ふわりと口が開き、体が膨らむ。ぱちっと瞬きをした逢さんは自分が欠伸をしたことに後から気がついて手の甲を唇に当てた。言葉を探すように彷徨った視線は俺のところに戻ってくると結局何も言わずにむっと照れ隠しの拗ねた顔をするから、俺はたまらず笑みを浮かべて涙が滲んだ逢さんの目元をそっと指先で拭った。
「もう寝ましょうか。続きはまた今度」
「……あと少しだろう」
「はい。でも、最後までちゃんと見たいでしょう?」
「まだ起きていられる。こどもじゃないんだから寝落ちなんてしない」
「それなら逢さんが起きていられるあと少しの時間は俺にください。寝落ちしないで、付き合ってくれますか?」
無言のままじっと俺を見つめる逢さんの視線を受けた俺はリモコンに手を伸ばして見ていた映画をテレビの電源ごと消し、途端に静かになった部屋の中でほんの数センチ、逢さんとの距離を詰めた。さっきまでは眠気に負けそうなとろんとした目をしていたのに、俺が触れる前から赤い瞳はほのかに熱を持っている。手のひらを頬に当てるといつもより高い彼の体温が俺の手をあたためた。
「寝室まで、連れて行ってもいいですか?」
「……」
「ちゃんと教えて。言わなくてもわかるけど、言ってくれると嬉しいから。今日はあなたの言葉で聞きたいです」
「……はやく、つれてけ」
期待通りの言葉にありがとうございますと微笑んで逢さんの足元に跪いた。掴んだ手の指先にキスをして見上げると逢さんは濡れた瞳で俺を見下ろしていた。
早く柔らかいベッドの上で熱い体を抱きしめて、その唇にキスをしたい。胸の中で渦巻く欲望を顔には出さず、早くしろと視線で急かす逢さんの手を掴んだまま立ち上がった。もう片方の手も取り両手を引っ張れば逢さんはソファーから立ち上がり、引かれた勢いのまま俺にぽすんとぶつかってくる。服越しの体温が心地よくて思わずぎゅうっと抱きしめた。
「由鶴、のんびりしてると本当に寝るぞ」
「ふふ、じゃあ急ぎましょう」
抱きしめた体をちょっとだけ離して逢さんの顔を覗き込む。眠さを我慢して尖る唇にちゅっとキスをして、もう一度手を掴んだ。指を絡めて手を繋ぎ寝室へと逢さんを連れて行く。たった数秒で着いてしまうのが嬉しいけれど物足りなくて、手を繋いだままベッドにもつれ込んだ。
ふわふわの布団に埋まりながら唇をくっつけたり離したり。ぽかぽかと幸せな時間を楽しんでいると、逢さんがキスの合間に「ゆづる」と俺の名前を呼んだ。はい、と返事をして唇を離し、代わりに頬や瞼にキスを落とす。どうしよう、逢さんの、全部に触れていたい。
「キスもいいが、ほんとうに、寝てしまう」
「あ……。そうでした。眠いからですかね、今日の逢さんは温かくて、ずっと触ってたい感じで……」
「いつもの俺は、そうじゃない?」
「……いいえ。いつも、ずっと、俺はあなたに夢中です」
「ふ……。だが、由鶴」
「はい」
「俺もおまえに触れたい。でも、服が邪魔だな?」
「っ、あ、の」
眠気混じりのとろんとした瞳のまま、逢さんの手が伸びてきて俺のシャツのボタンをパチッと外した。上からひとつ、ふたつ、と緩慢な仕草で外されて、熱を持った肌が晒されていく。
「あいさん」
「うん? それで、おまえはまだ、キスだけか?」
「……っ、失礼します」
繋いでいた手をそっとほどき、焦って引っ張ってしまわないよう心がけながら手早く逢さんの服を脱がしていく。されるがままで俺を見上げる逢さんはやっぱり結構眠たいみたいで、もう手を動かすことはなく、俺は逢さんの服を脱がし終えてから中途半端に乱された自分の服も脱ぎ去った。寒くないように布団を被り、前髪が横に流れて露わになっている逢さんのまぁるい額にキスをする。
「逢さん、まだ、起きていられますか?」
「……おまえ次第だ」
「ですね。それじゃあ寝かせないように頑張ります。あ、でも寝たい時には言ってくださいね。無理をさせたいわけではないですから」
「ああ。限界が来たら言う」
「ちなみにあとどれくらいですか?」
「どうかな。キス、深いやつでなら目が覚めるかも」
唇の合間から赤い舌を覗かせた逢さんに煽られるままに俺は逢さんにキスをした。きっと逢さんが、世界で一番、俺の扱いがうまい。夢中でキスをする俺の背中に逢さんの手が回り、指先が背骨の凹凸を数えるようにゆっくりなぞった。ゾクゾクと体の奥から震えて肌が粟立つ。はっと吐いた熱い息を逢さんが飲み込んでより深く舌が絡んだ。
「あい、さん……! もうすこし、ゆっくり」
「由鶴、いつもみたいに丁寧じゃなくていいから、早く挿れてくれないか」
「っ、いや、です……。まだ寝ちゃヤだけど、逢さんのこと大事にさせてください」
「……、それなら、とびきり愛して、寝られないくらい気持ちよくしてくれ。できるか?」
返事の代わりに唇を塞ぎ、下の方へ手を伸ばす。いつだって愛しているけれど、今日はいつも以上に愛を注ごう。寝ることができる時にちゃんと寝てほしいとは思う。でも、今だけは、まだ寝ないで俺を見つめていてほしい。
こつんとぶつけた額を擦り合わせて至近距離で見つめた瞳は俺を映すと優しく笑んだ。眠さで緩んだ顔も可愛いけれど、ごめんなさい、まだ寝かせられません。絡まって触れ合う舌も、手も、いつもより熱いのが逢さんなのか俺なのか、もうどっちか分からなかった。
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