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天(遅咲)
2023-11-30 16:26:03
1605文字
Public
かいまほ
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初雪心
かいぶつたちとマホラカルト、ネタバレ。鬼のこどもの頃の話。
ひどく冷たい、冬の朝だった。その日は教会で、きっと誰よりも一番早く目が覚めたのだと思う。
窓の向こう側はまだうっすらと夜の色が残っていて、けれどちらちらと朝の光が昇っている。俺はパジャマのままで分厚い上着を羽織って、年下のルームメイトがまだ眠っているのを起こさないように、扉を閉めた。
廊下のひんやりとした空気を乗り越えて、玄関の扉を開ける。その向こう側は、まっしろの世界だった。
真夜中のうちに雪が降ったのだという事実を知って、瞬きをする。新聞の配達もまだ来ていないらしく、敷地内には足跡ひとつついていない。
ブーツを履いて、そうっと雪を踏みしめる。さくりと音がして、なんだかそれがとてもきれいなものに思えた。
自分より年上のこどもは、皆この教会を卒業していったから、いつも年下のこども達がはしゃいでいるのを眺めていることが多かった。けれど誰も居ないのに、結局なんでも物を壊してしまう俺は、遊び方というものがよくわからないままだったから、雪だるまを作るといった発想もなくて。
さくさくと、雪を踏みしめて朝の散歩をする。シスター達が手入れをしている花壇の上にも雪が積もって、十字架の掲げられた屋根も白に染まっている。はらはらと朝日がちらつく様がまぶしくて、吐いた息のしろさもきれいだった。
夜が消えかかっていくそれがすこしだけ寂しいような気もして、けれど朝が来るのがうれしい気がしたから、暫くそこに立ち尽くしていた。
「景正?」
声をかけられて振り向けば、この教会で一番若いシスターが驚いた様子でコートを羽織って佇んでいた。
「こんなに朝早くどうしたの」
「目が覚めたから、散歩」
現状を伝えれば、そっか、と彼女はわらって俺の傍へと歩いてくる。俺よりもすこしばかり背の高い彼女が寒いね、と続けて、おおきく息を吐く。
「結構積もってるね。昨日は全然降ってなかったのに」
「ん」
俺がこくりと頷けば、そうだ、と彼女はなにかを思いついたように庭先のテーブルに積もった雪を集め始める。
「冷たそう」
「平気よ。見ててね」
細いゆびさきが雪を固めて、南天の赤い実と葉を装飾にする。じゃーん、と言いながら俺に見せてくれたのは、雪でつくられたいきものだった。
「どう? なにかわかる?」
「うさぎ?」
「正解!」
じいっと兎を見つめながら答えると、彼女はうれしそうに笑む。そうして、ほら、と俺を促す。
「景正も作ってみようよ。大丈夫、何回でも作り直せるから」
壊したらどうしよう。そんな俺の不安を拭うように、彼女は言った。
力加減に注意しながら雪を固めて、最後に赤い目と緑の耳をそっと付ける。うまく、できたような気がした。
「上手上手! すっごくかわいい子ができたじゃない!」
にこにこと褒めてくれるのがうれしくて、胸の奥がほんのりと暖かくなった感覚がする。彼女の雪うさぎと並ぶ俺の雪うさぎは、一回り大きいだろうか。
けれど、暫くしてなんだか妙に寂しい気持ちになってしまったから、口をつぐむ。
「どうしたの?」
「
……
溶けるのが、かわいそう」
正直な気持ちを告げれば、ああ、と彼女はやわらかく頷く。そうして、俺の頭を撫でた。
「そうね。いつかは溶けてしまうから、可哀想よね。でも、それまではこの子達は此処に居るわ」
「
……
ん」
いのちを終えるべき時まで生き続けて、最期を迎えたあとには、幸福な天国へとゆける。それがこの教会で教わったことなのだから、素直に受け入れる。
「景正につくってもらったこの子も、きっと幸せよ」
「ん」
朝日に照らされた黒い長い髪も、やわらかく微笑むその顔も、きれいだと思った。彼女が、俺の名前を呼ぶ。
「景正、誕生日おめでとう」
それが、十二歳になった朝のことだった。
彼女が自らいのちを絶つのも、俺があいつらに罰を与えにいくのも、まだ先の話。
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