Twinkle Twinkle Little Star

お酒弱いプロタゴさん。プロタゴさんが消滅したら世界が滅ぶ説など好き設定詰め込み短文。というかイチャついてるニル主。モブ視点。

テラスの手すりから身を乗り出して、下を覗き込む人物に向かって僕は走り出した。
「は、早まらないでください〜〜!」
「ぅわ」
その人物の腰のあたりに体当たりをするも、びくともしなかった。
あれ? と見上げれば、手すりから身を起こしたその人は、僕の両肩を掴んで何事かと目をぱちぱちさせている。黒くて大きくて、キラキラした星みたいな瞳が落っこちそう。僕は無意識に両手を差し出しそうになった。いやいや違う、何してるんだろう、僕。
見上げればその人は、ふ、と口を綻ばせたと思ったら、笑い出した。
あ、あれ?
「と、飛び降りようと、してたん、じゃ?」
僕の言葉に再度その人は笑い出した。
うわ、僕の勘違い。
がちゃ、とテラスに続くガラスのドアが開いた。ブルーグレーのタキシード、前を緩く開いて蝶ネクタイを解いて首から下げたまま。一見するとだらしなく見えそうな、けれど着崩したタキシードの着こなしがこれほどに似合う人もあまりいないだろう、と見惚れてしまうほどのハンサム。ブロンドを撫でつけた彼は、両手にシャンパングラスを持って、僕と笑い続けるその人を見て眉を跳ね上げた。
……なにごと?」

上流階級のパーティだ。御年八十八歳を迎えるロードの誕生日。盛大に開かれているそこには貴族や経済界の重鎮が揃い踏みだ。たまたま僕は友人の伝で給仕として参加している。社会勉強だ。普段の生活では滅多にお目にかかれない人々の交流は、パーティ以上に華やかで僕は興奮しっぱなしだった。
空気に当てられて汗をかきながら必死に人々の間を縫って移動していると、ふと会場の外、テラスに繋がる大きなガラス戸から、その人が見えた。
背筋が張った堂々とした後ろ姿。華やかな会場とは一線を画し、夜を見つめている姿が印象的だ。不意にその人物が手すりに手をかけ、身を乗り出した。勢い、その人の片足が上がる。僕は慌ててテラスに飛び出し、冒頭の叫びと相成った。
「飛び降りてしまうのかと……申し訳ありませんでした!」
笑い続けるその人の横にハンサムが並ぶ。シャンパングラスを差し出しながら、首を傾げる。
「このひとツボに入ると止まんないんだ。しばらく待って」
よく考えたら盛大なパーティでテラスから飛び降りを計画する人なんていないだろ。冷静に考えて僕は恐縮しきりだ。
「いや、すまない……っ、ふふ、俺が紛らわしい真似をしたから」
大きな瞳に涙を浮かべるほどに笑わせてしまったようだ。
隣のハンサムがシャンパングラスを渡し、空いたその手でするり、と彼の目尻を撫でた。
おっと。そろそろお邪魔かも。退散した方が良さそうだ、と僕は悟り、再度謝罪した。
「お客様に対して飛んだ無礼を……
「というか、あなた何してたの」
僕の言葉を遮って、ハンサムな彼が水を向ける。
「いや、池に映った星が綺麗で」
こちらはぴっしりと着込んだタキシード。褐色の肌に、左耳のダイヤのピアスが輝いていて美しい。笑んだまま述べたその内容は随分と可愛らしいものだった。同じ感想を抱いたらしいハンサムの目が和らぎ、苦笑した。
あ、僕本当にお邪魔だな。
「その、勢いよく覗き込まれていたものですから、思わず……
早まらないでください、と言って飛びかかったものの、随分と鍛えているらしい彼は、そういえばびくともしなかった。体幹すごい。僕の言葉を聞いた彼は、シャンパンを一口含んでひた、と僕を見据えた。
「大丈夫。飛び降りなんて絶対にしない。俺が死ぬと世界が滅んでしまうから」
面白いことを言う人だな、と思った。思わず隣に立つハンサムに目線を流せば、なんとも言い難い顔で彼を見つめていた。
「じゃあ、僕の生殺与奪権もあなたが握っているんですか?」
ジョークに合わせて僕も乗ってみた。
「そう、君の命は俺のもの」
人差し指で、つ、と心臓のあたりを指差され射抜かれた。
うわぁ。
「うわぁ」
隣のハンサムが僕と同じ声を漏らした。
「あぁ、これじゃ悪役の台詞だな」
苦笑する目の前の人に、違うそうじゃないって伝えたい。そんなことされたらあなたに魅了されてしまう人が何人いることか。この人自分の魅力を分かっているのだろうか。いや分かってないんだろうな。
多分恋人らしい隣のハンサムの顔はストーンフェイスに近い。ハンサムの無表情は迫力がある。
気が気じゃないだろう、池に映った星を覗き込んで落ちそうになりながらも、自分が死んだら世界が滅ぶ、と魅力的な唇で紡ぐ人が恋人だなんて。
「ニール?」
「人たらしここに極まれりって感じ」
咎めるような、責めるようなハンサムな恋人からの詰り。
「クロズビー卿があなたを探してた」
今日の主役の名前が出たことで、飛び降り未遂の人の人たらし力たるや、と僕も察する。
ハンサムの言葉に口を尖らせたその人はシャンパングラスの縁を噛んだ。
「あの人いきれは居心地が悪い。これ、せっかくお前がもってきてくれたんだ。もうすこしここにいよう。なぁ、にーる、いけのほしがきれいなんだ」
……ちょっと待って、もしかしてあなた相当酔ってる?」
無邪気に微笑み強請る、彼の人のカマーバンドが巻かれた腰にハンサムの手が周る。
うん、僕本当にそろそろお暇します。
彼らの顔が近づく寸前、賢く身を翻した僕は仕事に戻った。
どうぞごゆっくり。