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シノハラ
2024-10-22 12:53:30
1318文字
Public
星+丹恒
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クソが世案件に出くわして親友を吸って色々とごまかす星
たまにこういうことがある。丹恒は彼女に気づかれぬよう、小さく息を吐き出した。
挨拶の一つもなしに入ってきたのが星であることは分かっていた。丹恒は事実上アーカイブ室の主であるわけだが、部屋に入りたければ主に挨拶をすべしなんてルールはここにはない。
お調子者を気どり、ぱっと火がついたように話すことがあるからか彼女の気質か暗いと思う者はいないが、実のところ星はあまり口数は多くない。だから、最初の時もそういう気分なんだろうくらいにしか思わなかった。そのせいで、背中にぽすんと振動が伝わってきた瞬間に酷く驚いてしまったのだが。
「丹恒は良い子だね」
肩口に額を押し付けながら、やたら優しい声音で星は告げる。そのまますりすりと頬ずりしながら、彼女は丹恒の胴に腕を回して抱き締めてきた。ざっくりとした服装を好むせいか余計に目立たなくなっている胸も、こうも密着されると存在を主張してくる。
最初の時も苦言を申し立てたが、本人曰くなのくらいに育ったら気を付ける、とのことである。今の自分の胸も大事にしてほしいのだが、本人がそれどころでないことも今となっては分かってしまっていた。
「
……
何かあったのか?」
「んー
……
来月話そうかな」
こういう時、彼女が原因を話してくれるのは三回に一回が良いところだ。この前のだけれど、とぽつぽつと零されるそれはどれも薄暗がりにあるのが相応しい代物ばかりである。曖昧にぼやかされたそれが、事実とは多少ずらされていると感じる事も少なくない。
一人でふらりと訪ねた場所で、彼女はそういう事態に巻き込まれる事があるようだった。もちろん、アーカイブに記録してほしいとほくほくと思い出話を語る事の方がずっと多いが、彼女が立ち会った物語が彼女の中だけに納められる確率が丹恒にも分かってしまう程度には珍しくないとも言える。
えらいねえ、と丹恒を褒める星の覇気の欠片もない声に、酷く遣る瀬無い気持ちになる。世界の全部が嫌いになっていてもおかしくないのに、私達の事を好きでいてくれるんだから。いつだったかそう疲れたように笑った星は、世界の全部を嫌いになってしまいそうだったのかもしれない。
この宇宙ではそういう出来事は特に珍しいことでもない。かけがえのないうつくしいもので満ち満ちているのと同時に、誰一人逃れ得ないような大穴がそこここに口を開けている。その一方に多く立ち会おうとすれば、もう一方が大きく踏み出そうとした爪先に引っかかるようにこの世界はできていた。
そうやって足元を取られてどろどろになった足で、彼女は時折丹恒の根城にやってくる。そうして丹恒を抱き締めてから、しばらくアーカイブ室に留まるのだ。
夜遅くまで隣にいた彼女は翌朝には何事もなかったようにけろりとしているように見える。それでも今夜、丹恒の傍でひっそりと過ごす彼女がいなくなるわけではない。
自身の胴に触れている腕に手のひらを添えると、ほんの少しだけ丹恒を捕らえる彼女の腕が強まった。いつか彼女がこの列車を降りるとき、この腕の中にあるものが綺麗で忘れがたいものばかりだといい。そう願いながら丹恒はほんの少しだけ体の重心を後ろに倒した。
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