどん並べている。じゅ、と香ばしい音がして、どうやったって美味いだろうなと思った。
「それって何の肉?」
ワカさんは俺の問いかけにニコリとほほ笑むと「なんでしょう?」とだけ言った。
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かわいい男だったよ。嫁の愚痴ばっかり言ってさ。子どもと一緒に逃げやがったって酒場で騒いでたから、かわいそうだねって声かけて酒おごってやったらコロッと。酔いつぶれたところをそういう宿に連れて行って、男もイケる?って聞いたらイケるって言うから、好きなようにさせてやった。かわいかったな。奥さんと子供の名前を叫びながら、俺の頬をひっぱたいて、倒れ込んだところを首絞めてきた。最高に興奮したね。最高のクズ男だ!って。
締める手を剥がしてせき込んでたら、ああ!すまねえ!ごめん、ごめんよって言いながらでっかい手で俺のことをぎゅっと、さっき締めてた力はどこいったんだよ!?ってくらいやさしく抱きしめてくれて、頭撫でてくれて。つらかったね、家族のことなんて忘れちゃいなよって抱きしめ返して、そしたら泣くんだよ。赤ちゃんみたいでかわいい男!最高だったね。
そのあとも会ってはぶん殴られて、俺が鼻血だしてぶっ倒れたの見て、ああ!って泣くんだよ。そのたびに大丈夫だよって抱きしめ返してやるんだ。ノフィカ様みたいにね。そしたら男はまたわあわあ泣くんだ。かわいい、俺が守ってあげるねって言ってなだめてやった。本当に赤ちゃんみたいでかわいい愚かな男だったよ。
その日もさ、リンクパールが鳴って呼び出されて、俺すぐに行ったんだ。そしたらかわいい男がさ、がたがた震えてどうしようって言うんだ。どうしたの?って聞いたら、逃げてた奥さんと子供を見つけて、暴力ふるったら、奥さんに調理用のナイフを持ち出されて、襲われたんだって。そんでもってもみくちゃになって、気づいたら奥さんと子どもナイフで刺して殺してたんだって。
でさ、俺に助けてくれって言うんだ。かわいくて愚かな男だよな!わかったよ助けてあげるよ。俺はそう言ってさ、男に口づけて、毒飲まして。そんで死体を海に流した。よかったなあ!あの世で奥さんに会えたらいいな!って言ってさ。助けてやったんだ。えらいよな、俺。
でもさあ、まーたいなくなっちゃった。俺の好きになる男ってどうしてこうなんだろうなあ?なんかもう嫌になってめっちゃくちゃに料理すっかあって思って。そしたら市場にでっけえ肉があったから、ワインと一緒に買ってきたの。ほら、食おうぜ。ちょうどいい温度でずーっとあっためてやったから、ほら。綺麗なピンクだろ?あの男の肉かと思った?そんなわけないじゃん。俺はちゃんと愛して、助けてやったんだから!
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