Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
水樹
2024-10-22 20:20:23
2333文字
Public
Clear cache
眠り姫は目覚めない
眠り姫(眠れる森の美女)をテーマに
今回のとは違う結末もあるかもしれない
「おはよう、アオイ」
「顔色は
……
うん。良さそうだな」
「今日は天気いいから、窓開けとくな」
爽やかな風が頬を撫でて、カーテンを揺らす。その風が彼女の髪を乱してしまったので、そっと手櫛で直してあげた。
彼女は、アオイはまだ、目覚めない。
あの日から、ずっと。
最終学年。ブルベリーグチャンピオン戦。絶対に勝つんだって、勝って俺の気持ちさ伝えるんだって意気込んで、周到に、念入りに準備した、のに。
「
――
勝者、チャンピオンアオイ!」
「
……
っ、やっぱアオイは、わや強いな!」
悔しい。楽しかったけど、すごく悔しい。
「
……
スグリ」
「うん?」
「あの、あのね。私」
アオイの手が、俺のと重なる。アオイ、緊張してる? 何で?
「わっ、たし! スグリのことが! 好きです!」
「へっ」
「私の、恋人に! なってください!」
「えっ」
……
幻聴? アオイが? 好き? 誰を? 俺を?? 恋人? 誰が? 俺が?? え? それって、つまり? ええっと??
「
……
両、思い
……
?」
「スグリ
……
?」
「わや
……
」
「わっ!?」
添えられるだけだった手を握って、引き寄せた。胸に飛びこんでくる重量で、夢でも幻聴でもないと知る。気持ちがふわふわして落ち着かない。だけど、返事、しないと。
「
……
っだ」
「
……
だ?」
「大事に、する
……
! よろしく、お願いしますっ
……
!」
「っ
……
えへへ、うれしい」
「ーーーーっ!!」
可愛すぎる!!
それからしばらく
――
アオイがパルデアに帰ってからも
――
学園内は俺達の話でもちきりだった。恥ずかしいのでやめてほしい。カキツバタが卒業しててよかった。
『ところでスグリは、卒業したらどうするの?』
「えっと、それは
……
」
『それは?』
「
……
アオイさ驚かせたい、から。まだ秘密」
『えー? ふふ、わかった。じゃあ、楽しみにしてるね?』
「うん。楽しみにしてて」
――
それが、アオイとした、最後の会話だった。
その連絡は突然で、ネモもボタンも慌てていた。
「アオイが、行方不明
……
!?」
「うん。エリアゼロの調査に行ったきり、戻って来ないらしいの」
「それ自体は別に珍しくもなんともないんだけど。今回はさすがに長すぎるって話になって。ロトムハッキングしようとしたら、繋がらんくて」
「お、俺、探しに
……
!!」
「ストーーップ! 二次遭難しちゃうよ!?」
「でも!」
「それにスグリ、まだチャンピオンランクじゃないでしょ。トップの許可が降りないよ」
「だけど!」
「落ち着け。今、リーグ総出で探してるから。じき見つかるはず
…………
お」
「ボタン?」
「
…………
アオイ、見つかった、らしい」
それにしては、表情が暗すぎる。
その理由を知ったのは、二日後だった。
「昏睡、状態?」
「ん。ポケモンの、ねむり状態に近い、らしい」
「らしい、って、そんな曖昧な
……
」
「しょうがないでしょ。あそこはまだまだ未知の部分が多い。うちらが知らんポケモンやら技やらがあったってなんらおかしくない」
「そんな
……
」
「カゴのみや眠気ざましの類は無効だったって。
……
一応生命活動はしてるから、栄養さえとってればまあ、死ぬことはない、みたい、だけど」
「いつ、起きるか、は」
「わからん。今日かもしれない。明日かもわからない。
……
ずっと、眠ったままかもしれない」
「
……
」
それから、アオイはリーグ直営の療養施設にいることを教えてもらって。ジムを攻略しつつ、アオイの元へ、毎日通った。そして。
「
――
おめでとうございます、スグリさん。今、この時からあなたもチャンピオンとして、パルデアを照らしていってくださいね」
「
……
はい」
嬉しいはずなのに、喜べない。
一番に報告したかった人は、未だ眠ったまま。
「アオイ、聞いて? あのな、俺な? パルデアの、チャンピオンになったよ」
「アオイさ驚かせたくて、内緒にしてたんだ。にへへ、びっくりした?」
「将来的には、四天王さ任せるかもって、言われたんだ。そん時はアオイが、チャンピオンかな」
「ネモは
……
一番手、やりたそうだよな。ほら、ネモはバトルジャンキー? だから」
「
……
アオイ」
「
…………
アオイ」
「目
…………
覚ましてよ
……
」
室内に響く電子音。規則正しく上下する胸。手に触れれば、ちゃんと温かい。なのに。
……
なのに。
どうして。
どうして。
アオイはいまだ、目を、覚まさない。
「
……
また来るな。おやすみ、アオイ」
ほんのり開いた唇に、そっと口付ける。何度も何度も。祈りを込めて。
毒りんごを食べてしまったお姫様も、魔女に呪われ、眠ってしまったお姫様も、王子のキスで目覚めたけれど。現実はどうも、おとぎ話のようにはいかないらしい。
……
俺は、アオイの王子様に、なれない、の、かな。
いや、まだだ。可能性がある限り、諦めるわけにはいかない。
明日はきっと、目覚めると信じて。いつか必ず、目を覚ますと信じて。
俺は今日も、俺にできることをするだけだ。
長い電子音が、嫌になるほど耳に響く。
誰かが泣いている。誰かが喚いている。俺はただ、呆然と立ちつくしている。
……
これは夢だ。悪い夢だ。こんなの信じない。夢ならさっさと覚めてくれ。
握りしめた手のひらに爪が食い込んで、じくじくと痛む。夢でも、痛みって、感じるもの、なんだな。
……
知らなかった、な。
お姫様は、決して覚めることのない深い、深い眠りにつきました。
大切な、友人達を残して。
大切で大好きな、王子様をのこして。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内