すっかり冷たくなった冬のにおいに、十二月を感じる。帰り道の公園では、ゆうやけこやけのメロディーが鳴っていて、私よりもずっと幼いこども達が互いにまた明日を叫んでいた。
一年後には高校受験を控えている私は、今日も一度帰宅してから塾に向かう。母が強く勧める学園は芸能学科があって、特に将来の目標もない私は、言われるがままその学科を目標にしている。
マンションの冷凍庫には、きっと電子レンジで温めるだけの夕食が増えている。いつも忙しそうにしている母の手料理を食べたのは、何月が最後だったっけ。
それが不満だとか、言うつもりはない。どうせ言ったって聞いてくれないのだし、そんなことより私の仕事量をセーブしなくちゃいけないことを残念に思っているであろう彼女の愚痴を聞きたくもなかった。
「……さぼろうかな」
誰に言うでもなくそう呟いて、無理だ、と思い至る。私にそんな度胸は到底なくて、ため息をつく。
何気なくあたりを見渡せば、こども達の姿はすっかり居なくなっていて、ぽつんとブランコが揺れている。
「……」
この公園は、あの人と初めて会った場所だった。
自分をクマさんと呼んでほしいと言った彼との三日間は、今でも覚えている。ずいぶん先の未来からやってきたのだというその人は、未来で死んでしまう私を助けたくて過去へと飛んだのだと教えてくれた。
綺麗なウェディングドレスも、きらきらとひかる指輪も、おいしいクリームシチューも、全部私の知らないものだった。だけどそれが、どれほどかけがえのないものかを知った時、胸の奥がひどく痛かった。
――それは今だって、痛いままで。
ブランコに座ってきぃきぃと漕いでみる。もしかしたら、また名前を呼んでくれて、おおきな身体がのっそりと現れてくれるんじゃないかと思って。
ずっと迷子の私を、探しに来てくれるんじゃないかと思って。
「……馬鹿みたい」
真っ赤に燃える瓦礫のなかで、誰よりも痛かったはずなのに、わらってくれた姿が忘れられない。
『おれの初恋を奪ってね』
そう思ってくれたのなら。どうか。
「はやく迎えに来て」
ひとりでこぼした涙が、スカートを濡らす。ゆびさきがつめたくて、クリームシチューのあたたかさが恋しかった。
――二度目の初恋の日を迎える初夏の季節は、まだ遠くに在る。
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