シュガーアンドビターアンド

バレンタイン小話し。topの嫉妬もいいけどbottomが嫉妬するのもすごく好き。あまいの。

華やかな美男美女。背の高いハンサムな男の方が、華奢な彼女の顔に頬を寄せる。楽しげに近距離で話す若い恋人たち。
ハンサムは彼女を見事にエスコートし、来訪者に向けて順番に挨拶を交わしていく。
周囲の人々が麗しき美男美女に見惚れてため息をつく。見上げる彼女の頬は紅潮し、とても可愛らしい。
……全くもって似合いだな」
小さな声で呟いたそれは誰に聞き咎められるわけでもなく、ころりと男の唇からまろびでた。
男は意味もなく視線を彷徨わせ、フルートグラスに唇を寄せ、自らの言葉に苦笑いを浮かべた口元を隠した。
自分は恋人を作って甘いひとときを経て、家庭を持つ、という未来が想像できない人生だった。世界を守ることに精一杯だったので。
大切な人は沢山いる。
守りたいものも沢山ある。
同性から色の付いた視線を向けられることは昔から。偏見はなかった。
けれど、その中で、何故ニールなのだろう。
男は場の空気に彩りよく映える二組のカップルに扮した年下の恋人を見つめ続けた。
それほど難しい任務ではない。貴族の御令嬢の護衛だ。ニールが恋人に扮して彼女を守り、男は少し離れた場所から全体を警戒しつつ警護にあたる。
──お上品な場って苦手なんだよね。
ニールの言葉が男の脳裏に蘇る。
──いやいやとんでもない。随分と様になっているじゃないか、彼女に微笑みかけられて鼻の下伸ばしやがって。
おっと、と男は再度引き攣り笑いを浮かべた唇を、今度はシャンパンを勢いよく煽ることで隠した。
不快な棘が心に刺さったままだ。
何故だろう、ニールだけが、こんな心持ちにさせる。初恋は甘いとか苦いとか。
嘘だ。
引き絞られるような痛みと苦しみと、そして愛おしさばかりじゃないか。
それを人は嫉妬というのだけれど、と我ながら詩人のようだと呆れたため息をついた男の元へ、彼女から離れたニールが駆け寄ってくる。すぐに男は上司の顔を取り戻す。
「状況は」
「異常なしだよ。あれ、父親の過保護で過剰な心配故だと思うよ。彼女が父親の後継者になることは以前から対外に公表されていたことだし」
「この後正式に発表されるんだろう? 彼女から離れるなよ」
「分かってるよ。でも少しくらい息抜きしてもいいだろ。愛想笑いばかりで疲れた」
彼女の周りを父親直下のボディガードが囲んでいる。恋人が飲み物を持ってくるフリをして一旦離れ、報告に来た、とニールは言う。ボディガードに囲まれた彼女はひどく退屈そうだ。
……早く戻ってやれ。レディの隣が寂しそうだぞ、色男。彼女、ずいぶん楽しげだったし。お前も」
ニールが虚をつかれた顔をして男を見つめた。
男は、あ、と思った。
わずか視線の揺らぎを見透かされた。
……らしくないこと言……え、うそなにまさかあなたそれ嫉」
「うるさい早く戻れ」
「戻らないよなにそれ今までそんなそぶり見せたことないじゃない見せて顔見せて」
「うるさいはなせばかあっちいけ」
両腕を掴んで顔を覗き込んでこようとするニールの顔を、男は手のひらで押し返す。
「いたたたたちょっと待って首もげる分かったから見ないから聞いて!」
なにを、と男がニールの顔からそっと手を外せば、周囲からは見えなかったろう、離れる寸前ニールが男の手のひらにちゅ、と口付けた。びくり、と慄き、男は急いで手を引く。
「楽しそうだった? うん、その通り、彼女との会話は楽しかった」
……
「楽しいさ、互いの恋人の自慢話だもの」
「は?」
「彼女上機嫌でさ。今日のお披露目パーティで後継者としてスピーチするんだけど、その場でカムアウトするんだって」
「カムア、え?」
「彼女の〝彼女〟、すごく綺麗で可愛くて格好よくて素敵なんだって。僕の恋人もおんなじって話したら盛り上がっちゃって盛り上がっちゃって」
──あれ、僕の〝恋人〟。
ニールの指差す先にいた男を見て、彼女は自らの両頬に手を当てた。
──素敵。なんとなくそんな気がしていたの。
「『お仕事とはいえ恋人役なんてやらせてごめんなさい』って。いい子だよね」
男は口を開けて閉じてちろりとニールの後方に目をやった。ボディガードに囲まれた輪の中、彼女がこちらに向かってウィンクした。
「あなたのそんな顔が見れただけでもこの仕事受けた甲斐があるね。ねぇ、もうすこし頑張ってくるから、あとで甘くしてね」
そう言ってニールは軽やかに身を翻した。
返す言葉もないまま、男は羞恥で頭を抱えた。