未必の戀

猫の日こじつけニル主。
あまいの目指したはずが切なめに。

一年前の僕に会ったら言ってやりたい。と言うか、回転扉で目が合ったら伝えてやりたい。頑張って逆読みしろ。未来のお前の恋人はボスだ。マジか。向こうの僕が目を見開いて嘘だろどういうことだ説明しろよくやったって言うとこまで想像できる。そうだろうそうだろう、僕自身を褒めろ近い未来だ人生最良の日だ。
ある日ボスに呼び出されてお前は言われるんだ。恋人はいるのかって。いない、いません。──だって僕が好きなのはあなただから──ってお前は答えるんだ。心の声とともに。その後ボスは少し思考してから頷いて、お前が好きだ、ニール、俺をお前の唯一にしてくれないかって言うんだぞ。信じられるか告白の仕方までかっこいいよな流石ボス。でも僕は思考停止してぶっ倒れるんだ。そりゃそうだろう、憧れて焦がれて敬愛するボスからそんなふうに言われたらそりゃあ……倒れても仕方ないだろう? 何で僕? って思わず言っちゃうよな。いや仕方ないよ、だって今でも信じられないから。
彼を抱きしめる僕の腕、キスを交わす唇、ひたと見つめてくるダークブラウンの瞳。本当にあの瞳は僕を見つめているんだろうかって思ってるよ。分かってるよ。とうに気づいてるよ。重々承知している。僕の向こうの誰かを見つめているんだ、あの瞳は。いや、僕だけど、僕じゃないいずこかの僕。自分で自分に失恋した上に自分がライバルって何なんだ。きっと彼に消えない傷を残した僕。お前、どうせかっこいいことしたんだろう、彼を守って死ぬとか。何でだよ。何で分かんないんだよ、お前。優しい彼の心に癒えない傷を残したいずこかの僕を殴ってやりたい。殴り返されるだろうけれど。彼を守らずして何がお前自身だ、と。でも、〝僕〟は、彼と生きていたいんだ。ずっと、この先も、果てない未来も見知らぬこの先も。悲しい顔をさせたくない。だって幸せそうに僕の腕の中で笑うボスを見て、お前、死ねるのか?

……meow」
……
ふくよかな胸筋に埋まり、盛り上がる両胸の谷間を堪能していたらしい恋人が突然鳴いた。男は二人一緒に包まるシーツを持ち上げ、あまり可愛らしくない猫の鳴き声をあげた恋人を見つめた。
……どうした?」
気でも狂ったか、と続きそうな言葉に、ニールはイーっと歯を見せると不貞腐れて再度男の胸の間に顔を伏せた。我が物顔で乳首を弄り倒すその不埒な手に身を捩る。
「ンぅ、なん、あ、や、ちょ、にーる、おまえ、なに、どうした?」
「あなたの飼い猫になれたらいいのに」
「はぁ?」
……あなたの腕の中は世界一安全だから」
答えを待っても男は口を開かない。焦れてニールは顔を上げた。悲しげな顔をしていたら、傷つけてしまったら、後悔するのは結局ニール自身なのに、と切なく思う。過たず、男は困ったように微笑んでいた。
……そうでもない。すり抜けてしまった大事なものが、たくさんたくさんある」
……僕はここにいるよ。あなたの腕の中が一番居心地がいい。だから、ずっとここにいる」
ニールは男の胸に顔を伏せた。ふわふわの寝癖のついたニールの頭のてっぺんに、男が口付けるのを感触で察する。唇が離れる間際、小さくつぶやく、男の、声。
……嘘つき」